意 見 書
2003年5月13日
東京都新宿区四谷1−2伊藤ビル
東京法律事務所
弁護士 井 上 幸 夫
国立大学法人と労働基準法,労働安全衛生法の適用等に関する問題について,独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局から意見を求められたので,次のとおり意見を述べる。
1 2004年4月から国立大学を国立大学法人化する法案が,現在,国会で審議されているが,独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局によれば,国立大学協会は,政府への要請事項の一つとして,国立大学法人へ移行される2004年4月以降,その準備が整うまでの一定期間,「労働基準法に基づく各種届出義務に関する運用上の配慮」及び「労働安全衛生法の適用に関する運用上の配慮」を政府に求めることを検討しているとのことである。
2 労働基準法及び労働安全衛生法は,日本国憲法27条2項(「賃金,就業時間,休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。」)に基づき制定された法律であり,その違反には使用者に対する刑事罰をもって処する最低の労働条件の基準を定め,法違反の罪について労働基準監督官が司法警察官の職務を行うこととされる法律である。
このように,法違反には刑事罰をもって処する刑罰法規である法律について,国立大学法人へ移行された時点以降の「運用上の配慮」を政府に求めるということは,実質上,刑罰法規違反を黙認するよう政府に求めるものと解さざるを得ない。
しかし,このような刑罰法規違反の黙認を政府に求めることは一般に考えられないことであり,政府としてもこのような刑罰法規違反の黙認を認めることは考えられない。
3 したがって,現段階の国立大学における準備の都合上,国立大学法人化時点では,例えば,就業規則の作成・届出,時間外労働をさせる場合の36協定の締結・届出などの労働基準法に基づく各種届出や労働安全衛生法による要件を充たした設備等の履行など,労働基準法及び労働安全衛生法を遵守できない状況にあるというのであれば,国立大学法人化の実施時が再検討されるべきであると思料する。
なお,刑罰法規に関する「運用上の配慮」などという法律上考えられない取扱ではなく,2004年4月から一定期間は労働基準法及び労働安全衛生法の一部の適用除外という取扱をするのであれば,現在国会で審議されている法案の修正が必要不可欠であるが,その一定期間は,人事院規則も適用されず,国立大学法人の労働者にとっての最低労働条件の基準が空白になってしまうことにもなるから,その点で重大な問題が生じることになる。