トップへ戻る   東職HPへ戻る
独行法反対首都圏ネットワーク

6・15付毎日新聞掲載『「国立大学法人」への期待』の真意 
 . 辻下@北大
--------------------------------------------------------------


辻下@北大です。

「通信」で、大学関係者から法案への賛成意見がないと書きましたが、もちろ
ん、大学に在籍して産業界の意見を代弁するかたは居ます。以下は、今朝の毎
日新聞の記事ですが、筆者の小野田氏は日本大学教授の肩書で国会でも参考人
として法案賛成の意見*を述べています。
*http/www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009615620030423010.htm

この方については、昨年10月の「独立行政法人化問題週報No98」で以下
のように紹介したことがあります:

「三菱化学顧問から日本大学総合科学研究所教授となり、一貫して国立大学の
独立行政法人化の重要性を主張している小野田武氏が2000年7月に『今までも、
この独法化の問題に関連したいろいろたくさんのレポート、提言が大学サイド
から出ています。・・・。私はあれを読むたびにむかっとするのは、一番最初
に「憲法に保証された学問の自由」。もういい加減にしてくれないか。何かも
うちょっと卒直になって書いていただかないと、あまりに教条主義にすぎる。』
と述べている[98-13]。「学問の自由を守れ」という主張が卒直な発言ではな
く教条主義としか聞こえない人が大学教授となって、為政者の前で「研究者」
を代表して発言していることを考えると事態の深刻さがわかる。」

以下の講演タイトルからもわかりますように、小野田氏は自他共に認める産業
人です。

小野田武「独立行政法人化時代の国立大学運営」ーー産業人から見た大学の課
題ーー」http://ac-net.org/wr/wr-98.html#[98-13]
第35回公開研究会「独立行政法人化時代の国立大学運営」(2000.7.31)4-31
筑波大学大学研究センター発行「大学研究第23号」(2002年3月発行)
http://130.158.176.12/publish.html


さて、大学関係者が恐れている「リスク」とはなんでしょうか。独立行政法人
体制では、教育や研究に不可欠な試行錯誤に伴う「リスク」がとれなくなり、
日本の教育と研究が衰退するリスクを大学関係者が恐れている、ということは
理解できないのでしょう。

しかし、いずれにせよ、以下の論考の主旨は、大学を政府が今以上に支配する
ことを基盤とする法案への反対意見としても通用することに筆者は気付いてい
るのでしょうか。もちろん気付いているのでしょうが、ともかく、今回の目的
は国立大学制度に関連する法律の廃止と国立大学教職員の非公務員化にあり、
法人法案の方は官僚支配が強い方が、数年後に民営化の口実にできるので良い、
と考えているのではないでしょうか。 

----------------------------------------------------------------------

                   発言席 「国立大学法人」への期待

                日本大学総合科学研究所教授 小野田武

筆者は、四十余年にわたり民間企業で研究開発、新規事業開発や経営に従事し
できた。その間学会活動や講師、客員教授等の兼務を通じで、わが国の大学と
大学人に、親近感とともに強い危機感を抱き続けできた。企業人として、80年
代の米国の企業や大学の変貌、ソ連邦体制崩壊後の欧州の変化、また、最近で
は中国の激変に接しながら、経済活動にとどまらない国際化と社会構造の変化
の潮流を痛感しできた。

20世紀後半、わが国を世界屈指の豊かな文明社会に成長させたけん引車は産業
であり、産業技術である。世界の産業地図が激動する中で、産業競争力の確保
を欠いては、衰退あるのみである。また資源エネルギー・環境等の現代文明社
会に突きつけられた課題に対しでも、積極的な対応が困難となる。

ここで留意すべきは、これからの国際競争の様相の変化である。国のすべての
機能の競争力が問われている点である。「個」「組織」「仕組み」等のすべで
が強化されなくては、力負けしてしまうのが 世界の現実である。

大学は、「知」の中核組織であるとともに、「人材育成」の基盤である。国際
競争の先頭に立つべき最重要な機能である。特にわが国においでは、国立大学
への質的依存度は高い。この国立大学は、従来、行政組織の一部としで、国の
保護と規制の下に置かれ、大学人のいう自治・自由とは、寵の中あの鳥の自由
に過ぎず、持てる力を存分に発揮できる状態には程遠い。この度の国立大学法
人化は、大学改革の基盤となるものと期待される。国が国立大学の果たすべき
役割や責務を明示して、その実現に責任を持つ枠組みは経費の大部分に税金を
投入することからも必然であろう。

その中で、「個」の活力は、非公務員型への移行や種々の規制緩和により、そ
の意欲と才能を存分に発揮する格段の自由度を獲得できる。「組織」は、学長
と「役員会」への権限強化により、個性豊かな構想策定と指導力を発揮できる。
また、それを支える学外有識者の経営能力を活用しての「経営協議会」、学内
代表者による「教育研究評議会」によって、予算執行・組織・運営・学内人事
等を自律的に遂行できる。

加えて大学には、「個」と「組織」の力を発揮させる「仕組み」を、自らの判
断と裁量で構築する自律の自由度が付与されでいる。

しかし、改革にはリスクを伴う。多くの大学関係者が、疑念や危倶を表明して
いる。寵という保護を失う不安もあれば、未知なる大空を飛べるだろうかとい
う不安もあろう。だが、リスクを恐れで停滞するよりも、リスクを覚悟して進
むことが、大学人としでの自主・自律の志ではなかろうか「また、大学を社会
に開くことにより、社会から寄せられる大学への関心の高まりは、そのリスク
を低減してくれるに違いない。

さらに強調したい。国立大学法人化は大学改革の出発点に過ぎない。適切な国
費の投入は必須の要件である。教育・研究への投資が、極めで有効な先行投資
であることは歴史が証明している。また大学改革に資する施策を継続実施する
必要がある。迷走する初中等教育の改善、時代遅れの大学教員職務規程の見直
し、多大な学業阻害を看過している就職過程の悪慣習の改革等、課題は山積し
ている。

大学の学術研究・人材育成の視点は、「社会を先導」するものであっでほしい。
未来への洞察力が求められる。未来は、現在の理解を欠いては洞察できない。
「社会に開かれ、社会と共に歩み、社会を先導する国立大学」としで、大空に
羽ばたいでほしい。(毎週日曜日に掲載)
----------------------------------------------------------------------