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国立大法人化 基礎研究を怠らないで 
 .『東京新聞』社説  2003年4月21日付 
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『東京新聞』社説  2003年4月21日付

国立大法人化 基礎研究を怠らないで


 国立大学法人化法案が国会で審議中だ。法人への移行は、民間の発想を取り
入れ、経営体制の確立を図るのが狙いだ。利益を追って産学連携に走るあまり、
基礎研究が疎(おろそ)かにされてはならない。

 国立大学はこれまで、国の行政機関の一部として、比較的安い均一の授業料
で、教育の機会を国民に均等に提供してきた。採算にこだわることなく、遠い
先を見据えた基礎的な研究にも打ち込めた。それが国立の利点の一つでもあっ
た。

 しかし、来年春から法人に移行すると、学外有識者を含めた経営協議会の設
置が義務づけられ、民間企業の発想を取り入れた経営体制の構築が求められる。
これまでのように「採算は度外視」とは言っていられなくなる。

 国立大学の多くが最近、産学連携に走り出したのはこのためだ。一例を挙げ
よう。旧帝大の一つ、北海道大学は東京・品川駅前の新高輪プリンスホテルの
一室に東京事務所を開設した。北大の東京での活動拠点と位置づけ、学生の就
職活動を行うほか、産学連携先を見つけるため企業の関係者を集めて研究内容
の説明会を催す、という。

 産業を活性化させる、という意味でも産学連携はいいことだが、問題は産学
連携の優先によって肝心の基礎研究がなおざりにされないか、ということだ。

 昨年のノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大学名誉教授も、本紙主催
の座談会で国立大学の法人化に触れ「採算に結びつかない基礎科学が冷や飯を
食うのは目に見えている」「お金にはならないが、基礎科学をサポートしてい
く、ということを国がはっきり形に表してほしい」と訴えている。

 基礎科学の研究の大切さは、あらためて説くまでもない。先ごろ公表された
ヒトゲノム(全遺伝情報)の完全解読は、将来、医学や薬品の分野で人類に多
大な利益をもたらす、とされている。現代社会に電気を供給している原子力発
電は、核分裂の基礎的な研究があってのことだ。

 基礎科学の研究を私立大学や産業界に求めるには限度がある。研究そのもの
に時間がかかり、必ずしも利益を生むとは限らないからだ。

 産学連携ばかりに目がいき基礎的な研究がおろそかになると、科学技術立国
日本の将来は危うい。法人へ移行後も、ここはやはり、蓄積のある国立大学の
力量に負うところが大きい。そのためにも国は、基礎研究への揺るぎないサポー
ト体制をとるべきだ。