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独行法反対首都圏ネットワーク

数理News 2003-1
 .東京大学数理科学研究科  2003年5月15日発行 
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東京大学数理科学研究科  2003年5月15日発行

http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/news2003-1.html

法人化
   
研究科長 薩摩順吉


 研究科長に就任して一年が経過しました。ちょうど折り返し点です。歳をと
ると時間の経過は早くなります。あっという間の一年でした。この間の大きな
仕事は何といっても法人化に関するものです。中期目標・中期計画の作成、法
人化準備委員会の仕事等。21世紀COE応募も法人化の流れの一つでしょう。

 法人化とは何なのか。昨年国立大学などの独立行政法人化に関する調査検討
会議が提出した文書によりますと、基本的考え方は以下の通りです。「行政機
能のアウトソーシングや、運営の効率性の向上といったいわば行政改革の視点
を超えて、教育研究の高度化、個性豊かな大学づくり、大学運営の活性化など、
従来からの大学改革の流れを促進し、活力に富み、国際競争力のある大学づく
りの一環として検討することが前提となる。そしてそのために、予算、組織、
人事など様々な面での規制を緩和し、大学の裁量を拡大する。また、第三者評
価に基づく重点投資システムの導入など、適切な、競争原理の導入や効率的運
営を図りつつ、高等教育や科学技術・学術研究に対する公的支援を拡充するこ
とが不可欠である。」

 2月末に閣議決定された国立大学法人法案はこうした内容を踏まえて提出さ
れたものです。しかし時間が経過するにつれて、いくつかの問題点も浮き彫り
になってきています。まず、学長及び理事で構成される役員会に権限が集中す
ること。改革が良い方向に進んでいるときはメリットになり得ますが、あわせ
て独断専決体制の恐れも十分にあります。また、6年間の中期目標・中期計画
及びそれらに対する評価が大学運営の柱となりますが、数理科学のような基礎
学問にはそぐわない制度です。最近開催された国会の文部科学委員会の意見陳
述でも、生命科学の研究者が「評価漬けの研究からは何も生まれない。多くの
日本のノーベル賞受賞者の研究がそれを始めたときには誰にも認められず、長
期間にわたる試行錯誤の中で、世界に冠たる研究成果が生まれた」と述べ、国
立大学法人法案はこうした研究を育む大学における学問の自由をつぶすものだ
と指摘しています。さらに、文部科学大臣が「中期目標」を「定め」るという
規定は、学問研究の「目標」を先験的に決定することなど元来不可能であるに
も関わらずそれを行おうとしており、大学間の自由な競争という当初の目論見
とは真っ向から対立する制度だという意見も出されています。大学教職員の身
分も問題です。法人化によって教職員は非公務員化され、教育公務員特例法は
適用されないことになるとのことです。その結果、これまでより身分の扱いが
軽くなるようです。

 どうも暗い話になりました。私たちが担っている教育というものは、もとも
ときわめて効率の悪いものです。結果は何十年たたないと分かりません。数学
のような基礎研究も然りです。生命科学研究者のいっているように、長期間に
わたる努力の末成果が出るもので、ときには百年のオーダーで評価される類の
ものです。6年という期間はあまりにも短すぎます。先行法人の例のように、
中期目標では例えば毎年1%の経費削減といった運営の効率化のみが要求され
る可能性もあります。法人化によってもともと自律的な大学という組織が疲弊
し、活力がなくなり、国際競争力を失うことにならないよう祈るばかりです。