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『朝日新聞』2003年4月9日付 科学欄「直言」 前・岡崎国立共同研究機構長 毛利 秀雄 「基礎研究が育む科学技術」 わが国では、科学技術は自然科学の原理を応用した「技術」をさすことが多 い。 しかし、科学技術基本法の趣旨からすると、この定義はそぐわない。基本法 は諸外国からの「アイデアただ乗り」批判にこたえるためにできた。基礎研究、 学術研究に重点を置いた科学・技術でなければならないはずなのに、全体が違 う方向に向かいつつあるようだ。 昨年ノーベル賞を受けた小柴昌俊氏と田中耕一氏の業績も、技術との関連で 語られることが多い。だが、小柴氏のアイデア、田中氏のセレンディピティ (思わぬものを偶然に発見する力)は、基礎研究ではぐくまれたものである。 真理の探究は、研究者の自発的な創意と工夫に基づき、それ自体はすぐ何か に役立つものではない。地道な基礎研究がなければ、ノーベル賞受賞や優れた 応用技術としての開花は難しい。 産学連携では最近、「産学官」から「産官学」に用語変化がみられる。不況 で基礎研究に力を入れられない経済界が政官界の支援を得て、基礎分野の分担 を学界に強く求める構図が浮かぶ。 科学・技術の基本政策を考える総合科学技術会議における基礎研究の定義も、 学術研究ではなく、すぐ役に立つ技術のための研究に変わってきているように みえる。 一方、大学、とくに国立大学は法人化に精力を使い果たし、アカデミズムの 重要性を世間に向かって叫べずにいる。 いま、科学技術・学術審議会の学術分科会で、基本に立ち戻って学術研究の 推進策が検討されようとしている。基礎(基盤)研究と応用研究へのバランス のとれた人と金の資源配分による科学と技術の発展を、わが国の将来のために 強く希望したい。 <筆者>専門は生殖生物学。分子レベルでチョウの系統進化を研究中。 |