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独行法反対首都圏ネットワーク

欠陥明らか 国立大学法人法案<上><下> 
 .2003年6月15日(日)、16日(月)「しんぶん赤旗」 
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2003年6月15日(日)「しんぶん赤旗」

欠陥明らか 国立大学法人法案<上>
大学、学問に窒息の危険
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 国立大学法人法案をめぐる参議院での審議が十七日から再開します。審議をつうじて法
案の問題点がいっそう浮き彫りになっています。

研究の統制に

 法案は、六年間に国立大学法人が達成すべき業務運営に関する「中期目標」を、文科相
が定めるとしています。この中期目標には「教育研究の質の向上」も含まれます。

 この中期目標を達成するための「中期計画」を大学が作成しますが、これも文科相の認
可を受けることになっています。

 日本でも世界でも、大学の教育研究の目標を最終的に国が定めるなどという仕組みは前
代未聞です。「研究の成果を事前に予測することは、だれにとっても不可能」(京大・佐
和隆光教授、「朝日」五月二十七日付)「IT(情報技術)分野などばかり重視する軍事
研究につながる危険」(東大・小森陽一教授、「しんぶん赤旗」八日付)など、第一線の
研究者も、研究の国家統制への抗議の声をあげています。

 遠山敦子文科相は「国が財政措置をする以上、最小限の関与が必要」と繰り返しました
が、これまでも国は国立大学に「財政措置」をしてきたのであり、新たな「関与・介入」
の仕組みを導入する理由にはなりません。

 五日の審議で遠山文科相は「(九九年七月成立した)独立行政法人通則法の枠組みを使
うということ」と認めました(日本共産党・畑野君枝議員への答弁)。通則法では、独立
行政法人は業務の基本的な方針は主務大臣の命令に従うとされます。「(通則法を基礎と
したため)法案には教育研究になじまないさまざまな問題が含まれている」(三日の参考
人質疑、東大・田端博邦教授)との指摘を、文科相も裏づけたのです。

指導文書が発覚

 畑野氏の質問に対し、遠山文科相は「(中期目標などは)最小限の関与であり、全学的
な視点にかぎり、学部・研究科などの記載を求めない」と強調しました。ところが十日の
審議で、すでに文科省は法案成立前から各大学に中期目標・中期計画の案の作成、提出を
求め、研究科ごとの具体的な事項についても「参考資料」として添付するよう指導してい
ることが判明、それまでの答弁に反する事態に審議がストップしました。

 法案の根幹部分についての政府説明が崩れたことになります。

「評価」に疑問

 中期目標・中期計画の達成状況は、文部省内におかれる評価委員会により六年ごとに評
価されます。評価結果は予算配分の増減や、文科相による「廃止、民営化」を含めた措置
につながります。

 三日の参考人質疑では、「小規模大学が正当に評価されるか」(お茶の水女子大・本田
和子学長)、「立派な業績のある学者でもほかの分野については素人。評価委員会は素人
集団にならざるをえず、はやりや話題性のみを追う評価にならないか」(阪大・小野善康
教授)など、疑問や懸念が続出しました。

 評価委員会のメンバーや評価基準などは法案成立後に政令で定めるとされ、いまだに不
明です。ほかの独立行政法人と同様、総務省内の評価委員会の評価も受けるため、何重に
も国のチェックを受けることになります。政府がいうように、法人化によって「大学の自
主性・自律性の拡大」になるどころか、管理・介入が強まり、大学と学問を窒息させる危
険を高めるものです。

 (つづく)
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2003年6月16日(月)「しんぶん赤旗」

欠陥明らか国立大学法人法案<下>
財政基盤が不安定に
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  法人化に伴い、国立大学の教職員は非公務員とされ、教育公務員特例法の適用からは
ずれます。

 大学の教員が学問や思想によって差別されることのないよう、特例法で「教授会自治」
が定められてきました。この精神は私立大学の教員にも適用されてきました。この法的根
拠が失われることで、学問の自由を保障してきた大学の自治が空洞化する恐れがあります


 参考人質疑で元阪大事務局長の糟谷正彦氏は、「これまで、最先端の学問分野を考慮し
た教員人事が教授会自治のもと適切に行われてきた。大学をもっと信頼すべきだ」と指摘
しました。

一律学費も崩壊

 大学の設置者が国から法人にかわることで国の財政責任が後退し、大学の財政基盤が不
安定になることが懸念されます。

 法人化後の授業料は各大学法人が定めることとなり、全国どこでも、どの学部でも一律
だった学費の原則は崩れます。

 政府はこれまで、国立大学の付属病院整備のため財政投融資資金から借り入れし、毎年
償還してきました。法人化後はこの借入金を、各大学が付属病院の収入から償還(返済)
しなければなりません。規模は全国で一兆三千億円です。九百四十一億円の債務を負うこ
とになる東大の佐々木毅総長も、参考人質疑で「ちょっと見ただけでも気持ちのいいもの
ではない」と発言しました。

 国立大学が法人に移行すると、労働安全衛生法が適用されます。現状では「危険な薬品
のそばで論文執筆や文献調査が行われている」など、違法状態となる施設が多数あります


 この状態を改善することは緊急の課題なのに、文科省の対応はどうなのか――。文科省
は五月二十八日、違法状態の改善に必要な予算額は三百六億円との調査を発表しましたが
、これは「机上の額」にすぎないことも明らかになりました。日本共産党の林紀子議員の
調査では、東京大学は「これからコンサルタントに診断を委託し、予算額を出す」として
います。京都大学も、労安法に適合させるための施設改善に数年はかかると見込んでいる
のです。

 発効と同時に大量の違法状態をつくり出すこと自体、この法案の大きな欠陥です。

国会審議を無視

 五日の委員会で、すでに今年度予算に法人移行のための費用が計上され、新会計システ
ム導入の研究が進められていることが発覚しました。自由党の西岡武夫議員が「法案は当
然通るという態度であり、国会無視では」と質問したのにたいし、遠山文科相は「昨年六
月、国立大学の法人化は平成十六年(二〇〇四年)をめどに行うと閣議決定された。準備
を進めるのは当然」と述べました。

 国会審議の上に閣議決定をおく発言だと抗議されて、審議は中断。遠山文科相が発言を
撤回、陳謝する事態となりました。

◇   ◇


 法案の廃案、慎重審議を求める声は、全国の大学関係者や広範な国民から澎湃(ほうは
い)とわき起こっています。これだけの問題点がある法案を、このまま通すわけにはいき
ません。

(坂井希記者)
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