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独行法反対首都圏ネットワーク

国立大法人化 疑問点多く抜本見直し 
 .『朝日新聞』2003年5月7日付 
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『朝日新聞』2003年5月7日付

私の視点 元大阪大学事務局長 糟谷 正彦

◆国立大法人化 疑問点多く抜本見直しを


 国立大学を国の行政組織から切り離し、それぞれ法人化して自主性を高めよ
うとする国立大学法人法案と関係法案の国会審議が始まった。国立大学の事務
に携わった経験に照らし、この法案には多くの疑問点がある。国会で議論を深
め、間違った方向にカジを切らないようにしてほしい。

 第一は、事務の簡素・効率化に逆行し、屋上屋の組織ができる点である。重
要事項の決定は現在、評議会だけだが、法案では(1)役員会(2)経営協議会(3)
教育研究評議会と三つもの組織ができるとされる。教育研究と経営が密接に関
連していて分かち難い大学で、迅速な決定ができるだろうか。

 例えば、ノーベル賞で有名になった素粒子ニュートリノ検出装置「カミオカ
ンデ」の建設のような場合、学問の発展の方向性は(3)で、多額な予算措置は
(2)で審議するわけだが、すぐに折り合いがつけられるとは思えない。機動性
に欠けることは明らかだ。

 また、業務実績を評価するための国立大学法人評価委員会と、教育研究面を
評価する独立行政法人大学評価・学位授与機構の評価は、業務か研究教育か分
けられない事項(入試やカリキュラム改善など)が多く、重複することになる。

 第二は、大学の自治に絡んで重要な役割を担ってきた教授会の位置づけがあ
いまいな点である。国立学校設置法が廃止され、教育公務員特例法の中から国
立学校に関する規定が削除されるため、教授会の役割に関する規定がなくなる。
その一方、学校教育法59条には「重要な事項を審議するため、教授会を置か
なければならない」という規定が残っている。教授会はなくならず、その役割
は新法人の内部規程で定めることになるのだろう。

 そうした教授会と、やはり重要事項を審議する役員会などの意見が食い違っ
た場合、どちらを優先させるのだろうか。学問水準の維持に欠かせない「教授
会による大学の自治」を尊重するなら、権限は役員会とぶつかる。私立大学で
しばしば起きる教授会と理事会の対立の図式が持ち込まれることになりかねな
い。

 第三に、新法人には民間会社の監査役に当たる監事2人が置かれるほか、企
業会計原則(複式簿記、時価主義など)が適用され、財務諸表の作成が義務づ
けられ、会計監査人(公認会計士または監査法人)の監査を受ける。大学にとっ
ては教育研究の人材の蓄積と施設設備が基本的な財産であり、企業会計導入の
利点はない。

 新法人は従来通り、会計検査院の検査も受ける。独立行政法人制度の枠に無
理にあわせようとして、余計な手間と書類の山を築くだけのように思われる。

 一方で、新法人は文部科学相に年度計画や事業報告を提出したり、中期計画
の認可を受けたりしなければならないなど、随所に国の認可・協議事項が規定
されている。国の枠の下で法人化の目的である大学の自主性が高まるのだろう
か。

 こんどの法案は抜本的に見直すべきだ。

 この改革は99年に閣議決定された「国家公務員の25%削減」を契機に進
められた。これを達成するため、大学を行政組織から切り離して法人化し、教
職員を非公務員化するほかないというなら、国立大学機構(1法人)を設立し、
それが89国立大学を設置、運営する体系にすればいい。そのうえで規制緩和、
簡素・効率化を進めてはどうだろう。