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独行法反対首都圏ネットワーク

☆学術の動向2003.2 特集 研究・教育の現場から見た国立大学改革  
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学術の動向 2003.2 特集
研究・教育の現場から見た国立大学改革
http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukou/text_1_1b8_02.html

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 大学改革に法人化は必要か
         松久 寛

 大学改革を担う主体は大学人である
         三橋良士明

 研究・教育のサッチャリズム
         大谷俊介

 国立大学法人化への燕雀の杞憂
         小路武彦

 農学における高等教育組織の再編の必要
         菅野長右エ門

 ドイツ語教員の視点から
         久保田聡

 国立大学の法人化と会計問題
         野口晃弘

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#(以下、編集委員 江沢洋氏の序 p8-9 )

国立大学法人化の動き[1][2][3]が、確かな姿を見せぬ
まま進行している。本誌でも、その現実を明らかにする
一助として、昨年11月号で「変革をめざす国立大学一一
学長たちは考える」を特集した。今月は、これに対して、
標記の題で、いわば草の根から見る特集を試みる。

 国立大学協会は、2002年4月19日、臨時総会を開き「国
立大学法人化・最終報告」(文部科学省、調査検討会議、
2002年3月)は「おおむね同意できる」という会長談話
を発表した。新聞によれば、意見を述べた学長の多くは
反対であったが、会長は「国立大の完全民営化が頭をも
たげたこともあり、報告案に応じざるを得なかった」と
述べ、「法案づくりが進んでいて時間がない」として挙
手による承認をもとめたのであった[4].

しかし、2002年7月になっても、まだ「姿見えぬ法人化」
[5]といわれたが、2003年1月になって文部科学省は「国
立大学法人法案」の概要を固めた[6].  これによると、
法人の運営には、学長と理事でつくる役員会、主に経営
に関する審議をする経営協議会、教学面にかかわる評議
会があたる。評議会メンバーは学部長ら学内から選ぶが、
経営協議会のメンバーには評議会の意見を聴いた上で学
外の有識者を半数以上入れなければならない。各法人は、
文部科学大臣から示される中期目標をもとに中期計画を
つくる。業績悪化を理由に文部科学大臣が学長を解任し
たり、学長が理事を解任したりすることを可能にする規
定も明記される見通しだという。

法人化は、効率性を基礎にして大学を従来以上にマーケッ
ト・メカニズムに委ねようとするものだといわれ、また
学長と評議会の権限を拡大しトップ・ダウンで効率的な
決定をねらっている、ともいわれる。法人化後の国立大
学は、文部科学省から中期計画の認可を受け、学長の強
いリーダーシップのもとで運営される。中期計画の達成
状況について第三者評価を行い、国の運営交付金に反映
させる[7]。中央教育審議会は8月、大学の設置認可基準
を緩和する一方で、第三者機関による評価の義務づけを
盛り込んだものなど三本の答申をまとめ[8]、それに基
づき学校教育法が改正されたた[9]。

かつてニュージーランドで行われた行政改革に伴う教育
改革との類似が指摘され[10]、その失敗から学ぶべきで
あるという声が上がっている。そこでは国立大学は法人
化され、教育は市場競争を通じて商業化が顕著になり、
優秀な学生は自然科学にこなくなった。研究費の配分は
どのくらい社会的に意味があるかに応じてなされ、その
判定は最終使用者である企業の要望によるので基礎研究
は構造的に軽視されることになった。

実際、日本でも、中教審の臨時委員が研究大学と教育大
学の分離を唱え、研究では「将来重要になりそうな分野
ごとに、世界に通用する優れた研究をしている大学が二
つか、三つあればよい」と主張している[11]。「分野」
の定義がしてないから、これだげては意昧をなさないが、
考えの方向は察せられる。文部科学省は、分野別に大学
院博士課程のトップレヴェルの機関を選んで研究費を出
す「21世紀COEプログラム(トップ30)」を始めた
[12]。研究費は大学院生の給与にもあてられる(院生の
差別化![13])その教育版というべき「特色ある大学教
育支援プログラム」も100校を対象に2003年度から始ま
る[14]。文部科学省が2001年6月に打ち出した「国立大
学の構造改革の方針」にしたがい、国立大学の再編・統
台も進みそうである。

「教育基本法」の見直しも始まっている[16]。

こうした事態の進行を、現場で研究・教育に携わってい
る人々がどう受げ止めているのか探りをいれたい。それ
を掘り起こすことができれば、大学改革を考える指針の
一つとして役立つはずだろうと考えた。

まず、松久氏(京大・工)は、大学改革が必要なことは
認めた上で「法人化は必要か」と問い返す。三橋氏(静
岡大・公共生活法)は、独立行政法人制度が、そのまま
では国立大学にふさわしくなく特例措置が不可欠とされ
たにもかかわらず、国大協による「調査検討会議」の最
終報告には大学人の意見の反映がみられないとし、「権
力と財政誘導のみによる改革の押し付けが知の共同体の
担い手のモラル・ハザードをもたらしつつある」と嘆い
ている。大谷氏(電気通信大・原子物理)は、「現在の
日本政府の大学への施策はサッチャー時代のそれを彷彿
とさせる」として、その失敗に学べという。サッチャー
は、大学を5段階に分けて、トップには研究費をたくさ
んつけるが、それから段々に減らして最後はゼロにした。
惨憺たる目にあったとイギリスの研究者はいっている。
小路氏(長崎大・医)は、医師教育の視点から「教育に
おける競争原理の導入は解剖学などの基礎教育やリベラ
ルア一ツ教育の衰退を招く」と憂慮し、「民間的経営手
法は少数派学問領域を消滅させる」おそれがあるという。
菅野氏(宇都宮大・農)は、地方大学も地域に根差した
研究だけをするのてなく国際的レヴェルの文化の構築を
めざすべきだとし、大きい大学は研究重視、地方大学は
教育重視と分けかねない傾向に困惑している。久保田氏
(岡山大・文)は、法人化という「見えない波」が押し
寄せ学内に危機感が支配するとき、外国語教育スタッフ
が最も危機にさらされると訴える。最後に、野口氏(名
大・財務会計)は、「独立行政法人は、営利を目的とし
ない組織であるにかかわらず、損益計算書の提出が法律
によって強制されている」など誤解を招きやすい点のあ
ることを指摘している。

ここに提示された諸間題は、まだ氷山の一角に過ぎない
てあろう。なお深く掘り下げる努力を続け、かつ「国立
大学法人法案」も批判すべき点は批判しなければならな
い。

なお、堺憲一氏(東京経済大・経)のホームページ[17]
には「大学をめぐる最近の動向と新しい試み」があり、
独立法人化についても新聞記事を精細に追ってまとめて
ある。


江沢 洋

日本学術会議第4部会員
学術の動向」編集委員

参考文献
[1]朝日新聞、2000年5月26日.有馬朗人元文部大臣の意見。

[2]日本経済新聞、2000年8月7日、12月23日;朝日新聞、
199年8月9日

[3]喜多村和之「国立大学の独立法人化問題」、学士会
会報、No.826,2000‐1;大崎仁「国立大学法人化への
国際的視点」、ibid”No.830,2001・l;益田隆司「国
立大学を活性化するためのいくつかの課題」.ibid.,
No.838,2000‐III;慶伊富長「学力低下高校と応用主
義大学」ibid.,No.838.2003・I

[4]日本経済新聞、朝日新聞0、2002年4月20日

[5]日本経済新聞、2002年7月13日

[6]朝日新聞、2003年1月23日

[7]日本経済新聞、2002年7月13日

[8] 朝日新聞、2002年8月6日、7日;日本経済新聞、2002年8月10日

[9]日本経済新聞、2002年11月22日

[10]大井玄、大塚柳太郎「ニュージーランドの行政改革
と高等教育および科学研究への影響一一予備講査報告,
(抄録)、世界、2002年12月号(全文は
http://www.ac-net.org/doc/00c/nz-honbun.html#0)。
この号は「大学一一『改革』という名の崩壊」という特
集を組んでいる。

[11] 朝日新聞、2002年7月19日

[12] 朝日新聞、2002年7月31日、10月4日;日本経済新聞、2002
年10月4日
採択決定:朝日新聞、2002年10月3日:日本経済新聞、2002
年10月5日

[13] 日本経済新聞、2003年1月24日

[14] 日本経済新聞、2002年8月8日;朝日新聞、2002年8月19日

[15] 朝日新聞、2002年8月24日

[16] 朝日新聞、2000年12月12日、12月23日、2002年10月17
日、11月15日、11月17日:日本経済新聞、2000年12月23
日、2002年10月18日、11月15日、11月23日

[17] http://www.tku.ac.jp/~saka/mainhtml/write.html