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読売社説  [科学技術白書]「優れた研究者育てる待遇が必要」 
 . 読売新聞ニュース速報2003/06/08
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読売社説  [科学技術白書]「優れた研究者育てる待遇が必要」


読売新聞ニュース速報


 「研究者は報われない」というぼやきを最近、大学や企業の研究者からよく聞
 く。
 目先の成果を厳しく求められる一方で待遇はあまり良くならない。そんな不満
 がある。
 文部科学省がまとめた今年の科学技術白書は、特集で「これからの日本に求め
 られる科学技術人材」を取り上げ、優秀な人材を研究現場に引きつけるための
 待遇改善が重要、と指摘している。
 科学技術による産業振興は、将来の日本経済の死活にかかわる。だが、そのた
 めに必要な基盤は整っていない。そんな危機感が背景にある。
 現状は実際、深刻である。
 文科省の調査では、大学や公的研究機関、企業の研究者の約六割が、成果に見
 合う報酬がないと不満を持っている。
 企業研究者の場合、発明の対価を巡って訴訟を起こす例も相次いでいる。発明
 による売り上げは年間数百億円にのぼるが、報奨金は二万円との訴えもある。
 専門知識は特別に評価されず、給与は事務職とあまり変わらない。理系卒業者
 は文系に比べ、生涯賃金が五千万円以上少ないという調査結果さえある。
 研究開発投資に対する企業の利益率はこの十年で半減した。経営状況は厳しい
 だろうが、成果に報いる方策がいる。
 若手の研究者が育つ環境も十分ではない。まず研究費が足りない。文科省の調
 査では、大学や公的機関の研究者が自由に使える額は五十代前半では年間八千
 万円以上だが、三十代以下はその一割しかない。独創的テーマなら若手も資金
 を得られる制度を拡充する必要がある。
 大学や研究機関で独自の研究を進められるポストを得るのも容易ではない。
 成果をあげないままポストに居座る例があるとの批判を受けて、任期を決めて
 採用する制度が広がっているものの、対象が若手に限られているためだ。
 任期制は、ポストや年齢層が多様でこそ効果が出る。現状ではそうした任期制
 を持つ大学や研究機関はあまりない。
 九州大学は今春から、工学部の研究者は年齢制限なしの原則任期制とした。成
 果を定期的に評価して、結果にふさわしいポスト、任期を決める。そんな試み
 が広がることを期待したい。
 優秀な研究者をどう確保するか、という問題で国はこの十年、さまざまな提言
 をしてきた。待遇改善などを盛り込んだ基本指針も、九年前に出している。だ
 が現状は、まだ多くの問題が残っていることを今回の白書は認めている。
 日本の科学技術は、米国との格差が広がり、中国にも猛追されている。この改
 革のペースでは世界に取り残される。

[2003-06-08-08:37]