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独行法反対首都圏ネットワーク


みなさま

 本日、日本教育法学会有志声明の会として、事務局長名で以下のような要望を全議員
にメールにて送信致しました。

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参議院議員のみなさまへ

   国立大学法人法案など関連六法案の徹底審議を求めます

                     2003年7月9日  

                   日本教育法学会有志声明の会
                    事務局長 植田健男(名古屋大学)

 昨日、参議院文教科学委員会において、与党三党の賛成多数により、国立大
学法人法案等が可決されました。国立大学法人法案など関連六法案は、本日午
後の参院本会議で可決、成立の見通しであると報道されています。

 文教科学委員会での採決に際して西岡議員を除くすべての委員の賛成により
付帯決議がなされましたが、それは23項目にも及ぶ膨大な中身を含んだもの
でした。今回の付帯決議は、衆議院文部科学委員会が決議した付帯決議よりも
長文かつ詳細なものとなっていますが、先に、私たちが文教科学委員のみなさ
まに宛ててお送りした「国立大学法人法案審議についての要望」(2003年6月9
日)にも述べたように、付帯決議による法文の意味の限定という行為は、国民
代表によって構成された国会が定める「法律」によって行政府の活動を拘束す
る、「法の支配」という民主主義の基本原理と矛盾があることを指摘せざるを
得ません。
 付帯決議によって法律の欠陥を修正しようとしても、現実には、付帯決議に
よって加えられた修正は、法律ではないがゆえに、法の執行の段階で考慮され
ることなく、修正としての意味を持たない場合が多いのです。付帯決議によっ
て国民代表の意思が法律の執行段階で反映されると考えるのは幻想です。

 法案の欠点あるいはそれに対する強い疑念は、立法府による法案の修正によ
ってこそ除去されるべきものです。付帯決議が長文または詳細であればあるほ
ど、法それ自体の持つ深刻な欠陥を立法府が認識していながら、それを放置し
たことを意味し、立法府による自らの責任の放棄に他ならないと考えます。
 今回の23項目にも及ぶ膨大な中身を含んだ付帯決議は、もしも、この法案
が成立した場合、現時点で既に濫用がほぼ確実に予想される23もの事項があ
ることを意味しています。

 与党の委員も全員がこの付帯決議に賛成していますが、もしも、本気でこの
ようなことを心配しているのならば、この内容に即して法案を修正すべきでし
た。その努力を、回避して、結局は、委員会で十分に審議を尽くさないままに
可決してしまったことは、まさに立法府としての本来の職務の放棄を、自ら後
世に向けて証言したものとなっています。

 ご案内のように、衆議院の文部科学委員会の審議では多くの論点を積み残し
たまま、また、具体的な資料も十分に提出されないままに委員長裁定で採決さ
れ、参議院に送られました。それにもかかわらず、本来の会期であった6月1
8日までに本法案は成立しませんでした。その後も審議の進行とともに、ます
ます疑惑が拡大してきているのが現状です。
 参議院の文教科学委員会では、審議がたびたび中断した挙げ句、ようやく1
6日ぶりに再開された委員会も遠山文部科学大臣の「お詫び」に始まり、その
後も四回にわたって「お詫び」と訂正が繰り返され、その後も、しばしば答弁
不能状態に陥るなど、実質審議とはほど遠い状況にあります。「十分な審議と
キチンとした答弁がなされた場合、採決に入る」という理事懇談会の確認を踏
みにじって採決が強行されました。

 参議院は、「良識の府」の名に恥じることのないよう徹底審議をすすめ、多
くの国民の声に応えることが求められています。こうした状況で、まだ多くの
会期を残しているにもかかわらず、本会議で採決することなど、到底、許され
るものではありません。
 残された会期の中で、逐条審議はもとより、参考人招致、国政調査権の行使、
中央・地方での公聴会、総務・厚生労働・財務各委員会との連合審査など、あ
らゆる手段を尽くして、徹底審議にあたらることが必要です。

 ぜひとも、本日の参議院本会議では、文教科学委員会の採決を認めず、差し
戻しとされるよう強く要望するものです。


《参考》

参議院文教科学委員のみなさま

                         2003年6月9日

                   日本教育法学会会員有志声明の会
                   事務局長 植田健男(名古屋大学)

        国立大学法人法案審議についての要望

 私たちは、現在、参議院文教委員会で審議されている「国立大学法人法案お
よび関連五法案」は、今後の日本の行方を決定づけるきわめて重要な法案であ
り、国会での慎重かつ徹底的な審議を必要としていると考えます。もしも、こ
こで審議を尽くさずに性急に法案を通過させてしまうようなことがあれば、こ
の先、数十年間にわたって日本の高等教育に大きな禍根を残すことになりかね
ませんし、ひいては日本の未来を大きく損ねる事態となりかねません。

 私たちは、教育法学の専門的立場から、今回の国立大学法人法案に対して重
大な疑義を抱いています。何よりも日本国憲法第23条および教育基本法第1
0条に抵触しているという点に、本法案の最大の法的問題点があると考え、先
日、声明「国立大学法人法案は、明らかに憲法23条及び教育基本法10条に
抵触する−同法案の廃案を訴える−」(全文は下記に掲載)を公表するととも
に、文部科学省内記者クラブで会見を行いました。

 この二ヶ月あまりの間に、国会で本法案に関する多くの論議が行われました。
私たちは衆参両院の委員のみなさまに、心より敬意を表するものであります。
しかし、この法案には、上記以外にも幾つもの重要な問題点が含まれていると
考えています。

 第一に、教育研究の内容への教育行政機関の関与をめぐる問題です。国会答
弁で、遠山敦子文科相は「学問研究の内容についてはその特性を配慮する」と
繰り返し述べておられますが、その法的根拠は条文の中には見当たりません。
「配慮する」というのならば、もとより文部科学大臣が中期目標を策定すると
いう行為そのものの是非が論じられるべきですし、文科大臣が果たす役割につ
いて教育基本法十条二項に抵触することのないよう条文に明記することが必要
です。

 第二は、大学に対する国の財政責任を明確にする問題です。学校教育法第5
条に定められた設置者経費負担主義の原則から言えば、大学設置主体を変更す
ることによって、国は財政負担責任を放棄しようとしていると解釈されかねま
せん。

 第三は、大学運営のあり方をめぐる問題です。本法案における学長選考方法・
学内運営体制(教育研究評議会・役員会・経営協議会)の規定は、いくつもの
非民主的かつ不公正な運営規定が見られます。例えば、現学長が次期学長の選
考(自らが再選される場合でさえも)に大きな権限をもつことや、教授会の権限
を定めた学校教育法の趣旨はどう生かされるのか、などの点について論議が必
要です。

 第四は、教職員身分の非公務員化にともなう問題です。労働基準法・労働安
全衛生法の適用を受けることになった場合、その運用の仕方だけではなく、法
制度上の整合性についての論議がなされなくてはなりません。

 第五に、本法案と現行教育法体制との関係をめぐる問題です。先に申し述べ
たように、日本国憲法・教育基本法の規定と国立大学法人法案とは正面から矛
盾する内容を含んでいるといわざるを得ません。日本国憲法との関連性につい
ては言及されていますが、教育基本法その他の教育法規との整合性について、
国会内での明確な論議はなされていません。

 第六は、関連五法案についてです。国会内では、国立大学法人法案に審議が
集中し、関連法案についてはほとんど議論がなされておりません。

 以上の点をふまえて、次のことを要望いたします。

一、国立大学法人法案について逐条審議を行い、危惧される問題点について明
確に疑念が解決されるまで徹底して論議を行うこと

一、国立大学法人法案に関連する五法案についても、同様の審議を行うこと

 なお、伝え聞くところでは、衆議院文部科学委員会が決議した本法案の付帯
決議よりも長文かつ詳細な付帯決議が準備されているとのことですが、この付
帯決議は、本法案の意味を限定することにより、憲法23条および教育基本法10
条と本法案との整合性について提出されている重大な疑念を払拭することを目
的としているものと思われます。

 しかし、付帯決議による法文の意味の限定という行為は、国民代表によって
構成された国会が定める「法律」によって行政府の活動を拘束する、「法の支
配」という民主主義の基本原理との矛盾を指摘せざるを得ません。

 付帯決議によって法律の欠陥を修正しようとしても、現実には、付帯決議に
よって加えられた修正は、法律ではないがゆえに、法の執行の段階で考慮され
ることなく、修正としての意味を持たない場合が多いのです(そのような例の
典型として任期制法をあげることができます)。付帯決議によって国民代表の
意思が法律の執行段階で反映されると考えるのは幻想です。

 法案の欠点あるいはそれに対する強い疑念は、立法府による法案の修正によ
ってこそ除去されるべきものです。そして、付帯決議が短文であればあるほど、
微修正で済むことを知りながらそれを立法府が施さなかったことを意味し、そ
れは立法府の怠慢の自己証明に他なりません。また、付帯決議が長文または詳
細であればあるほど、法それ自体の持つ深刻な欠陥を立法府が認識していなが
ら、それを放置したことを意味し、立法府による自らの責任の放棄に他ならな
いと考えます。