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☆大学研究費、改革で賛否 総合科学技術会議vs文科省
 .『朝日新聞』2003年5月21日付
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『朝日新聞』2003年5月21日付

大学研究費、改革で賛否 総合科学技術会議vs文科省

 
 大学の基礎研究を支えている文部科学省の科学研究費補助金(科研費)が、
制度改革を前に揺れている。科学技術政策の司令塔である総合科学技術会議
(議長・小泉首相)が、研究実績と給与やポストを連動させて競争を促すなど
の改革指針を示したからだ。研究者の間に、産業応用に直結しない基礎研究が
軽視されかねないとの声が出ている。

 ●実績と給与・ポストを連動

 総合科学技術会議は4月下旬、「競争的研究資金制度」の改革方針を決めた。
同制度は、個々の研究者の発案に基づいて作られた研究計画を審査して採択す
る公募型で、国や配分機関を通じて研究者に資金を配る制度の総称。7省で計
26制度あり、総額約3490億円にのぼる。

 その半分以上を占める科研費(約1760億円)は、学術研究、基礎研究の
振興を目的とする資金。国公私立の大学や公的機関の研究者に配分され、研究
活動を支える最大の基盤となっている。文科省と日本学術振興会が研究者の申
請に基づき、第一線研究者でつくる委員会で審査して配分する。配分額の9割
が理科系で、1割が人文・社会科学系だ。

 改革で求められている内容は、経済産業省など他の制度では一部先行して導
入されている。科研費はほとんど手つかずで、改革の標的とされた。

 プロジェクトチームが昨年4月に検討を始めたあと、東大医学部教授らの不
適切な研究費の経理処理問題が表面化したこともあり、制度改革が加速した。

 改革の柱は、04年度の国立大学法人化と連動するものが多い。

 まず、資金獲得や研究成果を給与や人事に反映させる。より多くの資金を集
める研究者のいる大学が活性化することになり、大学間の競争はいっそう激し
くなる。

 一方、時流に合わない研究に資金が回らず、地道な努力を要する研究が途絶
えてしまう懸念がある。

 若手研究者へのてこ入れも柱の一つだ。

 権威の確立した研究者に資金が集中し、若手に回る額が少ないという反省か
ら、若手向け資金の拡充をめざす。さらに、資金獲得の多寡が、その後のポス
トを左右する仕組みも盛り込んだ。

 また、教授を頂点とする現在のピラミッド構造を変え、研究者それぞれの独
立性を高めるため、助教授、講師、助手という職務や名称を見直すことも検討
する。

 ベンチャー企業への助言や経営参加など、大学研究者の産学連携はこれまで
以上に奨励される。ただし、研究や教育がおろそかにならないよう、研究にど
れだけ時間が割けるのかを申請書に書き込み、内閣府が整備を進める政府研究
開発データベースで管理する。

 資金配分先を選ぶ評価者は、応募者と同じ組織に属するなどの利害関係者を
除く。これまで、応募者の指導教官や非常に研究分野の近い専門家が評価に加
わっていた例があり、厳密な評価の妨げになると判断した。

 政府は、01年度から05年度までの第2期科学技術基本計画で、科学技術
創造立国を支える施策の一つとして競争的研究資金の倍増を掲げている。緊縮
財政が続いているにもかかわらず、着実に拡充を進め、この資金にあてる予算
も増えている。05年度の目標額は6千億円で、00年度の倍にあたる。

 ●「基礎分野を軽視」の声も

 「米国の追従に過ぎないのではないか。競争だけに主眼を置けば、基礎研究
が廃れてしまう」

 科研費のあり方を検討している文科省の科学技術・学術審議会研究費部会で、
そんな意見が相次いだ。

 ノーベル化学賞を受けた野依良治・名古屋大教授も部会メンバーで「米国が
うまくいっているのは大学院教育に使命感があるから。その視点がないまま、
改革を進めていいのか」と発言した。総合科学技術会議の方針を評価しつつも、
マイナス面を挙げて反論する報告書を準備中だ。

 部会で反発が大きいのは、科研費の民間開放。

 総合科学技術会議は、島津製作所フェローの田中耕一さんや芝浦工大の江崎
玲於奈学長ら企業人がノーベル賞を受けた例を強調。応募資格を大学人に限ら
ず、企業人にも開放すれば、「我が国の研究の質が向上する」とみる。

 部会では、「営利を目的とする企業に学術資金を配るのは問題だ」「特許優
先となると、成果が公表されないのではないか」などの反論が出た。

 文科省は、現行制度でも大学研究者との共同なら企業人も科研費を申請でき
るとしている。だが、総合科学技術会議は「申請はほとんど困難で、不十分」
との立場だ。

 同会議の幹部は「大学への予算配分が減るのではないかという心配が、研究
者の中にある」とみる。新制度で研究を活性化できると意気込む研究者もいる
が、兵糧攻めの不安の方が強まっている。

 部会のメンバーの一人は「米国の競争的資金は日本の10倍と潤沢だ。日米
で前提が違うのに、似た制度を持ち込むのは無理がある」と話す。