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☆社説 歴史的大学改革に水を差す官僚支配 
 .日本経済新聞2003年6月12日付 
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日本経済新聞2003年6月12日付

 社説 歴史的大学改革に水を差す官僚支配

 2004年4月の国立大学の法人化は、社会の構造変化に取り残されてきた日本の
 高等教育と学術研究体制にとって、歴史的な転換点となるべきものである。し
 かし、その骨格となる法案の審議過程では、大学の自立や公正な競争とは逆行
 する、文部科学省の支配強化につながる可能性がいくつか指摘されている。

 最大の問題は、法人化した大学への資金供給の根拠となる「評価」の仕組みで
 ある。ここがあいまいで、官僚の裁量によるところが大きければ、法人化して
 自立するはずの大学が、逆に資金面から文部科学官僚の支配下に置かれてしま
 う。

 現在でも国立大学の教育研究活動については、大学評価・学位授与機構などが
 評価を実施している。多様な価値観の共存が不可欠な大学で、教育や研究の質
 やレベルを客観的に評価するのはかなり難しい。基本的には大学や学部が定め
 た自主的な目標とそれを達成するための計画について、その進ちょく状況を評
 価するという作業が中心となる。

 今回の法案でも、大学は中期目標を掲げ、実現に向け中期計画を立てる。ただ
 し、中期目標を決めるのは文科相であり、中期計画も文科相が承認する。実質
 的に文科省の官僚の主導で決めた目標と計画のもとで大学が運営され、その成
 果を文科省の下に置く評価委員会が評価する。

 大学運営の細部について、始めから終わりまで役所がこれだけ関与する制度は、
 先進国には見当たらない。国立大学の法人化ではなく、「文科省立大学」への
 移行ではないかという声が出てくるゆえんである。

 社会の評価にさらされぬまま、大学の自治や学問の自由を盾に、既得権益の温
 存をはかってきた国立大学に対する社会の批判は厳しい。はき違えた「教授会
 の自治」によって、大胆な改革は進まず、研究や教育の質についての健全な競
 争も存在しない。こんな国立大を改革するのに、法人化は当然の選択である。

 今や大学は起業家を育てるだけでなく、ベンチャー株取得によるキャピタルゲ
 インも視野に入れている。大学運営の発想も大きく変化しつつある。アカデミ
 ズムの拠点、文化の発信基地としての役割も増している。多様で自律的な大学
 へ、法人化の基本は推進しつつ、制度の改変にまぎれて省益だけが拡大するよ
 うなことは、厳に避けねばならない。

 国会の論戦では火事場泥棒などということばも登場した。民主党から修正案も
 出されている。議論の場は参院に移ったが、官僚の過剰介入を防ぐ方途を真剣
 に検討すべきだ。