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独行法反対首都圏ネットワーク

☆法科大学院教員派遣法案に反対する意見書 
 青年法律家協会弁護士学者合同部会 
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法科大学教員派遣法案は、4月1日にも国会上程予定とされていますが、大学自治を侵
害する重大な危険を有する法案です。青年法律家協会弁護士学者合同部会は、下記の意
見書を採択しました。国立大学法人化反対と結んで運動していく必要があると思いま
す。よろしくご検討下さい。



法科大学院教員派遣法案に反対する意見書
2003年3月14日
                                                青年法律家協会弁護士学者合同部
     第4回拡大常任委員会


第1 検討にあたっての視点

 政府は、法曹養成を担うことが予定されている法科大学院に、裁判官、検察官、一般
職の公務員をその身分を有したまま派遣するため、「法科大学院への裁判官及び検察官
その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律案」(以下、「法科大学院教員派遣法
案」という)を準備し、今通常国会への提出を予定している。
 しかし、その内容は、あるべき法曹養成及び大学の自治に照らして重大な問題を有す
るものである。

 1 大学自治の観点
我が国では、かつて学問の自由が国家に侵害され(天皇機関説事件、京大滝川事件)、大
学が学問の真理を曲げて国家の侵略戦争遂行に協力するに至った痛苦の反省に立ち、戦
後憲法23条に学問の自由を明記し、教育基本法10条に行政の教育への不介入を規定
した。そのための憲法制度として、大学の自治を保障し、評議会、教授会による自治と
教員の身分保障を教育公務員特例法及び国立大学設置法等に規定した。
そのもとで、大学は国家や社会的権力と独立して批判的学問を探究する場として位置づ
けられ、学問研究の自由が尊重されてきたのである。

 2 あるべき法曹養成の観点
法曹は、憲法上および憲法的な基本法のうえで、人権の擁護者とされている(憲法
76条3項、弁護士法1条、検察庁法4条)。したがって、法曹の養成にあたっては人
権擁護こそ基本的理念でなければならないのである。そのためにも、法曹の養成がなさ
れる場は、国家や社会的権力と距離をおいて批判的学問を探究する場である必要があ
る。
    ところが、法科大学院教員派遣法案は、こうした憲法に根ざす要請と相容れないも
のである。

第2 各官職の派遣の問題点

 1 一般職の国家公務員派遣の問題
 法科大学院教員派遣法案は、裁判官、検察官のみならず、一般職の国家公務員を派遣
するとしている。
 法曹養成検討会の議論では、「展開先端科目の分野において、知財法(特許庁・文化
庁)、独禁法(公取委)、租税法・金融法(財務相・国税庁・金融庁)、労働社会保障法(厚
労省)など各省庁の一般職についても教員派遣のニーズがある」というのである。
 しかし、行政府の現職公務員の派遣は、上記の観点からすれば、教育基本法が禁止す
る行政の教育への介入となるのではないかとの強い危惧がある。
 「天下り職場」と同様、大学も生き残りのために政治力のある公務員教員を採用し、
その公務員が幅を利かせる危険がある。さらに、現職公務員がカリキュラム編成や教学
全般、ひいては教授会運営にも関与し、教育や大学自治を脅かす危険がある。
 専ら行政側の学問が教授され、学問の自由がゆがめられるとの危惧もある。
 人権擁護の概念には、国家権力との対峙が予定されるが、行政府の現職公務員によ
り、官許の学問を教授されて、法曹は人権擁護という本質を失ってしまう危険すらある
のではないか。
  上記の展開先端科目については、在野の学者・弁護士・税理士・弁理士・公認会計士
などで十分対応可能であるし、今後法科大学院での法曹養成が進めば、ますます十分な
ものとなっていくと思われる。
 また、近時防衛庁職員が大学法学部で講義を行ったことが問題となっているが、実務
家教員と称して防衛庁職員が国防教育を行う危険もあるのではないか。憲法違反の指摘
がなされている防衛庁職員が憲法を擁護すべき法曹の教育に関与することなど有っては
ならないことは言うまでもない。

 2 検察官派遣の問題
 検察官派遣については、以下の二つの問題点がある。
@ 検察官の大学自治への介入の危険
検察官は準司法的行為をなすものであるから、検察官の派遣が直接行政の教育への介入
になるとは言えないだろう。しかし、検察官の身分を有したまま法務行政に携わること
となっており、法案上、給与も法務省から「特に必要があると認められた場合」には
「派遣給」を支給されることとなっているから、介入の危険はある。また、同じ法科大
学院の教員の中に給与の差を生じ、教員間に不合理な差別を設け、法科大学院のあり方
をゆがめかねない。
 しかも、「法科大学院連携法」6条3項において、法務大臣は文部科学大臣に対し
て、以下の要請をなせることとなっている。
 「法務大臣は、特に必要があると認めるときは、文部科学大臣に対し、法科大学院につ
いて、学校教育法第15条第4項の規定による報告または資料の提出の要求、同条第1
項の規定による勧告、同条第2項の規定による命令その他必要な措置を講ずることを求
めることができる」
   学校教育法15条1項の勧告、2項の命令とは、政府が大学を法令違反と認定したと
きの改善勧告、変更命令である。
 このような強大な権限を握っている法務省に所属する検察官が教員として大学に派遣
されると、法務省に大学の内情を報告し、大学の自由と自治が脅かされることとなりか
ねないとの危惧がある。

 A 刑事法学の変質
   我が国の刑事裁判は絶望的といわれて久しい。戦後も死刑再審無罪事件が相次い
だ。
 安易に身柄を拘束し、罪を認めないと保釈が認められない「人質司法」、公判廷での
証言よりも身柄拘束中の密室での自白や捜査中に作成された書類ばかりを信用する「自
白偏重主義」「調書裁判」、捜査側の修習した証拠資料のうち、捜査側に都合のよいも
のしか弁護人に開示しない「証拠隠し」がその原因とされている。これらは、「無罪の
推定」「直接主義」「口頭主義」「当事者主義」などの刑事訴訟法の原則に反する違法
な運用であり、学説から批判されてきた。
 現在、日弁連を初めとする弁護士団体は、捜査の可視化や証拠の全面開示などの刑事
司法の改善を求めているが、法務省・検察庁は、従来の悪弊に固執し、一向に改善に応
じようとしない。
 そのような姿勢で捜査権力を担う存在である現職検察官の存在が大学へおよぼす影響
は重大であろう。現職検察官の法科大学院への派遣は、学問をねじ曲げて上記の違法な
運用を学説の標準とするとともに、法曹の意識をもそうした現行実務追随にする結果を
招くのではないか。検察官は同一体の原則に基づいて行動することが習性となっている
点でも、上記の危惧は根拠があり、個々人の思想と学問の自由が尊重されるべき大学の
場と相容れない。
 従来、司法研修所でも、現職検察官が教官として教育を行っていたが、大学ですでに
刑事訴訟法を身につけた修習生への教育と、ゼロから学ぶ法科大学院生に検察側の刑事
訴訟法を教え込むのとでは、大きな違いがあると言える。

 3 裁判官派遣の問題点
裁判官は司法権力の行使者であり、裁定者であるから、裁判官が法科大学院に派遣され
ることとなれば、その言動が法科大学院の学問、教育に与える影響は甚大である。
しかも、現在、我が国の裁判所は官僚司法といわれている。裁判官やその志望者は、憲
法や人権を擁護する言動をなすと、採用や昇給、任地で差別されるため、人事権を持つ
最高裁判所の以降を絶えず気にする傾向が出て、当事者を軽視したり、行政や大企業に
有利な判断をしがちである。
このような裁判官が、現職のまま法科大学院に派遣されれば、現行実務・判例に追随す
る法学、教育に変容させられてしまう危険がある。そうした教育を受けた法曹の意識も
やはり現行実務追随となってしまうおそれがある。
裁判官は、非常勤教員として派遣されるとのことだが、ただでさえ裁判官の数的不足、
手持ち事件数の過多、多忙による健康や事件処理の問題が指摘されているときに、現職
裁判官を非常勤教員としたとき、十分な教育ができるか疑問である。

第3 採用対象となる学生におよぼす影響

   法科大学院の特徴は、プロセス重視であり、法科大学院から司法研修への過程を
通じての厳格な成績評価で法曹を養成するとされている。
   法曹志望者は、その過程を経て、ある者は弁護士になり、ある者は裁判官・検察
官に任官するが、法科大学院を出て一般職の公務員となることも想定されている。
   現職の裁判官、検察官、一般職の公務員が法科大学院に教員として派遣される
と、法科大学院の教育の場での成績評価がプロセスを通じた採用のための差別選別評価
とされる危険が生じるのではないか。
   そのもとでは、法科大学院生には評価権者への迎合と萎縮が生じ、個人の自律に
ねざす人権擁護の観点を体得することが困難となるのではないか。
   今日、司法研修所においても修習生は採用権限をもつ教官の厳格な成績評価にさ
らされ、評価権者への迎合と萎縮が生じ、精神疾患を生ずる者すら多く見られる現状に
ある。また任官志望者が裁判官・検察官に媚び、その反面、裁判官・検察官がセクハラ
発言をしたり、女性を差別した採用枠を設定したことが問題となったこともあった。
   ゼロから法学を学ぶことが予定されている法科大学院においては、そうした傾向
がさらに増幅される危険がある。
 
第4 まとめ

 以上述べた点からすれば、やはり、現職での裁判官、検察官、国家公務員の法科大学
院教員への派遣は認めるべきではない。青年法律家協会弁護士学者合同部会は、その設
立以降の経緯から、憲法擁護、官僚司法の打破、刑事司法の改善、人権擁護の立場での
法曹養成、司法研修所の改革、大学自治の擁護を求めて活動してきた。その立場から、
我が国の法学と法曹養成、ひいては司法制度に重大な影響をおよぼしかねない法科大学
院教員派遣法案の問題点を上記のように指摘し、これに反対するものである。
                                                                        以