国立大学法人法案についての東京外国語大学大学院地域文化研究科の意見

                                            2003年3月20日

東京外国語大学地域文化研究科教授会

 

 東京外国語大学大学院地域文化研究科では、これまで、実際に教育研究に従事する立場から、国立大学の法人化の是非や可能性、組織上の対応などについてさまざまに検討して参りました。法人化された際に必要となる「中期目標・中期計画」の策定についても、それが実際に有意義なものとなる方途をできる限り求め、自主的で特色ある目標と計画にしようと努力してきています。この立場にいて、わたしたちは、今回政府が閣議決定した「国立大学法人法案」に接し、そこに大学の教育研究に深刻な影響を与える難点があると考えるに至りました。

国立大学協会は、従来、独立行政法人通則法の枠内での法人化には反対という立場を堅持していましたが、昨年4月19日の「長尾会長談話」により、『最終報告』に盛られた内容が通則法とは異なり国立大学の特性を踏まえているという理由で、『最終報告』を概ね「了承した」経緯があります。しかしながら、今回明らかにされた「国立大学法人法案」は、そうした『最終報告』からさえ大きく後退していて、このままでは大学の教育と研究の特性を無視した「国立大学法人」が出来上がることになりかねません。わたしたちが危惧するのは、つぎのような諸点です。

 

(1)法人化後の大学設置者について、『最終報告』では、「国」であるとされていましたが、「法案」では、それが「国立大学法人」に変わっています。このようないわゆる「間接方式」では、国はさまざまな権限をもちながら財政支出等の責任は免除されることになってしまいます。しかも、「国立大学法人」と「国立大学」とが法制度上二つのものとして存在するために、両者が実際上切り離され、経営と教学が基本的に乖離していく可能性が存在しています。

 

(2)「中期目標」の作成にあたって、『最終報告』では、各大学が「原案を提出」し文部科学大臣が「原案を十分に尊重し、また大学の教育研究等の特性に配慮して定める」となっていましたが、「法案」では、文部科学大臣は「国立大学法人等の意見を聴き、当該意見に配慮する」(第三十条)と変わっていて、各大学の自主性や特性への配慮がまったく後退しています。また「中期目標の期間の終了時の検討」に関しても、「法案」では、独立行政法人通則法がほとんど準用されることになっていて、ここでも、「大学の教育研究の自主性・自律性を尊重する」とした『最終報告』からの大きな後退が見られます。

 

(3)『最終報告』では、「経営、教学両面において、学内コンセンサスの円滑な形成に留意」する旨がうたわれていましたが、「法案」では、「経営協議会」と「教育研究評議会」とが機械的に分離され、とくに「経営協議会」においては、学外から選考される委員に過大な比重(二分の一以上)が置かれています。しかも「法案」では、学校教育法の規定により大学運営に大きな役割を果たしてきた「教授会」の位置づけも、まったく明確でありません。こうなると、経営と教学の十分な連携が期待できなくなって、教学の実際の機能性が損なわれるばかりか、そもそも教育研究の組織としての国立大学の現実的な運営が困難になってしまう危険性があります。

 

(4)学長の選出についても、『最終報告』では、必要に応じて「学内者の意向聴取手続き」が取られるべきだとされていましたが、「法案」では、その規程がまったく消えて、「経営協議会」の学外委員と「教育研究評議会」の学内委員とが同数選出され、それに学長自身が加わることのできる「学長選考会議」によっての選考という規程になっています。しかし、このような選考方法では、学内コンセンサスの確保がむしろ難しく、学長の地位と指導力をかえって危ういものにすると考えられます。

 

このように、「法案」の内容は『最終報告』に較べても大きく後退していて、大学の教育研究にとっていくつかの難点を含むものとなっています。それゆえ、わたしたちは、「長尾会長談話」において「法人化」が「了承された」というときの、前提そのものが崩れていると判断いたします。ですから、「法案」については、いまここで、実際に教育研究に携わってきた者の知識や経験を集約する過程と手続きをあらためて入念に踏み、それによってさらに検討を加える必要があると思うのです。

そこでわたしたちは、国立大学協会の臨時総会を開催して各大学の意見表明を受け、国立大学側の見解をあらためて公表していくべきだと考えます。

                                  以 上