独行法情報速報

No.25

特集:5.7国大協違法措置要請文書

 

2003.5.12 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/

  

千葉大学は違法・脱法行為と悪法制定の共犯者になってはならない

 

国立大学協会の法人化特別委員会は、5月7日に石弘光委員長名で「国立大学法人制度運用等に関する要請事項等について(検討案)」という文書を各国立大学長あてに送付し、5月15 日午後5時を期限として各大学から意見を寄せることを求めている。

磯野学長は、4月17日の国大協特別委員会において臨時総会の開催を求めるなど積極的に発言されるとともに、同委員会の内容を翌18日の評議会で詳しく報告された。また、5月7日付文書も直ちに部局長に送付し、12日までに意見を提出するよう指示するなど、情報公開と部局からの意見聴取に努められている。

 

【開示1】5.7国大協による違法措置要請文書(抜粋)http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html

 

U 法人への移行過程に関する事項

 

1.各種法令の適用に関する運用上の協力と配慮

国の組織から国立大学法人へ移行することに伴い、労働関係法規、医療機関に関する法規をはじめとする各般の法令が新たに適用されることとなるが、関係行政庁への各種届出義務に関する規定及びこれに関連する罰則規定の適用をはじめとする諸法令の適用に関しては、当面は、各大学が法人化へ移行する経過的期間であることに鑑み、その準備が整うまでの一定期間、弾力的な運用が図られるよう、例えば以下のような点で、関係行政庁の十分な協力と配慮が必要であること。

 ・ 労働基準法に基づく関係行政庁への各種届出義務に関する運用上の配慮

 ・ 労働安全衛生法の適用に関する運用上の配慮

 ・ 法人化に伴う関係行政庁への附属病院の開設承認再申請に関する運用上の配慮

2 事務系職員の適切な人事交流システム構築への協力

 ・ 法人の人事権のもとで、事務系職員の人事交流による人材活用と職場の活性化をはかるための適切な人事交流システムの構築や国の機関との人事交流・異動の円滑な実施への協力等

3 法人への移行に伴う新たな必要経費の確保

 ・  労働安全衛生に対する計画的な対応への必要経費、財務会計システム等の構築のための経費、などの確保

  ・ 出資財産(土地・建物等)の確定・整理・評価・登記に伴う諸経費の確保

 

V 法人移行後の制度運用に関する事項

 

1 高等教育への公財政支出の充実

 ・ 中教審で検討中の高等教育のグランドデザインに基づく公財政支出の拡大と充実

 ・ 基盤的研究・基礎科学的分野への基盤経費の確保

2 法人の財政的な自律性を高める観点からの適切な運用

 ・ 剰余金の処理における法人の経営努力の幅広い認定

 ・ 中期計画終了時の積立金の処分における法人の立場の最大限の尊重

 ・ 効率化係数等による運営費交付金の一律減額措置の排除

 ・ 運営費交付金の算定基準の明確化

 ・ 国立大学の存在意義を踏まえた適切な学生納付金の標準額の設定等 

 ・ 土地処分収入の一定額の当該法人への留保

 ・ 収益を伴う事業実施に関する法人の判断の尊重

 ・ 寄附金、受託研究経費等の運営費交付金の算定からの除外

3 法人の実状に応じた確実な財政措置

 ・ 労災保険、雇用保険、各種損害保険等の保険料、各種手数料、監査に要する経費、事務系職員の採用試験実施経費など、法人化に伴う必要経費の確保等 

 ・ 施設の維持・保全に要する経費の運営費交付金への反映

 ・ 附属病院の施設整備に充てる資金の国立大学財務・経営センターからの円滑な借り入れの確保 

 ・ 寄附金税制を含む現行の税制面での取り扱いの継続

4 国による各種損害の補填システムの整備

 ・ 自然災害及び火災等による被災施設等の復旧補填システムの確立(施設災害補助金等)

 ・ 医療過誤や医療事故による賠償責任システムの確立(賠償金等)

 ・ 教育研究中の事故等による賠償責任システムの確立(賠償金等)

5 文部科学省の国立大学法人行政体制の整備等

 ・ 法人化された国立大学に対する大学の自由度を尊重した文部科学省の新しい行政体制等の整備

 ・ 中期目標・計画を前提とした事後評価を尊重する具体的な事務処理体制の整備

 ・ 概算要求作業の簡素化等新しい関係における国立大学の事務負担の軽減

6 中期目標・中期計画における大学の自主性・自律性の尊重

 ・ 文部科学大臣が中期目標を定めるに当たって、大学の意見を最大限配慮すること。

 ・ 文部科学大臣が中期計画を認可するに当たって、大学の自主性・自律性を最大限尊重すること。なお、中期計画について、大学の教育研究の特性を踏まえ数値目標など詳細な内容指定を排除すること。

 ・ 年度計画の取り扱いについて、大学の教育研究の特性に十分配慮すること。

 ・ 計画期間中における計画変更を容易にする運用

7 国立大学法人評価委員会等による評価とその評価結果の活用方法

 ・ 国立大学における教育研究を伸張する適切な評価の実施

 ・ 大学の教育研究の特性を踏まえ数値目標などによる評価を排除

 ・ 大学に過度な負担をかけない評価方法の実施

 ・ 評価結果に対する大学の意見申し立て等の制度化

 ・ 評価結果の資源配分活用への慎重な配慮

 ・ 年度ごとの評価結果を資源配分に活用することを排除

8 国立大学の特性を踏まえた国立大学行政の確立

 ・ 教育研究の特性に配慮した適切な法律等の運用

 ・ 新連合組織(新国大協)と文部科学省との定期的な意見交換システムの構築

 ・ 監事の選任における透明性の確保

9 その他の要望

       法人化後における会計検査院との関係の明確化(計算証明、実地検査等)

          

【分析1】5.7国大協依頼文書の企図するものは何か http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html

 

5月9日付独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局声明「国立大学は違法・脱法行為と悪法制定の共犯者となるのか―驚くべき国大協特別委員会の5.7依頼文書―」を抄録する。

違法・脱法行為の勧め(IIの1):「各種法令の適用に関する運用上の協力と配慮」

「経過的期間」であることを理由に「弾力的な運用」といった措置や配慮を予め認める条項は当該法令には全く存在しない。とりわけ労働基準法は、最低限の労働条件の確保を罰則規定の下で厳格に実現させるための法律であって、各種届出義務(4月17日の特別委員会では、根幹にかかわる就業規則、三六協定が例示されている)の猶予などあり得ない。そもそも国立の機関である国立大学が、自らこのような違法・脱法措置を要求することなど論外である。この要請自体が、2004年4月法人化が適法的には実施し得ないことを明白に示している。

手当されない移行経費(IIの3):「移行に伴う新たな必要経費の確保」

移行前に必要な経費は旧7帝大では数10億円から100億円程度とも伝えられている。こうした必要経費は、たとえ国立大学法人法案が今国会で成立したとしても、移行前である今年度に支給されるという保証は全くない。このことは、国立大学が、たとえば労働安全衛生法が要求する環境を準備し得ないことを意味している。

要請事項が自ら示す法案の根本矛盾(III)

9項目にわたって「制度運用」に関する要請事項が列挙されている。しかし、国立大学法人法案は、はじめから、これらの事項をことごとく否定するために作られたものである。従って、これらの要請事項が運用で対処できる事柄でないことは論を俟たない。このような要請事項を掲げなければならないということは、国立大学は国立大学法人法案を受け入れることはできないことを示している。そもそも法自身の運用問題や関連する他法の適用延期・猶予・免除などを審議中から議論しなければならない法律は悪法であり、法の名に値しないのである。

背後に文部科学省

5.7文書は、違法・脱法的措置をとる以外に法人化が実現し得ないこと、また国立大学法人法案が国立大学の要求を全面的に踏みにじるものであることを、内外に明らかにしている。国大協執行部はこのような「5.7要請事項案」への意見を各大学に求めることにより、何を狙っているのだろうか。それは、各大学で急速に高まっている国立大学法人法案への批判をそらすためである。国会の立法権を侵害する形で強行されている悲惨で過酷な準備作業のなかで、各大学の現場からいま激しい批判や懐疑が湧き起こっている。これらの批判に対して、“各種法令適用への配慮と制度運用でなんとかなる”(つまりは、当初から違法・脱法行為を予定している)というデマゴーギッシュなキャンペーンをはるために、この「5.7要請事項案」が出されたのである。だが、国大協執行部の背後には文部科学省がいることは確実である。文部科学省は、移行過程における違法・脱法措置をあたかも大学からの要望であるかのように仕向け、そしてまた、制度運用上の要請を出させることによって、高まる批判に対する“ガス抜き”をはかろうとしているのである。

 

【提言1】

5.7国大協文書は、国立大学法人法案は廃案にする以外にないことを改めて示した。千葉大学学長は、5月15日を締め切りとする各大学の回答書に、「制度の運用によっては国立大学法人法の持つ根本的問題点を解決することはできない。従って、法案は廃案にすべきである。違法・脱法行為に加担するなど論外である」と明記すべきである。千葉大学は、決して違法・脱法行為と悪法制定の共犯者になってはならない。

 

 

中期目標・中期計画策定作業の動向

 

上記【提言1】で述べたように、現段階で採るべき最良の方針は、諸悪の根源=国立大学法人法案を廃案に追い込むことに全力を投入することである

。しかし、文科省は国会の立法権を侵害して、中期目標・中期計画等の準備作業の強行を押しつけている。

 

【開示2】 数値目標の設定をWG委員長などに依頼(2003年4月15日)

 

法人化対応委員会磯野可一委員長より、組織業務WGなど7つのWG委員長、および「国際交流センター(仮称)設立に関するWG委員長」「総合安全管理センター(仮称)設立に関するWG委員長」「CPT実務委員会委員長」「共同研究推進センター長」にあてて、「中期目標・中期計画(案)の修正について(依頼)」文書が、4月15日付けで出され、4月30日までの提出がもとめられた。その内容の要点は、これまで本学では「数値目標についても確定的な事項以外は記載しない方向で検討」してきたが、「今後より具体的な内容や数値目標がもとめられることも予想され」るので、「各WG委員長等の皆様に、添付の中期目標・中期計画(案)をご検討いただき、各WG等の視点から、本学固有の特色ある取組や、より具体的な方策及びそれに伴う数値目標の設定についてご提案いただきたくご依頼申し上げる」というものである。

 

【開示3】 中期計画の「部局版」の修正を依頼(2003年4月23日)

 

目標・計画策定委員会五十嵐委員長より、各部局長にあてて、「中期目標・中期計画Ver.4(部局版)の修正について(依頼)」文書が、4月23日付けで出され、5月6日までの提出がもとめられた。その内容の要点は、「中期計画欄の記載事項」について、「全体版15.4.22版」との「整合を図り、記載されていない○印事項の追加記載、可能な範囲の数値目標の設定、表現の統一『目指す→図る,検討する,など』及び記載場所の適切性の確認などについて5ページ以内に修正の上、提出」を依頼するものである。

 

【分析2】 中期目標・中期計画の作成作業の学内手続きは、フォロー不可能となっている

 

学内作業は、数値目標を設定する方向での修正作業が進められようとしているようである。しかし、その作業過程が、どのような手続きを経て、全学の理解と合意を得ようとしているのかは、ほとんどフォロー不可能に成りつつある。(1)まず、明確に数値目標の設定の「提案」をもとめた【開示2】の文書は、どのような性格のものなのであろうか。法人化対応委員会の内部の作業であるなら、まだ「仮称」のセンターの設立のWG委員長らにまで「依頼」をもとめているのはどのような根拠にもとづくものか。また、法人化対応委員会のWG委員長への「依頼」も委員長への依頼であって、WGの意見をもとめたのではないようであるが、これらの委員長の「依頼」にこたえた「提案」とは、どのような権限と責任にもとづくものであるのか。委員長個人の「提案」ということになるのか。(2)他方、各部局がもとめられているのは「4.22版」にあわせての、「部局版」「参考資料」の「中期計画」の記載の追加・修正だけである。まさか目標・計画策定委員会が、部局から提出される「全体版中期目標・中期計画」への修正意見を無視することはないであろうが、まだ中期目標・中期計画の修正作業を進めている過程なのに、各部局の意見を積極的にもとめようとしないのは、理解できないことである。(3)この【開示2】と【開示3】の文書の関係、それぞれの「依頼」への答申の間の関係はどうなっており、作業は今後どう進められるかは、現在何も示されていない。

 

【分析3】 実現根拠を持たない数値目標の盲目的設定は、自主性の放棄である

 

これまで千葉大が、数値目標の設定に慎重であったのは、それなりの根拠をもっていた。中期目標・中期計画を大学が自主的に実行すべきものと考え、実行条件との関連で数値目標を考えれば、慎重な検討が不可欠だからである。ところが現在、外部の圧力との関連で急遽、数値目標を設定しようとする動きが生じている。しかし外部圧力への対応策としての数値目標の設定は、中期目標・中期計画策定の自主性を放棄する道への第一歩であることが、銘記されねばならない。

 

【開示4】4.22全体版中期計画の問題点

 

4月22日、千葉大学法人化対応委員会が開催され、「全体版15.4.22版」とよばれる中期目標・中期計画(案)がまとめられた。細かい点まで含めればこれにはさらに多くの不明点・疑問点があるが、二、三の直ちに目に付く中期計画での問題点のみを、簡単なコメント付で開示しておく。

(1)「飛び入学制度で学部に入学した学生を中心に独創性を伸ばす新しいタイプの大学院設立を計画する」:これは、どのような大学院か、「新しいタイプ」というだけでは内容不明

(2)「学内評価委員会において、研究業績等の評価に関し、研究分野の特質を考慮した評価基準を設定し、その評価結果に基づき、研究費及びスペースの配分等にインセンティブを導入するシステムを構築する」:研究分野の特質を考慮した多様な評価基準の設定には、どれほどの作業を必要とするか、また多様な評価基準を、研究費などの配分基準という単一基準に還元する手続きはどのように可能か、を検討して中期計画内に「構築する」と書いたのか。

(3)「公募制の徹底を図るとともに、真に能力のある教員については、従来の定数にかかわらず採用・昇任させる仕組みを導入する。さらに、一定の期間を設け、その間の教育研究等の業績を評価する再審査制を導入するほか、一定の分野については任期制を導入することにより、優秀な教員を学内・学外(海外を含む)から募ることにより教員の流動性を高め、教育研究の活性化を図る」:定数の概念がなくなった下での人事制度の設計ぬきに、例外の採用・昇任を論じても無意味。「再審査制」の審査基準は何か、その結果はどのように用いるのか、の制度設計はどうなっているのか。そもそも千葉大では「教員の流動性」が全体に低いのか、高めることが「活性化」のポイントになるのか、データから検討が必要。

 

【提言2】 法案が制定されていない以上、まず「法人化への準備作業は法的根拠を持たない」(千葉大学教職員組合と学長との交渉における学長の回答)ことが確認されなければならない。にもかかわらず策定作業を進めようというのであれば、最低限、学内合意を得られる手続きを踏み、計画実施の必要性の理解を全学にひろげていくものでなければならない。この点からすると、現在の作業は、全学に徒労感のみを拡大するものになりかかっている。学長はまず、法人化対応委員会の任務・作業と、目標・計画策定委員会の任務・作業を仕分け、今後どのように作業を進めるか全学に示し、部局の協力を要請すべきである。手続き的にも混乱し、内容的にも形式を整えることのみに傾いた現在の策定作業に対し、各部局はただ受動的に部局版を作成して対応してはならない。「全学版」をふくめて気づいた問題点をひとつずつ指摘し、実行不可能な計画は拒否し、大学の自主的な教育研究に貢献するものへと改善する姿勢を保持しなければ、全くの無意味な作業となる。

 

【開示5】千葉大学理学部、文学部が法案批判と慎重審議要請の教授会決議

 

《理学部》4月24日議決、5月6日発表 http://www.s.chiba-u.ac.jp

...「法案」には多くの問題点があることを、私たちは改めて率直に表明するものであります。...国立大学協会は、速やかに総会を開催して、「法案」のもつ問題点を充分に議論し、その結果を広く国民と国会に提示することを強く要望いたします。最後に国権の最高機関である国会に対して、私たちは訴えます。今回の「国立大学法人法案」は、日本の高等教育の未来にとって、極めて"重い"ものです。私たちの率直な問題指摘も参考にされ、慎重かつ厳密な議論の上、国家百年の計を誤らない判断をされることを求めるものです。

《文学部》5月8日議決・発表 http://www.l.chiba-u.ac.jp/jp/dokuhouka.html

「国立大学法人法案」をみると、残念ながら、私たちが抱いた疑念と懸念を払拭するものとはいえない。...第一に、国会において今後の高等教育をいかにすべきかという長期的視野に立って、「法案」につき慎重かつ徹底した審議が実施されるよう訴えたい。第二に、この「法案」は高等教育の将来を左右しかねない重要問題であり、大学人のみならず広く国民的な議論・検討が進められるべきものであることを訴えたい。第三に、当事者である大学人が、この「法案」に対する意見・態度を表明することは社会的責務であると訴えたい。とくに国立大学協会がその総会を開き、国立大学の総意を表明するよう求めるものである。

 

【開示6】国立大学法人法案批判の論説、新聞に相次いで掲載

 

「国立大法人化 疑問点多く抜本見直しを」:元大阪大学事務局長 糟谷正彦氏

国立大学を国の行政組織から切り離し、それぞれ法人化して自主性を高めようとする国立大学法人法案と関係法案の国会審議が始まった。国立大学の事務に携わった経験に照らし、この法案には多くの疑問点がある。国会で議論を深め、間違った方向にカジを切らないようにしてほしい。(私の視点:『朝日新聞』200357日付)

「文科官僚の過剰介入に潜む学問の危機 目を離せぬ国立大学法人化の行方」:お茶の水女子大学教授 藤原正彦氏

壮大な無駄の中にしか、宝物は転がっていない。大学の研究を不況克服のエンジンにしよう、などいう政財界の発想は、大局観を失った恐るべき不見識としか言いようがない。 (正論:『産経新聞』2003510日付)