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独行法反対首都圏ネットワーク

何が変わる改革特区/上 「大学参入」狙う予備校、企業 
 『毎日新聞』新教育の森2003年4月7日付.
 

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『毎日新聞』新教育の森2003年4月7日付

何が変わる改革特区/上 「大学参入」狙う予備校、企業

 
 限定された地域で大胆な規制緩和を行う構造改革特区。教育分野では株式会
社やNPO(特定非営利活動法人)の学校設立も認められ、従来の枠にとらわ
れない、さまざまな学校が提案されている。「英才教育に徹する」「不登校児
の自立を目指す」「豊かな自然体験を積ませる」――。うまくいった試みは全
国に拡大され、日本の教育全体に影響する。これで教育は活性化するのか。今
月、第1次の特区が認定されるのを前に特区事情を3回にわたって報告する。
【横井信洋】

 ◇「学位も資格も」うたい

 ◇学部なし、司法試験に特化/経営学ばせ、即戦力を育成

 希望者は全員入学させ、司法試験や公認会計士試験など資格試験用の受験科
目を中心に勉強させる。体育や理科系の教養科目などは大幅に減らし、3年で
卒業できるようにする。

 資格試験予備校の大手、東京リーガルマインド(LEC、本社・東京都港区)
はこんな「大学」を提案した。全国39カ所で教室を展開する株式会社で、特
区制度を活用し、来春にも東京や大阪など大都市の数カ所で開設したいという。

 司法試験などを目指す学生の多くが、大学に籍を置きながら予備校の講座を
受講している。私大の学生が予備校に通えば、1年間の授業料は計200万円
前後になる。

 「ダブルスクールの半額で学位も資格も取れるのだから、需要はあるはずだ」
とLEC企画本部は話す。

 構想では、「特区大学」には法学部、経済学部といった従来の学部の枠組み
をあてはめず、定員も設けない。授業はすべてLECの予備校で行い、「大学」
の学生はほかの大学に通うダブルスクール族と同じ講義を聴く。

 いくら特区といえ、こんな大学が可能なのか。

 現行の大学設置基準は、学部・学科ごとに基準を設け、入学定員に応じた教
員数を確保し、施設を整備するよう定めている。「学部も定員もない。教養科
目も無用。そんなのが大学ですか」。文部科学省はLECの構想を一笑に付す。

 しかし、同省が「営利企業に教育は任せられない」と抵抗していた株式会社
やNPOの学校経営も、首相官邸や民間の圧力で特区では認めることになった。

 これまで学校をつくるには土地、建物など数十億円分の資金、資産を用意し
て学校法人を設立しなければならなかった。株式会社は1000万円の資本金
でできるため、ハードルは低い。

 特区の2次募集で、国はLECが大学をつくること自体は「可能」と判定し
た。しかし、従来の大学像とかけはなれたカリキュラムなどがどこまで認めら
れるか分からない。このためLECは、昨年から自社が発行する法律専門誌に、
反町勝夫社長と鴻池祥肇・特区特命相ら改革推進派の政治家の対談を載せ、一
層の規制緩和を求めるキャンペーンを展開している。

 「文科省だけ相手にしていたら現状は打破できない。学部や定員は柔軟にし、
新設時の規制は原則廃止すべきだ」と反町社長は強気だ。

 企業のホームページなどをデザインするウェブデザイナーを養成するデジタ
ルハリウッド(東京都千代田区)も、来春の大学院開設を目指している。日立
製作所などIT(情報技術)関連の大手企業が出資し、94年に設立した株式
会社で、国内9カ所と米国の計10カ所に教室がある。

 構想では、「ウェブデザイン」と「デジタル映像」の2専攻を都内の本校に
置き、1年間でITだけでなく経営学も学ばせ、修士号を取らせる。

 杉山知之校長は「売れるデザインで事業を引っ張る人材を育てたい。デザイ
ンも経営も分かる人材は少なく、商社など一般企業もこうした人材を求めてい
る」と語る。

 ◇警戒強める私大関係者

 従来型の大学院には制約が多く、小回りがきかない。移り変わりの早い業界
のニーズに対応できないとあきらめていたが、特区で株式会社の参入が認めら
れたため、名乗りを上げた。

 デジタルハリウッドの本科生(1年コース)は会社を辞めてくることが多く、
平均年齢は20代後半。「修士の学位が取れれば励みになる」と杉山校長は期
待する。

 しかし、企業の参入は、少子化で学生確保に四苦八苦している既存の大学に
は脅威だ。

 「こんな簡単に大学ができるなら、今まで土地、建物を備え、定員に見合う
教員の数と質を確保してきた我々の努力は何だったのか。このままでは私大が
企業に吸収されかねない」

 私大関係者は怒りとともに、警戒を強めている。

 ◇英才教育のススメ…0歳から英語、中国語−−補助金なし、メリットない?

 特区制度を利用して、幼稚園や小中学校の経営に参入を図る企業も多い。

 千葉県などで学習塾や日本語学校を経営する東進(本社・同県市川市)の寺
田悦子社長は、幼稚園と保育園を一体運営し、英才教育を行う「幼保園」と、
外国人駐在員と日本人の子供を集め、国際感覚豊かな人材を育てる小中一貫校
を提案した。来春の開校を目指している。

 すでに厚生労働省のモデル事業で0歳児から英語や中国語を教える保育園を
経営しており、幼保園では幼稚園の認定を受け、さらに知育を重視する。一貫
校では外国企業や外国の政府関係者の子供に英語と中国語、韓国語で授業する
クラスと、日本人中心のクラスを作るという。

 「外国人の駐在員は日本で子供をどう教育するか悩んでいる。学習内容の少
ない公立学校に不満な日本人も多い。外国人の子供と一緒に過ごすことで将来
の人脈も作れるようにしたい」と寺田社長は話す。