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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人法案についての社会学研究科教授会意見
 . 2003.04.09. 社会学研究科教授会 
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国立大学法人法案についての社会学研究科教授会意見

http://www.soc.hit-u.ac.jp/news/dokuhoka/dokuhoka030409.html
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2003.04.09. 社会学研究科教授会

 2月28日に政府は「国立大学法人法案」を閣議決定し、国会に上程した。本研究
科教授会は、国立大学法人化問題に関して、研究科教授会における議論をもとに、
「国立大学の法人化の場合最低限盛り込まれるべき諸原則」(2001.03.14)以来、
「文部科学省調査検討会議『新しい国立大学法人像について(中間報告)』につい
ての一橋大学社会学研究科教授会意見」(2001.10.10)、「文部省調査検討会議
『新しい「国立大学法人」像について』についての社会学研究科教授会意見」
(2002.04.17)と、重ねて意見を表明してきた。

 この度、国立大学法人法案が国会に提出され、審議が進められている重大な局面
に当たって、事柄の重要性に鑑みて、これまでの見解表明、とくに2002年4月17日
の文部科学省調査検討会議最終報告(以下、最終報告と略す)についての意見をふ
まえて、研究科教授会において本意見を作成し、学内外に広く議論の素材として供
しようとするものである。

1 最終報告に対する意見において、本研究科教授会は、最終報告の描く大学像の
重要な問題点として、次の3点を指摘した。

 第1は、学外者を含む極めて少数のメンバーによって決められた学長と、その任
命にかかる副学長のもとに大学の意思決定が極度に集中化され、その学長、副学長
からなる少数の役員により決定された中期目標―計画によって大学を運営すること
を予定している点である。その結果、大学の教育・研究に実際に携わるメンバーの
意思は、学生、職員のそれが全く反映されないばかりでなく、教授会権限の縮小さ
れ、教員の意思すら反映されにくい仕組みとなっている点である。

 第2は、大学職員の非公務員化が、教職員の身分を不安定化し、基礎研究など必
ずしも短期的に評価されない研究分野の教職員には大きな打撃を与えかねない点で
ある。

 第3に、最終報告の示す大学運営システムは、「学外の専門家、有識者」の参画
および中期目標・計画の作成や評価過程を通した文部科学省のコントロールによっ
て、報告がその「基本的な考え方」で謳う大学の「自律性・自主性」の尊重、裁量
性の拡大という目標にも逆行する制度となっている点である。

 今国会に提出された国立大学法人法案の内容を検討するに、本研究科が抱いた懸
念が払拭されたとは到底言い難く、以上に指摘した問題点はいっそう顕在化してい
る。本研究科は、国立大学の法人化そのものを必ずしも否定するものではないが、
現在審議されている国立大学法人法案は、以下で述べるような、あまりにも多くの
問題点を抱えるものとなっていることを指摘せざるをえない。

2 法案の示す大学の意思決定システムは、学長と学長の任命する少数の理事から
構成される役員会に極度に集中するものとなっている。そして、大きな権限を持つ
学長は、ごく少数のメンバーで構成される学長選考会議が選考することとなる。

 従来の評議会は、「教育研究評議会」と改称され、その審議事項からは教育研究
活動の遂行に不可欠な「予算の作成、執行並びに決算に関する事項」「重要な組織
の設置または廃止に関する事項」が落ちており、その権限は弱体化させられている。
また、評議会の構成に関しても、各学部等から選出された教授を加えるという規定
が欠如している。両者あいまって、教育研究に携わる学内構成員の意思を反映する
道が狭められる危険性が高い。

 学長選考会議は、経営協議会の学外委員および教育研究評議会選出の委員、各同
数で構成され、委員総数の3分の1以内で学長・理事を加えることができるとして
いる。教員から選出される委員が半数以下であっては、学内構成員全体の意思を反
映することはおろか、教員の意思を正しく反映することも困難である。

 また、選考会議に学長・理事が加わることは、チェック・アンド・バランスを著
しく欠如させることになる。このような条項は削除されて然るべきである。

 大学の本質・使命はあくまでも教育研究を目的とするものである。したがって大
学の意思決定は、教育研究に携わる者が集まってつくり出した、教育研究活動を自
由に遂行するに適切な基本組織(学部、研究科、研究所等)が自主的に自らのあり
方を決定していくという、学問の自由を制度的・組織的に保障する自治のしくみに
よらなければならないのである。少数者に権限を極度に集中するトップダウン型の
意思決定は、大学の本質、教育研究の本質に反するものであって、大学の自律的機
能を高めるためには教育研究を直接に担う学内構成員の意思を最大限反映するボト
ムアップ型の運営システム、具体的には評議会・教授会を基軸とするシステムこそ
が必要であり、その充実発展がめざされなければならない。

3 教職員の非公務員化による身分の不安定化の危険性は大きい。

 最近、学部・研究科全体に教員の任期制を導入する動きが少なくない国立大学に
おいて広がっている。このことは、当該教育研究分野が先端的・学際的・総合的で
ある場合に任期制を導入できるとした「大学教員任期制法」の規定にも抵触するも
のである。流動化促進の名のもとに任期制が際限なく拡大していくならば、最終報
告に対する意見において指摘したように、基礎研究など長期的な視野の必要な研究
分野の教員には大きな打撃が与えられることは必至である。

 また、教育公務員特例法の諸規定は、学問の自由と大学の自治を人事の面で制度
的に保障する基礎と位置づけられてきた。その適用が除外されることによって、教
員の身分と雇用が不安定にさせられることはあってはならない。このことは国会審
議の過程において明確にされるべきであるとともに、各大学において自治を維持す
るための具体的な措置が図らなければならない。

 教育研究活動の十全な遂行、高等教育及び学術研究の水準の向上のためには、事
務職員等の職員の増員、大学職員にふさわしい養成システムの構築が必要不可欠で
ある。いやしくも法人化が、人員削減・労働条件切り下げの手段とされることがあっ
てはならない。このことも、法人法案をめぐる議論の中において明確にされ、具体
的な措置が立案・実施されるべきである。

4 大学が学外の意見にも謙虚に耳を傾けることは必要なことである(実際に、学
外の意見を聴取するために運営諮問会議が現に存在している)が、経営協議会や学
長選考会議に多くの学外者を参画させることとは、大学運営システムを歪め、大学
の自主性・自律性を損なう危険性が大である。

 経営協議会に半数以上の学外委員が参画するとしていることは、教育研究に通じ
ていない学外委員が、短期的な視野から業績を追求する大学運営を求めることにな
る危険性を大きくするものである。また、社会の特定分野の利害が、大学の学問分
野の構成、教育研究のあり方を左右することになる危険性も存在する。経営協議会
の学外委員は、たとえば三分の一以内とし、経営は教育研究を支援することに役割
があることを明確にすべきである。

 また、学長選考会議に学外委員が半数加わることは、学外委員の意向が過剰に及
ぶ危険があることである。選考会議の構成は、教育研究評議会選出の委員を多数と
し、経営協議会の委員も加えることができるとし、その具体的な構成は各大学の決
定に委ねるべきである。

5 法案は、政府・文部科学省による関与・統制を強める目標・評価のシステムを
示しており、この点においても大学の自主性・自律性は大きく損なわれるものとなっ
ている。

 法案は、文部科学大臣が中期目標を決定し、中期計画を認可するとともに、中期
計画が不適当となったと認めるときは、その計画を変更すべきことを命ずることが
できるとしている。大学の自主性・自律性を確保するためには、中期目標も大学自
身が決定し、中期計画は大臣に届け出ると改めるべきである。

 文部科学省に設置される国立大学評価委員会は、法人の業務の実績に関する評価
を行うとともに、大臣が中期目標を決定・変更し、中期計画変更を命じようとする
ときに、その意見を聴かなければならないとされている。この業務の評価のうち、
教育研究状況の評価に関しては、大学評価・学位授与機構に実施を要請し、当該評
価の結果を尊重するとしているが、評価委員会には「業務の全体について総合的な
評定」をする権限が賦与されているから、評価委員会自体が教育研究内容を評価す
ることが可能な規定となっている。

 また、法人の財務に関わることとして、法人による「技術に関する研究の活用を
促進する事業」を実施する者への出資、積立金処分、長期借入金や債券発行、償還
計画等を大臣が認可しようとするときにも、評価委員会の意見を聴かなければなら
ないとされている。

 このように広範な権限を持つ評価委員会の組織や委員構成は、政令で定めるとし
ている。

 教育研究に通じない委員が多数を占めるようになれば、大学の特性、教育研究の
特性をふまえた公正な評価が行われる保障はなく、短期的な視野からの業績を重視
し、産業の国際競争力の強化に直結すると期待される先端科学分野や産学官連携事
業に資金を重点的に配分することが促進されることになる公算が大である。このこ
とが、また中期目標・中期計画の決定過程に影響力を及ぼし、高等教育及び学術研
究の均衡ある発展とは程遠い、教育研究分野の歪んだ構成や部分的な衰退をもたら
しかねない。

 大学における教育研究の特性に常に配慮するというのであれば、評価委員会の構
成や委員構成は政令に委ねる性格のものではなく、法案に規定すべきである。また、
評価委員会自体は教育研究状況の評価には直接に関与しないことも、法案に規定す
べきである。

 最終報告に示されていた、評価結果を運営費交付金の配分に直結するシステムの
導入は、法案には示されず、省令に委ねられるものと見られる。運営費交付金の配
分は、まず第一に、教育研究基盤の基礎を確立・拡充するために行われるべきであ
り、こうした基盤的基礎的経費に関しては、評価結果を交付金の算定基準とすべき
ではない。

6 以上のように、国立大学法人法案は、その柱というべき面に多くの問題点をか
かえており、これまでの本研究科の意見で指摘してきたように、大学の果たすべき
教育研究の自由な営みを開花させる大学像とは相容れないものであると言わざるを
えない。しかも、人事制度、財務・会計制度、評価制度など、大学の根幹を左右す
る制度が具体的に示されないまま、法人化法案だけが先行することは、異様な事態
である。本研究科教授会は、法案の根本的な見直しと再検討をあらためて求めるも
のである。

 同時に、本研究科としては、こうした法案の危険性を批判しつつ、こうした危険
性を減少させ、学問の自由と大学の自治を守り発展させるための制度設計について
今後も検討し、その実現をはかっていくものである。