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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人法案 国策にこびた研究・教育へ
 『東京新聞』2003年6月4日付朝刊京都大学教授 岡田知弘
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『東京新聞』2003年6月4日付朝刊


国立大学法人法案 国策にこびた研究・教育へ

京都大学教授

岡田知弘 48 (京都市左京区)

 国立大学法人法案が、衆議院で与党の数の力によって可決され、参議院に送
られた。衆議院での議論を見る限りこの法案で、政府が掲げる大学の自律性が
確保できる保証はなく、むしろ国立大学本来の責務が果たせなくなるのではな
いかという疑念のほうが深まったといわざるをえない。大学が成り立つ基盤で
ある財政の問題に絞って、私見を述べたい。

 日本政府が支出する高等教育費は、対GDP費で見ると先進国中最低、しか
もほぼ半分の水準である。

 今回の法人化によって、高等教育費の主要部分を占める国立学校特別会計が
無くなる。代わって、授業料や医療収入といった自己収入のほかに、国から運
営費交付金が支出されその不足分を補うことになる。

 しかし、その交付金の算定基準や授業料水準はすべて政府が決めることになっ
ており、そこに大学の自律性が入る余地はない。しかもこの交付金も行政コス
ト削減計画の対象となって、今まで以上に高等教育費がカットされる恐れもあ
る。

 さらに、法人化にあたって、多くの国立大学にある医学部付属病院の施設整
備のための累積債務も継承することになる。これまでは一般会計からの繰り入
れで返還してきたが、法人化を機に、債務の返済責任を各大学に振り分けると
いう。

 債務返還額については交付金で措置すると答えているが、先発の独立行政法
人国立病院機構の交付金を見ても既に交付金に依存しない経営体質をつくるこ
とが目標として示されている。

 そうなれば、病院の経営効率化 (人員削減や保険単価の低い医療の抑制など)
や、学費の引き上げへの波及も危ぐされる。

 しかも、交付金については、文部科学省の下におかれる評価機関の評価によっ
て配分がなされる。さらに六年間の中期計画終了後、総務省の評価期間によっ
ても評価され、その勧告次第では大学あるいは学部の縮小、廃止、民営化もあ
りうるという。

 これでは、短期間に成果があがり、その時々の国策に媚びた研究・教育ばか
りがはびこることは目に見えている。その半面で、国立大学が本来なすべき長
期的な学術研究や人材育成は軽視されざるをえないだろう。

 このように、法人化は、決して自律的な大学をつくるものではなく、財政措
置と評価によってがんじがらめにされて、これまで以上に大学を政府のコント
ロール下に置くものである。そうなれば、本来の役割を果たせないばかりか、
国民にも負担を強いることになる。

 国家百年の大計というのであれば、徹底的な審議が必要である。良識の府で
ある参議院の賢明な判断に期待したい。