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独行法反対首都圏ネットワーク


NHK あすを読む(2003年7月9日放送)

国立大学法人化への課題

早川信夫解説委員


 来年4月から、全国の国立大学を国の組織から切り離して、国立大学法人と
いう新たな組織に移行させるための法案が、今日国会で成立しました。審議の
終盤で、大学への国の関与が強まるのではないかとする反対論がにわかに高ま
りまして、難産の末の法案成立でした。今夜は、9カ月後に迫りました国立大
学の法人化の課題について考えたいと思います。

 国立大学の法人化は、国の行政組織の一部にすぎなかった国立大学が、大学
ごとに法人として独立した存在になります。これまでは、自治は認めつつも、
国立大学全体の舵取りは国がめんどうをみてきました。保護者頼みで自分の足
で歩かない大学を、自分の責任で歩かせ、たくましく育てようというものです。
お金の使い道について縛りが緩められまして、そのかわり大学ごとに収支が問
われます。自分でやりくりしなければなりませんけれども、自分で儲けたお金
は使えるようになります。そのために、国がああしろこうしろという、いわば
事前関与型から、事後チェック方式に改めるとしているのが大きな特徴です。

 法案審議が参議院に舞台を移してから、大学の自治を認めるというのは建前
にすぎず、本音は国の関与を強めることではないかという議論が高まりました。
大学が作ることになっています6年間の中期目標と中期計画をめぐって、文部
科学省が法案審議前から各大学に作成を指示したではないか、そうだとすると
事前関与にあたるのではないか、という追及がなされました。文部科学省は、
大学側からの求めに応じて参考資料を作っただけで、指示をしたわけではない
と答弁しましたけれども、野党側はこれに納得しませんで、審議は一時中断し
ました。その後遠山文部科学大臣が、国会審議前に文部科学省が資料を作成し
たことが指示ととられたことですとか、そのことが国会軽視にあたると指摘さ
れたことにたいしまして、お詫びをして収拾が図られました。結局与党の賛成
多数で可決されました。

 国立大学法人とはどういうものなのか、改めてみていきたいと思います。一
つは学長権限の大幅な強化です。学長を中心にした役員会が予算や組織といっ
た重要な事項を決定いたします。役員会は学長と学長が任命した理事からなり
ます。教授会の決定をとおさなければ何も決まらないという方式を改めますこ
とで、大学は議論ばかりで改革が進まないと批判されてきたことに応えようと
いうわけです。役員会を支えるために経営面は経営協議会、教育研究の面は教
育研究評議会という組織が設けられます。

 二つめは外部パワーの導入です。経営面で学長を支える経営協議会には、学
外の有識者を半数以上、また役員会にも必ず学外者を入れることを求めていま
す。大学が苦手としています財務や労務といった面に外部の専門家を招きいれ
ることで、活性化をねらっています。

 三つめですけれども、能力主義の徹底です。そのために教職員は非公務員と
するとしています。公務員という縛りがとれますことで、外国人を学長にする
こともできますし、教授がビジネスマンを兼ねるといったこともできるように
なります。

 四つめですけれども、国会で大きな議論となった、事後チェック方式への移
行ということです。大学はみずからどういう大学を目指すのか、6年間の中期
目標と中期計画を立てて、これをもとに最終的に文部科学大臣が決定します。
この計画にもとづきまして、予算が配分されます。そして6年後、目標と計画
がどれだけ達成されているのか、第三者評価機関によりまして評価がなされま
して、その結果に応じてその次の予算配分が決まります。

 これによって国際的に競争力のある大学をつくろうというのですけれども、
国会審議で浮かび上がってきましたのは、文部科学省による大学への介入とい
う古くて新しい議論です。

 ひとつは中期目標や中期計画の作成をつうじて大学の自治に口出しをしてく
るのではないかという心配です。大臣が中期目標を示し中期計画を認可すると
いう、文部科学省の縛りがはずれていないことが重くのしかかっています。中
期計画にもとづいて国から交付される運営費が左右されるからです。中期計画
は10月に設けられます予定の第三者評価機関の評価を受けることになっている
のですけれども、どういった基準になるのかがまだはっきりしません。予算に
絡んできますので、大学にとっては気が気でありません。

 もうひとつは、人事をつうじた介入への心配です。法律によって、大学によっ
て役員会を構成する理事の数が2人から8人と決められまして、その数は合計
406人になります。外部の人材を登用するという法律の建前が、官僚の天下り
ポストになって介入につながるのではないかと心配する声が上がっています。
これらの心配に、どういった対応が求められるのでしょうか。三点挙げたいと
思います。

 まず第一ですけれども、情報の透明性の確保です。文部科学省の介入の危惧
を解消するためには、情報をできる限りオープンにすることです。中期計画を
評価する第三者機関が、どういった基準で大学ごとの評価をしたのか、その議
論についての情報公開が求められます。文部科学省は大学が出してきた原案と
議事録は公開するとしていますけれども、原案のどこがどういう理由で変わっ
たのかを明らかにする努力を求めたいと思います。また公の席ではない、いわ
ば机の下で指導が行われないように、大学側から不服を申し立てられる場、あ
るいは堂々と反論できる場が必要かもしれません。

 第二ですけれども、これまでもこの時間で繰り返し述べてきたことなんです
けれども、大学が一体となった取り組みの必要性です。国立大学の学長の中に
は、教職員の抵抗感があまりに強くて、来年4月のスタートに間に合わせるの
がやっとだ、学内の一体感をつくるのはそれからだ、といった声も聞かれます。
そんなことをいっている段階ではないように思います。事務職員が大学を教授
たちと同じように動かしているのだと意識できるようにすることが必要です。
有能な事務職員を教授並みに遇することが考えられます。

 第三の点ですけれども、誰のために改革するのかということを再確認するこ
とです。どうもこれまでの議論は、大学関係者にとっての大学をどうするかに
とどまっているように感じます。大学にとって顧客となります学生とその父母、
そして地域のニーズをどうくみ上げるかを考えてほしいと思います。学長の中
には法人化したら授業料を値上げしなければならないと考える人もいるようで
す。授業料値上げといったことは、軽々しく口にしてほしくありません。どう
してもという場合には、その根拠を示して堂々と説明する責任が問われます。
万一そういう事態がおきたときには値上げをした分だけよい授業をするのだと
覚悟を求めたいと思います。

 国会審議の影響で、6月をめどとしていました大学ごとの中期目標と中期計
画の作成はこれからになります。いかに準備をしてきたとはいいましても、作
業の遅れが気になるところです。私立大学の幹部の中には、国立大学のなかに
法人化への抵抗感が強いことを、自立への恐怖によるものだと指摘する声さえ
あります。いきなり私立大学にされるわけでもないのに、なぜそんなに騒ぐの
かということになるのでしょう。大学同士の競争の時代が幕を開けます。これ
からの取り組み方次第で、来年4月に大きな差がつくことになります。あと9カ
月、残された時間を考えますと、大学にとっての真価の問われる夏になりそう
です。それでは今夜はこれで失礼します。