国立大学法人法案阻止・教育基本法改悪阻止

国会情勢速報 No.6(2003.4.4)

 

独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局/独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局:共同編集

 

 

43日本会議における質疑概要(速報)

 昨日衆議院本会議で行われた質疑の概要を以下にお知らせする。民主党の山口壮(つよし)議員の質問は、法案の本質を鋭く批判するものであり、文部科学省の関与が続き大学の独立性がそこなわれる危険性があると追及した。特に「国家百年の計を誤りかねない悪法である」と断じたことが印象的である。自由党の佐藤公治議員は、法人化が財政上・行政改革の観点からのものであると指摘し、大学が経営に時間と手間をとられ、教育と研究がおろそかになるとの懸念を表明した。共産党の石井郁子議員は、法人化の問題点を徹底して追及した。特に国立大学協会の同意をえていない点を質したが、これに対して遠山敦子文部科学大臣がまともに答えられなかった点も注目したい。

 全体として、野党の質疑は法案の問題点を浮き彫りにするものであり、今後も追及の論点を提示していくことが必要と思われる。

 

 

○山口つよし衆議院議員(民主党)

1.        90年代の政府の民営化路線の延長線上に国立大学法人法案がある。国立大学「法人化」といい、あえて「独立行政法人化」と言わないことにより、予算措置上の意味があるのか。

2.        法案は、大学における教育研究の活性化に対する解答になり得ていない。中期目標は文部科学大臣ではなく国立大学が定めるよう、また、中期計画も文部科学省による認可ではなく届出に改めるよう法案を修正すべき。

3.        国立大学法人評価委員会の委員の選出方法等は「政令で定める」となっているが、それでは透明性が確保できない。「法律で定める」ことに修正すべき。

4.        研究とは個人ないしグループによりなされるものなのに、法案では大学の業務実績について評価することになっているのは無理がある。

5.        「産学連携の罠」に気をつけなければならない。すぐに役立つ研究や外部資金を獲得しやすい重点課題研究が重視され、これが幅を利かせれば、例えば京大のインド哲学科などは存亡の危機に立たされる。現にサッチャー時代の改革の結果、伝統分野の学問が廃れてしまい、イギリスは何十年もかけてそのツケを返さなければならなくなった。不況の打開策として産学連携に過度の期待をすべきではない。米国の景気回復は産学連携の結果でなく、ドル安が進み国際競争力が高まったためである。

6.        役員が89大学に28人ずつ。これに監事が2人ずつで、計681人もの役員が置かれることになり、指定職が現在の何倍にも増える。天下り役員の増加は行政改革に逆行する。

7.        財務省が中期目標にも口を出せることになっているが、これまで財務省が国立大学の研究・教育に関わることにまで口を出してきたことがあったか。度が過ぎていないか。

8.        この法案による改革はピントが外れている。現在の国立大学に問題があるのは経営形態に問題があるからだろうか。もしそうなら、私立大学は国立大学より優れていなければならないはずだが、実際にはほとんどの学問分野で国立大学に遅れをとっている。過去20年間の科学論文の数では東大が世界の第2位、京大・阪大・東北大など、50位以内に8つの国立大学が入っているが私大はゼロである。わが国の文教費の対GNP比は3.55%で、欧米先進諸国より12%低い。韓国でも4.07%である。しかも、わが国の数字は近年落ちてきている。これで小泉内閣が教育・研究に対する熱意をもっていると言えるのか。「米百俵」ではなく、「嘘八百」だ。国立大学法人法案は国家百年の計を誤らせる悪法である。

 

○遠山敦子文部科学大臣

1.        今後とも国立大学法人に対する必要な財源措置を行う。

2.        国が予算措置を行うため、中期目標の策定など最低限の関与は必要。作成にあたっては大学の意見に配慮することになっている。

3.        国立大学法人評価委員会は独立行政法人評価委員会とは別に設けるが、組織の形態等は独立行政法人評価委員会にならっている。

4.        評価委員会について関係法令を定める際には、広く社会に意見を求める。

5.        基礎研究分野が衰退することはあってはならないことであり、各大学が見識をもってのぞんでもらいたい。評価委員会や中期目標等でも目配りしていきたい。

6.        ひきつづき国立大学の再編統合を進めていくので役員数は結果的に適正化される。

 

○塩川正十郎財務大臣

7.        財務省が国立大学の教育・研究に直接クチバシを入れることはない。

8.        文教予算について、科学技術関連予算は増加している。義務教育国庫補助が減ったので総額が減った。

 

 

 

○佐藤公治衆議院議員(自由党)

 六法案はそもそも必要であるのか。現行の国立大学の仕組みの中で、大学が抱えている問題点を改正できなかった理由はなにか。

1. 法案は、国立大学と私立大学の垣根をなくすことになるのではないか。大学が経営に時間と手間をとられ、教育・学術研究がおろそかになる事態が生じるのではないか。

2. 経営が失敗して大学単独では返済不可能な負債を抱えたり、医療裁判等で巨額の賠償金を支払うようになった場合、だれが責任を、どのような範囲でとるのか。

3. 第三者評価の基準は明確になっていないのではないか。

4. 教育改革は国の根幹にかかわる問題であり、政治と金に関する疑惑にまみれ、公約を平気で破り、国民の信頼を失っている内閣に教育改革を語る資格はない。

 

○遠山敦子文部科学大臣

 法人化は大学改革の一環であるという点は、政府の一貫した方針である。行政組織としての一部であるため、教育研究の柔軟な展開に制約があるため、法人化する必要がある。

1. 法人化は国立大学の使命を前提としている。経営と教育、研究の職務内容の適切な役割分担が大切である。

2. 長期借入金は大臣の認可を要する。医療事故等に関しては損害賠償責任保険への加入などが考えられる。

3. 必要な事項は政令で定めることになっている。

 

 

 

○石井郁子衆議院議員(日本共産党)

憲法と教育基本法のもと、学問の自由と大学の自治を柱とした高等教育制度を充実発展させること、高等教育に対する支出がGDP比で先進諸国の1/2以下というわが国の貧困な大学政策を改めることが必要である。ところが政府は「小泉構造改革」の名によって安上がりに、効率よく大学への統制を強めようとしている。

1.        大学の中期目標を文部科学大臣が決める。中期目標において「教育研究の質に関する事項、業務運営の改善及び効率化に関する事項、財務内容の改善に関する事項」を文部科学大臣が定めるのは教育研究の質にまで指示を与えることであり、憲法23条の「学問の自由の保障」に反する。日本の大学で、これまで政府・文部省が大学の学問研究の内容・計画を上から決めたことがあったか。

2.        国による直接評価により教育研究に対する統制が行われる。国立大学評価委員会による国立大学法人の業務実績評価は国による直接の評価であり、教育と研究に対する国家統制である。しかも国立大学法人は総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会の評価も受ける。なぜ総務省が教育と研究について評価できるのか。この勧告権とはどんな権限なのか。数値化された評価や効率性などが大学を支配するようになれば、産業に直接役に立つ研究や、国が重点投資する分野のみが偏重され、時間のかかる、すぐに成果が明らかにならない長期的・基礎的研究分野は敬遠されるようになるのは必至である。

3.        学長の専決体制がつくられる。法案では、強大な権限を与えられた学長と教育・研究に直接タッチしない多数の学外者で大学運営が決められることになる。教授会など大学の構成員の意見を反映する仕組みはどのようになるのか。

4.        教職員の身分保障の問題がある。教職員の身分は非公務員とされ教育公務員特例法の適用除外になる。大学の自治にとって大学教員の身分の保障が不可欠である。教員選考における教授会の権限や教員等による学長選挙は保障されるのか。

5.        国立高等専門学校の問題。全国55校の国立高等専門学校は一つの独立行政法人国立高等専門学校機構にされる。高等専門学校には教育の自主性も自律性も存在しなくていいというのか。自治機能を持つ高等専門学校へと制度設計すべきではなかったのか。

6.        国の財政責任を法人に転嫁したため学費への影響が心配される。文部科学省が昨年示した「法人化後の学生納付金の標準額及び幅の設定方法」では、現行の35%の値上げにあたる7668百円を上限とした。これではお金のない人はますます大学に行けなくなる。

7.        この法案提出にあたって大学の了解、合意は得られたのか。国立大学協会が了承したとされる調査検討会議の最終報告「新しい『国立大学法人』像について」と本法案には、大学の設置形態など決定的な相違点がある。法案に対しての国立大学協会の見解は出されていない。

大学の法人化は、わが国の知的基盤である大学を掘り崩しわが国の発展にとってとりかえしのつかない事態を招く。法案は廃案とすべきである。

 

○遠山敦子文部科学大臣

1.        中期目標を作成する際に大学の意見に配慮する。政府が大学の研究・教育等の目標を定めたことはこれまではない。国立大学法人は政府から独立した法人だが、予算措置をともなうので、その根拠として中期目標の策定と中期計画の認可が必要。

2.        評価は有識者が行う。法人化自体により国立大学の役割が変わることはない。従来の役割を自主的・自律的に発揮することが期待される。

3.        重要事項に関しては、学長の決定に先立って役員会の議を経る。また審議機関として教育研究評議会、経営協議会を設置し、慎重な制度設計となっている。

4.        教員人事については、教育研究評議会の審議を踏まえて適切に行われると考える。学長の選考方法は学長選考会議において決める。

5.        高等専門学校は実践的技術者養成が目的であり、その制度設計は大学とは異なる。

6.        国立大学の授業料は文部科学省が設定する範囲内で定める。

7.        これまで国大協とは意見を交わしてきており、十分な説明と理解を得ている。

 

○片山虎之介総務大臣

8.        国立大学法人の業務実績評価については国立大学法人評価委員会が行うが、主要な項目については総務省が勧告することになる。これはいわば2次評価であり、他の独立行政法人と同じ扱いとなることをご理解いただきたい。