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独行法反対首都圏ネットワーク

国立大法人/「自主、自律」の尊重こそ  
 .『神戸新聞』社説  2003年6月24日付 
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『神戸新聞』社説  2003年6月24日付

国立大法人/「自主、自律」の尊重こそ


 「国立大学法人法案」の参院審議は大詰めを迎えているが、これが成立すれ
ば、来年四月から、すべての国立大学が法人化され、八十九の国立大学法人が
誕生する。

 法人化によって、最も変わるのは、いわゆる「大学経営」のスタイルだ。旧
態依然の組織、閉鎖的な研究体制、社会との隔絶…。従来からのマイナスイメー
ジを払拭(ふつしよく)するため、民間企業並みの「開かれた経営体制」を敷
き、これによって大学に、より強い自由と独立性を与えるのが法人化の狙いだ
とされてきた。

 この「大学の自由・自治と独立性」という、学問、研究における最大のより
どころをめぐり、法人化論議が続いた。法案は大学に法人格を与える、だから
自由と独立性は担保される、というのが政府説明だ。

 もっともな説明だが、実態は違う。大学法人は、研究、経営に関して「中期
目標」「中期計画」を文部科学省に提出する。それにもとづき「評価委員会」
が開かれ、文科相が予算配分や教育・経営計画を指示することになるのだが、
このシステムは、旧来制度と基本的には同じようなものだ。

 むしろ、例えは悪いが、省庁と特殊法人との“主従関係”に似て、従来以上
に強い文科省の介入も予測される。自由度は、拡大しない。共同通信の全国国
立大学長アンケートでも、この点を懸念する声が75%にも達している。

 同時に、外部委員を交えた審査では、評価されにくい地味な研究、長期にわ
たる基礎研究などが敬遠され、その結果、学部や地域格差が広まることも予想
される。

 学費の値上げも懸念材料だ。アンケートでは、半数の学長が値上げもありう
ると答えている。国立の安い授業料というイメージもなくなるだろうか。

 もちろん(1)学長のリーダーシップの強化と意思決定の迅速化(2)競争
による研究体制の活性化(3)外部刺激による組織運営の刷新(4)地域との
連携強化(5)社会的ニーズへの接近―など、法人化を機に得られるメリット
もある。

 しかし、最も大切なことは、大学の信頼性ということだ。それは、何者にも
左右されない、確固とした研究体制を貫き、エネルギッシュな組織を持続させ
ることで得られる。法人化は、それを促す方向に作用しなければならない。文
科省の介入は、排除されるべきである。

 法人化されようがされまいが、大学の基本は変わらない。前向きの「自律・
自由・独立性」が確保されてこそ、大学の信頼性は高くなるはずだ。