文部科学大臣 遠山敦子 殿

平成15年6月13日

 

国立大学の法人化に向けての要望

国立17大学人文系学部長会議

 

 

 

平成15年5月22日〜23日、山形大学において開催された第58回国立17大学人文系学部長会議において法人化の検討状況及び法人化後の人文系学部の在り方について協議致しました。現在、国会で審議中の国立大学法人法案の内容を踏まえて、各大学より提出された意見の主要な意見を貴省へご報告し、国立大学の法人化に向け17大学人文系学部長会議として以下の要望を行うことで終了した次第であります。よろしくご賢察のほどおねがい申し上げます。

 

1 現在、国会で審議中の国立大学法人法案は、大学の自主性・自律性をこれまで以上に保障し、「わが国の高等教育及び学術研究の水準向上と均衡ある発展を図る」(第1条)ことを目的として制定するものとされている。しかし、今回の法案では、国による大学の中期目標の策定及び中期計画の認可とその評価に基づく運営費交付金の配分、そしてそれを制度的に支えるものとして大学経営の視点を重視した新しい組織運営体制の導入等、大学の運営に競争原理が大幅に取り入れられており、これを押し進めれば、財政的基盤の弱い地方国立大学や研究が実用的成果に直接結びつき難い基礎科学、人文系学部の衰退につながることが危惧される。

2 第58回会議においては、主にこのような観点から、法人化後の大学全体の中における人文系学部の位置、役割について意見交換がなされた。とりわけ、学問の性格上、実用性・効率性の視点からの研究及び評価になじみ難いところから、学内における人文系学部の地位の低下に対する懸念が共通して表明され、それへの対応の在り方ないし論理が議論された。そして、結論的には、@学術研究の発展にとって、文系、理系を問わず基礎的学問分野を重視すべきことの普遍的価値性を認識すること、A社会に対し、教養を備えた有為の人材を高等教育で養成することの重要性と、それに対する人文系学部の社会的使命、B地域社会における個性ある文化の創造・発展に果たしてきた役割の継承・発展という3点において、今後における人文系学部の役割・使命及び発展の契機を見出すべきことが共通認識とされた。

3(1)20世紀において自然科学は、驚異的な発展を遂げ、科学技術の飛躍的な進歩を生み出した。しかし、他方では環境問題に象徴されるように、経済効率性優先の思想が生み出した負の遺産は後世に大きな課題を残した。21世紀を迎えた今、我々は人間本来の在り方を根本的に問い直す時に直面している。ここに、自然科学と人文・社会科学の調和のとれた発展を確保し、そのなかで、人間本位の哲学に立脚した学術の創造的発展とそれを基盤とした高等教育の推進が強く要請される所以が存すると考える。その意味において、人間及び人間社会の本質及び在り方を研究対象とする人文系学部の担うべき役割は、今日ますますその重要性を深めているといえる。

(2)人間社会の営みは文化にあり、文化なくして国家は有り得ない。その意味で、人文系の学問領域には、時代を超えた普遍的存在意義があるといえよう。地方の大学は、地域社会の学術文化の拠点であり、我々は、この志をもって教育研究機関としての役割を遂行する使命があるものと認識している。法人化により競争原理のみを優先した方向に走れば、落ち着いた環境において育まれるべき真の意味での文化は育ち得ないであろう。

(3)法案の目的とする「個性ある大学の創出」、「大学の自主性、自律性の確保」は、競争原理に立脚した実用性・効率性の重視だけではなく、基礎的、長期的学問分野を重視し、「学問の自由」に立脚した学術研究の自主性・自律性を保障し得る大学においてこそ実現可能になるものと考える。

 

文部科学省におかれては、以上のことをご賢察の上、国家百年の計に基づいた学術及び高等教育施策を遂行せられることを切に要望するものである。

 

 

国立17大学人文系学部長

(弘前大学人文学部長 藁科勝之、岩手大学人文社会科学部長 高塚龍之、山形大学人文学部長 高木紘一、福島大学行政社会学部長 松野光伸、茨城大学人文学部長 村中知子、埼玉大学教養学部長 岡崎勝世、富山大学人文学部長 山口幸祐、信州大学人文学部長 大島征二、静岡大学人文学部長 山本義彦、三重大学人文学部長 渡邉悌爾、島根大学法文学部長 松井幸夫、山口大学人文学部長 田中晋、徳島大学総合科学部長 熊谷正憲、愛媛大学法文学部長 今泉元司、高知大学人文学部長 松永健二、鹿児島大学法文学部長 辰村吉康、琉球大学法文学部長 伊禮恒孝、以上17学部長)