文部科学委員各位

 

 日頃、日本の教育・研究などの発展のためにご審議ご努力いたたき敬意を表するものです。このたび、貴議員所属の文部科学委員会において審議中の「国立大学法人法案」にかかわって、愛知教育大学教職員有志58名(本日16時現在)で、以下のような声明を発表しましたので、お知らせします。

 聞くところによれば、明日の委員会で採決の可能性があるとのことですが、声明にのべたような現在上程中の法案の問題点・重要性をぜひご検討いただき、廃案にしていただくか、さもなければ、さらなる慎重で十分な審議を行っていただきますようここに要望するものです。

 

2003年5月15日

 国立大学の法人化に反対する愛知教育大学有志の会

  連絡先:愛知教育大学 太田弘一 0566-26-2487

 

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       「国立大学法人法案」の廃案を求める愛知教育大学有志の声明

 国立大学法人法案は、国会に上程され、与野党対立の中で審議の山場を迎えている。この法案には、以下にのべるようなきわめて重大な問題があり、高等教育をはじめとして日本の教育及び学術研究の将来に深刻な事態をもたらすことになる。私たちは、ここに法案の廃案を求めて声明を発表する。

主な問題点は以下の通りである。
(1)設置者が国ではなく「国立大学法人」となることによって、国は大学の教育・研究を支える財政的責任を負わなくてもよい仕組みとなる。そのため経営が優先されることにより、授業料の高騰や営利に直結した教育・研究が優先され、基礎研究や公共性の高い教員養成教育などが軽視されるおそれがある。
(2)大学教職員を「非公務員」とすることは、労働条件の面からみると、教職員の身分を不安定にするとともに、教員にとっては「教育公務員特例法」の対象外となることを意味し、国民全体に責任を持って行われる自由な教育研究とそれを支える業務が行われなくなるおそれがある。また「非公務員化」は国の行財政改革路線の中での公務員減らしのつじつまあわせに他ならず、これを国立大学教職員に一方的に押しつけることは全くもって不当である。
(3)基本的に独立行政法人通則法にもとづいた法案となっており、「経営」と「教学」の分離が大学運営の基礎にすえられている。本来、大学運営と教育研究は一体として企画・実施されることによって、大学の本来の機能が果たされるものである。それを分離することは、経営と教学の対立を引き起こし、大きな混乱をもたらすおそれがある。
(4)文科大臣が「中期目標」を定め、「中期計画」を認可することになっており、大学の教育・研究を政府が統制することが可能になっている。このことは、明白に学問の自由・大学の自治(憲法23条及び教育基本法10条)に対する侵害であり違法である。
(5)「経営協議会」と「教育研究評議会」を設置している一方で、これまで、「学校教育法」にも規定されており、大学運営の中心を担ってきた「教授会」が法案の中で規定されていない。そして、大学運営(経営)の中心を担うことになる「経営協議会」には、半数以上の学外者を含めることが規定されており、大学の教育研究に携わる者の意思を尊重した大学運営が困難な仕組みとなっている。さらに、学長権限が異様に強化されており、学長による専制体制を可能にするものとなっている。

 以上の点から、法案は、明らかに「学問の自由」の保障をうたった憲法および「教育は不当な支配に服することなく」と定めた教育基本法に違反するものであり、政府と財界による教育・研究への介入を容易にするものである。さらに、国は財政的支援を放棄し、授業料の高騰により、教育の機会均等は奪われ、儲かる研究・教育や時の政府に都合のよい教育研究のみが推進されるであろうことは火を見るより明らかである。
 本学教授会は、2000年2月に「国立大学の独立行政法人化に対する愛知教育大学教授会の見解」を可決し、国民に開かれた大学づくりに努めていく決意を表明している。現在審議の山場を迎えているこの法案により、そこで述べた問題点が現実化されようとしており、ここにあらためてその声明の意義を確認するものである。
 さらに、国立大学協会法人化特別委員会は、法人化にあたって、労働基準法や労働安全衛生法などの適用猶予等を求める要請を行おうとしている。このような違法性のある要請を行うこと自体、大学人として到底容認できるものではない。さらにあわせて、法人化への移行にあたって必要な財政にかかわる問題も関連しして指摘されている。つまり、この要請ははからずも、2004年4月からの国立大学の法人化が適法的には実施し得ないことを、法人化推進の立場のものが自ら明らかにしたものであり、国立大学法人法案は、もはや廃案以外に選択の余地はないということをしめしている。

 私たちは、ここに法案の問題点を訴えるとともに、法案の廃案を強く求めるものである。同時に、国立大学協会に対しては、緊急に臨時総会を開催し上記の問題点を率直に確認して法案の廃案を政府に求めること、そして自主・自律を真に保障した大学改革に向けて国民的議論を幅広く提起すること、以上2点を強く要求するものである。

 

賛同者名簿

稲毛正彦(理科教育)、岩崎公弥(地域社会システム)、牛田憲行(理科教育)、太田弘一(技術教育)、寺中久男(理科教育)、菅沼教生(理科教育)、坪井由実(学校教育)、松田正久(理科教育)、南守夫(外国語教育)橋本尚美(家政教育)、折出健二(学校教育)、大村惠(学校教育)、中田敏夫(国語教育)、船尾日出志(社会科教育)、坪井由実(学校教育)、竹田尚彦(情報教育)、野崎浩成(情報教育)、竹内謙彰(学校教育)、大西研治(技術教育)、瀬田祐輔(学校教育)、子安潤(学校教育)、野田満智子(家政教育)、鷹巣純(美術教育)、樋口一成(美術教育)、森崎博志(障害児教育)、加藤正義(技術教育)、時衛国(外国語教育)、横山信幸(国語教育)、道木一弘(外国語教育)、橘田紘洋(技術教育)、小竹聡(地域社会システム)、鈴木将史(数学教育)、市橋正一(理科教育)、高橋裕子(保健体育)、中津楢男(情報教育)、山田綾(家政教育)、長沼健(理科教育)、澤正実(理科教育)、松田京子(社会科教育)、羽渕脩躬(理科教育)、吉岡恒生(障害児教育)、藤井啓之(学校教育)、寺本圭輔(保健体育)、日野和則(家政教育)、早瀬和利(家政教育)野沢博行(美術教育)、見崎恵子(社会科教育)、岩渕邦子(外国語教育)、宇納一公(美術教育)、長井茂明(家政教育)

以上50名

他 非公開希望の賛同者8名(事務職員を含む)

合計58名

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以下送付後の追加分: 坂田利弘(保健体育)、佐藤彰(社会科教育)、山根真理(家政教育)、太田忠之(理科教育)

総計62名