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独行法反対首都圏ネットワーク

奇妙な言明
   ―椎貝博美(前山梨大学長)「国立大改革  独創力で制度疲労克服を」につい



                                                         2003年5月23日
                              独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局


  『朝日新聞』5月22日付の「私の視点」に椎貝前山梨大学長の投稿論説が掲
載された。この論説は、学長経験者でありながら、多くの認識不足を露呈する
ものであり、見すごすことはできない。以下、問題点を指摘したい。

  まず、現在の争点についての誤認がある。椎貝氏は論説の最後を「・・・大
学統合に続く国立大学の法人化はこれらの延長線上にあり、国立大学にそれぞ
れの法人格を与えることだ。これは大学統合に劣らない難題だが、すでに国大
協総会において挙手による圧倒的多数で決定されており、それは当然尊重され
なくてはならないだろう」と結んでいる。法人化と大学統合とを並列して語る
こともおかしいが、それ以前に、国大協総会の合意についての事態誤認を広め
る罪は大きい。

  昨年4月19日の臨時総会で、挙手で強行採決して了承したのは最終報告の内
容である。いま問題となっているのは、この最終報告の内容と、国立大学法人
法案とが重要ないくつかの点で違っているということである。昨年4月の「決
定」は、その内容を見れば、この法案への反対を意味する、と理解するのが正
しい。そして事実、2月に出された法案の概要の段階で、24の国立大学が多く
の問題点を指摘したのである。

  法人化の賛否とは関係なく、現在国会で審議されている国立大学法人法案の
是非が、いま争点となっているのである。

  他にも2点、大きな思い違いをされているので指摘しておきたい。

  椎貝氏は、山梨大学と山梨医科大学の統合を「大学の独創力」の例として誇
らしげに掲げている。前例のない大きな提案は法令の改正が必要となる場合が
多いが、それは文部科学省の協力なしには実現しない。山梨大学と山梨医科大
学の統合は「大学の独創力」の例ではなく、政府が掲げている主要な政策に合
う限り、前例のない改革でも実現できる、という例でしかない。もちろん、そ
れは大変な作業であるには違いないが、そういった独創力しか発揮できない環
境に国立大学が置かれてきたことが「国立大学制度疲労」の真相であろう。

  国立大学制度の疲労は、自然に「疲労した」という自動詞ではなく、「疲労
させられた」という他動詞として語るべき面が大きい。

  また、企業会計制を重要な経営学上の発明として大学で教えているのに大学
に導入するのを恐れるのはおかしい、という発言に到っては、何を考えておら
れるのか、という思いがする。企業会計原則は、営利目的の経済活動を明確に
記述するために進化してきたものであり、それを営利を目的としない組織であ
る大学に適用することは的外れであり、そのために、種々の歪みが発生するこ
とを大学人は「恐れている」のである。

  今の国立大学を疲労させているのは、政策に合致しない大学改革が困難であ
ることであり、国立大学法人法案の問題は、それが不可能となることにあるの
である。この点を看過している点で、この論説は現在の状況ではほとんど無意
味なコメントとなっている。