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独行法反対首都圏ネットワーク

国立大学の法人化 学問・文化衰退の懸念も 
 .『熊本日日新聞』社説  2003年5月11日付 
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『熊本日日新聞』社説  2003年5月11日付

 国立大学の法人化 学問・文化衰退の懸念も


 国立大学を二〇〇四年四月から法人化するための関係六法案が国会に提出さ
れた。国立大学は帝国大学令(一八八六年)や学校教育法(一九四七年)によ
る制度改革を経験しているが、今回はそれらを上回る大幅な改革になっている。

 法案によれば、大学はそれぞれ法人化され独立的な性格が強まる。同時に、
文部科学省によるコントロールが可能になっているのも特徴だ。

 具体的には、文部科学大臣は大学の意見も聞いて中期目標を示し、それに基
づいて大学が作成する中期計画を認可する。さらに、文科省内に設ける評価委
員会が計画の達成度などを判定する。この結果は予算配分にも影響を与える。

 各大学は中期計画の達成が至上課題となるため、民間企業的な運営手法も取
り入れる。学長は社長並みの権限を持ち、重要事項は学長と理事で構成する役
員会で決定する。審議機関として経営協議会と教育研究評議会がつくられ、そ
れぞれ別に協議する。教官の身分も非公務員型に変更され教育公務員特例法で
守られてきた身分保障を失う。人事権は学長が持ち、給与も大学で決める。

 役員会や経営協議会には学外理事や学外委員の登用が義務づけられ、「開か
れた大学」の形は整う。地域の自治体や企業などからの資金や人材の提供を受
けることも可能で「産学連携」の推進にもなる。

 国が国立大学に対して「アメ」と「ムチ」を与えることになるため、大学が
行う研究の「誘導」も行いやすくなる。すでに文科省は「21世紀COE」
(旧名・トップ30大学)を実施、特定の研究を支援している。生命科学、情
報技術、ナノ・テクノロジーなどの分野からの選定が目立つ。これらは世界的
な開発競争が行われている新しい産業課題だ。文科省は、こうした分野への研
究を活発化させ、日本の産業競争力の回復にもつなげたい意向のようだ。

 これに対し、教職員組合など大学内部からは「近視眼的な経済論理で大学を
競わせ、学問の自由や大学の自治を否定するもの」という強い反発が出ている。
確かに、文科省は「大学の自治」の壁を破り、大学の存廃を左右する権力を手
に入れる。文科省が大学や学部の統廃合を意図すれば大学の抵抗は難しい。企
業に置き換えれば、文科省がグループの本社機能を持ち、各国立大は子会社と
もいえる。その活動は自由だとしても、成果を出すことが大前提となるわけだ。

 結果として、旧帝大などの有名大だけが生き残り、地方の国立大は統合や民
営化が迫られる事態もあり得る。大学内でも、産業的な価値のある研究が厚遇
され、基礎教育や人文系の研究の予算が削られる事態や予算不足から授業料の
値上げにつながる心配もある。

 小泉首相が好む構造改革の論理が国立大学に持ち込まれたという印象が強い。
しかし、統制が過ぎると国の総合的な学問・文化の衰退も招きかねない。今の
大学生は「研究の基礎となる教養が不足している」といわれる。国立大学が理
工分野の教育研究機関としての機能を強めるならば、この傾向も改善されない。
高等教育のあり方や評価の方法については、もっと幅広い議論を行う機会を設
けるべきではないだろうか。

 ただし、法案に反発する人たちの「学問の自由」や「大学の自治」といった
表現にも説得力が乏しい印象はぬぐえない。自己改革が遅れ、研究や教育でも
国際的な水準から離れてしまった部分がある。地元の熊本大でも、学部間の対
立が根深く、大学全体を視野に入れた自己改革を行いにくい体質があるという。

 国立大学のあり方に対して国民の関心が高まらないのは残念だが、大学人に
は自らが招いた事態という反省も必要であろう。