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国立大学の法人化 長期の視野欠かせぬ 
 .『中国新聞』社説  2003年6月16日付 
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『中国新聞』社説  2003年6月16日付

国立大学の法人化 長期の視野欠かせぬ 


 これも小泉純一郎首相が掲げる「聖域なき構造改革」の一環だろう。現在、
参院で審議中の国立大学法人化関連六法案である。国の財政再建最優先から、
あらゆる分野での民営化を促す流れはとどまる所を知らない。改革が必要なの
は当然としても、即効性が見えにくい基礎研究にまで短期の目標管理や成果主
義を導入すれば、角を矯めて牛を殺すことになりかねない。

 法人化では教授会中心だった従来の大学運営を改め、学長の権限を強めてトッ
プダウン型とする。委員の半数に学外の有識者を充てた経営協議会を設ける。
大学ごとに六年間の中期目標を決めて文部科学相が認可し、新たに設ける評価
委員会での査定結果を交付金配分に反映させる。遠山敦子文科相が言う通り
「明治の国立大学設置以来の大改革」には違いない。

 肝心の大学関係者の間では賛否が分かれている。広島大の牟田泰三学長は
「ぬるま湯につかっていた面がある国立大は新しい展開をすべきだ」と支持を
表明しているという。産学官連携を強める立場からは、歓迎する向きが強かろ
う。経済産業省の幹部が大学の現状を批判し「愚にもつかぬマルクス経済学な
どを教えている」と述べたことがある。確かに、国民の税金が投じられる研究
が時代や社会に背を向けていては、国費の無駄遣いとそしられてもやむを得ま
い。

 しかし、だからといって当面の時流に棹(さお)さした研究を優先するばか
りでは、国立大が国家百年の計を担うのは難しい。ノーベル物理学賞を受賞し
た東京大の小柴昌俊名誉教授は「法人化で独立採算となると、四、五年以内に
産業への見返りがないような研究は冷や飯を食わざるを得ない。理学部や文学
部はどうなるのか」と懸念している。まったく同感だ。

 産学官の連携には、国立大だけでなく国や地方自治体、民間企業の試験研究
機関などとの協力と役割分担が欠かせない。大学だけが先走って産業界に迎合
する必要はないし、そんなレベルの研究では中長期を視野に入れた産業の活性
化には寄与しないだろう。

 大学ごとに中期目標を文科相が認可し、第三者機関である評価委員会の判断
が交付金配分に反映されるという仕組みに反発する大学人も少なくない。鹿児
島大の田中弘允前学長は「官僚が強力な権限を持ち、大学への規制が強化され
る」とみる。「官から民へ」の構造改革の建前にも逆行している。

 「開かれた大学」をめざす経営協議会も、学外委員の人選が問題である。短
期間で目に見える成果を求めるあまり、産業界に偏重する恐れはないか。国民
の多様な要望に応じる必要があろう。社会には学問の道を志しながら断念した
多くの人がいる。大学人はそんな人たちを思い起こし、制度改革に頼るのでは
なく、自らを律してほしい。