学内組織を中期目標・中期計画に載せてはならない

 

2003年4月30

小林 正彦(東大職員組合執行委員長)

 

 

国会審議中の国立大学法人法案では、当初、学部、研究科、附置研究所、附属図書館、附属病院等々の大学内部組織については省令で規定するとされていた条項がなくなり、これらの設置改廃が法人役員会の専決事項になった。これは、法案策定の最終段階で、「省令で定めるとするのは法人の裁量権の拡大という独立行政法人の精神に反するのではないか」という総務省や自民党等の意見に従ったといわれている。

このため、文科省は大学の内部組織を中期目標・中期計画に載せるよう指示しているといわれている。また、科学技術・学術審議会 学術分科会は、「新たな国立大学法人制度における附置研究所及び研究施設の在り方について」(平成15年4月24日付答申)の中で、「附置研究所は、大学の基本的組織の一つであり、各大学の業務の基本的な内容や範囲と大きく関わるため、中期目標等に明確に位置付けた上で、積極的に財政的な支援をしていくことが必要であり、優れた研究活動を展開している研究施設については大学が中期計画において適切な位置付けを行い、国においては所要の財政措置を行うことが必要である。」(小林要約)と述べている。

この答申は、附置研究所および研究施設の重要性を訴えている点では十分理解できるが、法的な位置づけと財政措置の関係を見誤っている。すなわち、国立大学法人法案は国立学校設置法、同施行令等の廃止を伴うため、具体的名称等の法令上の記載が失われる点では、学部、研究科、附置研究所等は全て同列にあり、附置研究所および研究施設のみが財政措置を疎かにされることにはならないのである。また、学部、研究科、附置研究所等の学内組織の設置根拠は学校教育法に一般的に規定されるのみとなったが、そのことが独立行政法人に対する財政措置(運営費交付金)に直接影響することはなく、先行した独立行政法人においても然るべき財政措置が講じられている。これに関し、科学技術・学術審議会 学術分科会は、独立行政法人等の法制度に対する認識が欠如しており、「法令による位置づけと中期目標による位置づけの違い」と「独立行政法人に対する運営費交付金制度」の正確な理解を広く喚起したい。

 

○ 法令による位置づけと中期目標による位置づけの違い

 法令により規定された(位置づけられた)施設等機関は、その設置改廃が法令の改正を伴うことになる。このことから、その設置改廃は、文科大臣の一存では出来ず、概算要求事項として文科省から財務省に提出され、文科省が財務省、総務省のヒヤリングを受け、認められた場合に財務省が予算書に書き込み、閣議決定された後、国会に上程され一括審議されるというプロセスを必要としている。つまり、法令により位置づけられた施設等機関はその改廃が最終的には国会の審議に委ねられているのである。

 これに対し、中期目標は文科大臣が定めるものであるから、これに定められた事項は文科大臣が法人に対し指示する事項となる。また、中期目標に掲げられた事項は中期計画によりその実施を計画しなければならない事項となり、その中期計画は文科大臣の認可を得なければならないことになっている。文科大臣が中期目標を定める際には大学側の意向を「配慮する」とされているものの一義的には文科大臣の決定権の下に置かれるので、中期目標に学部、研究科、附置研究所等の学内組織を載せることは、その設置改廃の決定権を文科大臣に差し出すことになるのである。

 

○ 独立行政法人に対する運営費「交付金」制度

交付金は、地方交付税に代表されるように一定の基準に基づき算出される(普通交付)もので、それ以外に特殊事情を加味した特別交付もある。すなわち、交付金は内部組織の具体的名称が法令上位置付けられるかどうかに拘わりなく、一定の基準で交付されるもので、地方交付税では「基準財政需要額」から「基準財政収入額」を引いた「財源不足額」が交付金の額となる。これは、国立学校特別会計における一般会計からの繰入額に相当するもので、国立学校特別会計法の廃止により特別会計が個々の国立大学法人に分割されたと考えると理解しやすい。国立学校特別会計における一般会計からの繰入額が高等教育に対する公財政支出の純粋部分になるのだが、この部分の割合が減少し続けていることは一般の交付金についても同様で、交付金は減ることはあっても増えることはないといわれている。この問題はさておき、交付金の算定基準については、2002年10月に文部科学省が国大協の国立大学法人化特別委員会に示した「国立大学法人(仮称)運営費交付金算定基準(案)」において明確に示されており、学部、研究科、附置研究所等の具体的名称か法人化後に法令上位置付けられているかどうかは算定要素にはなっていない

 

 以上のように、法令で位置づけられないからといって中期目標や中期計画に規定することは大変な誤りである。多数の機関を統合した先行独立行政法人においても、法人の組織規程により内部組織を定めており、その設置改廃は法人の裁量の範囲とされ、主務官庁の関与の及ぶところではない。痩せても枯れても「独立」行政法人なのである。

 

要するに、学部、研究科、附置研究所等々の大学の内部組織は、その具体的存在を政令で規定するかどうかは設置改廃を国会の審議にゆだねるかどうかであり、そうでない場合は各大学の組織規程に定めるべきであり、中期目標、中期計画にこれを定めることは大学の自主性、独立性を著しく歪める自殺行為なのである。