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独行法反対首都圏ネットワーク

本日(5月30日)の国大協理事会に手交した「要請文」です。

 
「国立大学法人法案」に対する国大協の対応と、今後のとるべき態度

          ―国大協理事会において検討されるべき事柄―


                                                         2003年5月30日
                              独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局


はじめに

 「国立大学法人法案」および関連5法案は、5月16日の衆議院文部科学委員会
において、審議不十分のまま委員長「職権」によって採決が強行された。翌週
の23日には、参議院本会議において、遠山文部科学大臣の趣旨説明と民主党、
共産党の代表質問が行われた。29日からは、文教科学委員会における本格的な
審議がスタートしている。

 5月29日の参議院文教科学委員会では、鈴木寛(民主)、林紀子(共産)、西岡
武夫(国連)の野党3氏は、それぞれ法案反対の立場から鋭い追及を行った。鈴
木氏は法案の構造的問題点を、林氏は労働安全衛生法対応準備が来年4月には
終了しない点を、西岡氏はこれまでの大学改革の流れのなかで確認されてきた
事柄が無視されている点を、具体的に提示した。特に西岡氏は質問開始の冒頭
に徹底審議を要求し、委員長は「審議には十分時間をとりたい」と表明した。
今後、法案の逐条検討を含めた厳密な審議が求められている。 


一、法案をめぐる国大協の対応と、その異常さ

 この「国立大学法人法案」に対して、最大の当事者であるべき国立大学協会
(国大協)は、この間、何を検討し、いかなる対応を行ってきたのであろうか。

 2月24日に開かれた理事会では、法案への対応をめぐって活発な議論があり、
「多数の疑問」が出されたことは、東京大学の佐々木総長が明らかにしている
(東大『学内広報』No.1258)。その結果、長尾会長から、「法案が国会に提出
された段階でその内容を検討し、国大協として表明すべきことがあれば内容を
はっきり示して、理事会で承認を得て発表するなり、あるいは臨時総会を開催
して議論することも視野に入れて対応を検討する。」(理事会議事概要)と総括
されることになった。

 それにも関わらず、現在に至るまで国大協は、法案に対する見解を一切明ら
かにしていない。

 それどころか、5月7日には法人化特別委員会の石委員長の名で、各大学あて
に「国立大学法人制度運用等に関する要請事項等について(検討案)」なる依頼
文書を送付した。この文書は、法案成立を前提とし、法人化以降に適用される
諸法律について適用の「配慮」を求めるなど、違法・脱法的行為を国大協が率
先して求めるという、信じがたい内容の文書であると言わねばならない。

 しかしこの文書については、5月14日の国会審議において、大石厚生労働省
安全衛生部長が、「労働安全衛生法が適用になれば、免除ということは、何ら
かの法定事項がない限りはそういうことはない」と答弁しており、国大協が求
める「配慮」は不可能であることが明白となっている。

 この国大協の文書については、日本国家公務員労働組合連合会や日本労働弁
護団の弁護士からも、一様に批判の声が上がっている。国大協の文書は、全体
としてみるなら、この法案(法人移行日を含む)を適法的に成立させることがで
きないことを自ら明瞭に示したものなのである。


二、国会審議で明らかにされた法案の諸問題

 衆議院における審議では、法案について政府の説明が破綻している点や、違
法・脱法的行為なしには来年4月に法人化をスタートさせることは不可能であ
ることが、次々と明らかにされた。

 法人化移行後に適用される、労働安全衛生法や労働基準法について、16日の
衆議院文科委員会で、文科省の河村副大臣は、後に修正したものの、来年4月
の法人化スタートに間に合わない場合は、「補正予算を組んででも対応する」
とまで発言した。また、施設改修などの具体的な計画や資料について、萩原文
教施設部長は、「今日、調査を開始し」「今月中には報告できるようにしたい」
と述べた。法案を国会で審議中にも関わらず、法人化への移行費用の概算すら
文科省は把握していなかったのである。

 一方、『文教速報』(2003.5.23)によれば、文教施設部の舌津計画課長が、
全国経理部課長会議において、労働安全衛生法への対策は追加財政支援なしで
緊急に改善を行え、という内容の指示をしていおり、財政措置は取られないこ
とが明らかとなった。だが、一時は補正予算を口にしたほどの大規模な経費を、
個々の大学の、しかも今年度予算で対応できるはずはない。

 また、文科省は28日になって、衆議院文部科学委員会の要求によって、昨年
10月に判明した、国立大学・高専の不備のある実験室計1万3562室のうち、こ
れまで改善されたのは1082室にすぎないこと、今年度中に306億円で残りを改
善することなどを発表した(「国立大学等における安全衛生管理の改善対策に
ついて」)。しかし、29日の参議院文教科学委員会の質疑において、この対策
には重大な問題点があることが判明した。

 第1に、「不備のある実験室計1万3562室」という調査結果は、有害な化学物
質等や実験機械・器具等を取り扱う実験室に限定されており、労働安全衛生法
が要求する屋内外のすべての施設整備の調査はまだ行われていない疑いが極め
て強い。

 第2に、306億円という改善に必要な経費の算出も、単に各大学事務局からの
報告を集計したものであって、教育研究現場の現状とは大きくかけ離れている
可能性が高い。例えば、文科省答弁では東大での必要経費は約27億円とされて
いるものの、林参院議員の調査によれば、東大工学部のみで17億円を優に超え
るという。

 つまり、この「改善対策」では、2004年4月までに労働安全衛生法に対応す
る状況にまで大学の施設を改善することはできないのである。しかも、306億
円のうち文科省が補助するのは160億円に過ぎず、残りは各大学で負担せよ、
というのである。このため、例えば東大では、間接経費のうち6分の1を部局か
ら吸い上げる計画を立てざるをえない事態になっている。しかし、これでもな
お労働衛生安全法の要求する水準には到底到達しない。

 また16日の衆議院文部科学委員会で、遠山文科大臣は、来年4月までに対策
が終わらない場合、法人法を凍結するか、という民主党鳩山議員の追及に対し、
国立大学は「現在でも人事院規則に違反している」と答えている。自ら法律違
反の現状とその放置を認めたこの発言は、文科大臣としての責任が問われる重
大な問題発言であり、閣僚としての適性を疑わざるを得ない。


三、急速に広がる法案への批判、与党からも疑問の声

 こうした中で、各大学の教授会からは、法案に対する批判的な決議や見解が
次々と上がっている。これまでに発表されたものを以下に列挙する。

東京外国語大学外国語学部教授会、地域文化研究科教授会(03/3/20)
山形大学理学部教授会(03/4/14)
東京大学大学院理学系研究科・理学部(03/4/15)
山形大学人文学部教授会(03/4/16)
一橋大学社会学研究科教授会(03/4/16)
千葉大学理学部教授会(03/5/6)
千葉大学文学部教授会(03/5/8)
金沢大学経済学部教授会(03/5/15)
東京大学大学院工学系研究科(03/5/15)
金沢大学理学部見解(03/5/22)

 これらの教授会の見解は、それぞれ法案に対する評価の内容にこそ差はある
ものの、法案への批判・疑義・来年4月からの法人化移行の困難さを指摘する
点ではほぼ共通している。

 一方、与党である保守新党の熊谷代表は、13日の定例記者会見で国立大学法
人化法案を取り上げ、「・・・結果としてこれら大学の自治や学問研究の自立
を損ない、官僚支配になってしまうのではないか」と述べている。また、「特
にこれをこのままやると、天下り三倍増計画のような結果になってしまうので
はないだろうかと。現場の委員の意見等や、各党の議論に参加している方々の
話なども聞くと、皆さん、そういう感じを多少なりとも持っているようです」
とも述べ、「百年に一度の大失敗」となるのではないかと危惧を表明している。

 さらに、文科省の若手官僚の中からも、この法人化法案に対する批判の声が
あがっていると聞く。
 
 これらの発言は、このまま来年4月に法人化すれば、大学は極めて深刻な危
機に陥るという認識が政府や与党の内部にも広まっていることを示している。


四、法案に対して国大協が取るべき態度
  ―総会の場で「国立大学法人法案」に反対する意思決定を


 以上にみたように、法案について検討すればするほど、国の統制強化の問題
や天下り問題、財政措置や評価の不透明さ、など、問題点が次々と明らかになっ
ている。なにより、来年4月の法人化は、もはや不可能であることが明白となっ
ている。

 このように、違法・脱法的行為なしには法人移行が不可能となっている現状
を踏まえて、国大協として法案に対する態度を決定することが、何よりも求め
られていよう。

 国大協は、来る6月10,11日に定例の総会を予定している。その議題を検討す
るのが5月30日の理事会である。この理事会では、少なくとも以下の諸点を検
討し、国大協として必要な対応を早急に取るべきである。

○総会に提案する予定の「法人化に関する総括的な見解」を速やかに公表し、
全ての国立大学で検討できる措置を取るべきである。

○『文教速報』(2003.5.23付)および国会審議で明らかにされた、文科省の姿
勢(労働安全衛生対策費用を各大学に押しつけ、文科省としの責任を棚上げに
している問題)について、国大協として抗議すべきである。

○現在、法案が国会で審議中にも関わらす、国大協が法案成立を前提とした議
論を行うことは許されない。それは、国民に対する大学としての責任の放棄で
あるだけでなく、行政府に過度に依存し、国会の立法権を侵すことにもなる。

 むしろ、高等教育と学問研究に責任を負うべき国大協として、「国立大学法
人法案」に対する拒否の姿勢を総会で明確にするとともに、法案を審議中の国
会に対し、早急に以下の点に関する要請を行うべきであろう。

○来年4月の法人移行は、国立大学の現状からして不可能であること。

○法案には、「学問の自由」「大学の自治」の観点からみて、なお検討すべき
点がきわめて多いこと。

○衆議院段階で明らかにされた法案の問題点、法人への移行過程の適法性など
について、多面的かつ慎重な審議を行うこと。

○国会の会期内に審議が尽くされない場合には、結論を急がず、会期にとらわ
れることなく審議を継続すべきであること。

○教育は「国家百年の計」であることに鑑み、この法案で与野党の意見が二分
される状況は、教育研究の将来を考えても好ましくないこと、大学改革につい
ては、少なくとも大多数の国会議員が賛成できる内容が必要であること、を国
会に対して要望すること。