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独行法反対首都圏ネットワーク

☆迫ってきた国立大学法人化 
 .NHK「あすを読む」2003年3月5日23時50分〜24時00分 
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NHK「あすを読む」2003年3月5日23時50分〜24時00分

迫ってきた国立大学法人化

早川信夫解説委員

 来年4月から全国の国立大学を国の組織から切り離して、国立大学法人とい
う新たな組織に移行させるための法案が、先週国会に提出されました。今夜は
一年後に迫りました国立大学の法人化問題について考えたいと思います。

 「時計の針は2004年4月にセットされている」。国立大学の法人化を、国立
大学の関係者はもっぱらこうした言い方をします。法人化まで後一年余り。国
会に法案が提出され、いよいよ現実味をもって語られるようになりました。ま
ず国立大学法人とはどのようなものなのか、おさらいしておきましょう。国の
行政組織の一部にすぎなかった国立大学が、大学ごとに法人として独立した存
在となります。これまでは自治は認めつつも、国立大学全体の舵取りは国が面
倒を見てきました。各大学は、保護者の手を離れ自分の責任で歩んで行く。人
生に例えますならば親離れ子離れということにあたります。かといいまして私
立大学になるわけではなくて、予算は国から、名称も国立大学のままです。お
金の使い道について縛りが緩められ、そのかわり大学ごとに収支が問われます。
自分でやりくりしなければならなくなりますが、自分でがんばって儲けたお金
は使えるようになります。自律性を認める代わりに自己責任が求められるわけ
です。

 では、法案では国立大学法人をどう描いているのでしょうか。第一の特徴は、
学長権限の大幅な強化です。学長を中心にした役員会が、予算や組織といった
重要な事項を決定します。役員会は学長と学長が任命した理事からなります。
教授会の決定をとおさなければ何も決まらないという今の方式を改めますこと
で、大学は議論ばかりで改革が進まない、時代の変化のスピードに追いつけな
いと批判されてきたことに応えようというのです。役員会をサポートするため
に、経営の面は経営協議会、教育研究の面は教育研究評議会という組織が設け
られます。

 第二は、外部パワーの導入です。大学の重要な組織のうち、学内の代表者か
らなるのは教育研究評議会だけです。とりわけ経営協議会には、学外の有識者
を半数以上としまして、外部の意見が反映されるようにしています。また役員
会にかならず学外者を置くことを求めています。これまでの大学が苦手として
います財務ですとか労務といった分野に外部の専門家を招きいれるためです。
学外の知恵を借りて大学を活性化させることを狙っています。

 第三の点は、能力主義の徹底です。そのために教職員は非公務員とするとし
ています。これによりまして経営手腕のある外国人が登用でき、教授がビジネ
スマンを兼ねるといったこともできるようになります。

 第四は事後チェック方式への移行です。大学自ら、どういう大学を目指すの
か、6年間の中期目標と中期計画を立てて、これをもとに最終的に文部科学大
臣が決定します。学生定員は中期計画に記載されることになります。この計画
にもとづいて予算が配分されます。そして6年後、目標と計画がどれだけ達成
されているのか、第三者評価機関によって評価されまして、その結果に応じて
次の予算の配分が決まります。

 今回法案ができましたことで、法人化後の国立大学の姿が次第にはっきりし
てきました。大学関係者の間には、これでどう対応すればよいのか手がかりが
えられたと歓迎する声がある一方で、自立させるといいながら国の関与は変わ
らず、何のための改革かわからないという強い反発があります。その背景には、
自主的な改革に取り組み始めたところへ、行政改革の波が押し寄せてきたとの
思いがあります。橋本内閣にはじまる行政改革論議の中から出てきたからです。

 国の行政機関の効率化とスリム化の考え方は大学改革にはなじまないと批判
の声が上がりまして、政府はこの問題を大学改革の一環としてほかの独立行政
法人とは別に扱ってきました。しかしこのときからの不信感は今もって拭いき
れてはいません。とりわけ、大学がもっとも気にしていますのが、運営費の交
付はどうなるのかといった点です。前提となる大学ごとの中期計画を誰がどの
ような基準で評価するのかはっきりしないことがあります。第三者評価機関を
設けて評価することにはなっているのですけれども、一体どういった評価をす
るのかはこれからです。6年後の評価もさることながら、来年以降配分される
資金はどうなるのか、大学は落ち着かないようです。また、大臣が中期目標を
示し、中期計画を認可すると、文部科学省の縛りがはずれていないことも重く
のしかかっています。

 今、各大学では、原案作成の真最中です。6年後の大学の姿を思い描きなが
ら計画を練っているところですけれども、6年先まで国からの資金の交付を約
束するわけにはいかないと、具体的に自立することにはブレーキがかかってい
るということです。予算の制約はあるにしても、大学自身のやる気に水を差さ
なければよいなと思います。今後大学に考えてほしいことを三点指摘しておき
たいと思います。

 まず第一は、外部の人材の確保です。文部科学省は外部の人材を大学に招き
入れるシステムを作ったことで、文部科学省の顔色をうかがっていた大学の意
識が、国民のほうに向くようになるとしています。ただ、大学をリードできる
人材の確保は案外厳しいように思います。大学の内実がわかり、財務や労務に
長けて、経済界と人脈もあって、外部資金の導入に一定の役割を果たしうる、
というスーパーマンのような人、しかも口だけでなく自分で汗を流す、となり
ますと、大学のある地元の自治体の長ですとか、地元の経済団体の長というわ
けにはいきません。国立大学の再編統合で、法人化されるのは89の大学。ひと
つの大学が最低一人、こうした優秀な人材を招き入れるとしますと、89人は確
保しなければならない勘定です。激しい人材の獲得合戦が繰り広げられそうで
す。

 第二は、大学が一体となった取り組みです。法案は、学長に権限を集め、トッ
プダウン方式にすることを意識しています。私は意思決定を早くすることは大
事なことだとは思いますけれども、あまりにトップダウンでやりますと、大学
の内部が学長もしくは役員会のために働かされているという意識になって、改
革が動かなくなるように思います。改革のために、学内の参加感をどう高めら
れるのか、工夫が必要です。

 第三の点ですけれども、これは内部の人材の育成です。外部の人材をたよる
ことで事務職員の士気の低下が心配です。大学を教授たちと同じように動かし
ているのだという意識がもてるようにすることが必要です。私立大学の中には、
職員を研修の一環としてアメリカの大学の大学院に留学させて、大学経営につ
いて学ばせるところも出てきています。またこうして育った事務職員を教授と
して抜擢するということも考えられるかもしれません。

 法人化まであと一年。政府には、中期計画の評価のあり方など、残された課
題にできるだけはやく見通しをつけて、大学が意欲をもって改革に取り組める
よう考えてほしいと思います。また大学には、近視眼的に今をどうするのかで
はなく、将来を見据えて、今何に取り組まなくてはならないのか、知恵を絞っ
てほしいと思います。

 あとの時代の人たちから、あのときの改革が大学を悪くしたと言われないた
めにも、この一年は正念場です。