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独行法反対首都圏ネットワーク

☆北東北 変革期の3大学 
 .『秋田魁新報』2003年2月21日〜2月23日付 
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『秋田魁新報』2003年2月21日〜2月23日付

北東北 変革期の3大学


 文部科学省が国立大学の再編・統合方針を打ち出し、平成13年暮れから本
格的に始まった秋田、岩手、弘前の北東北国立3大学の協議。1年余り経ても
利害関係が一致せず3大学は当面、連携を深めることで落ち着いた。しかし1
8歳人口の減少や16年度からの法人化、さらには道州制の動きなども視野に
今後、本格的な改革と再編・統合論議を迫られる。研究、教育を通じ地元と密
接な結び付きがある3大学の動きや思惑をみる。


2003年2月21日
地域の中で 知的財産、共有化へ

県内11校の連携が加速

 「一緒になっても、簡単には講義を聞きに行けない」。秋田大の三浦亮学長
は今週初め、学生との懇談会で北東北国立3大学の再編・統合論議の状況を解
説した。「秋田から弘前までは電車で2時間、車で3時間かかる」。統合論議
で最大の支障になったのが移動距離だった。3大学間は127―150キロ。
「それをどうカバーできるかが課題になる」。

 全国的にも県域を越えた大学同士の統合の動きは鈍い。逆に地域の中での高
等教育機関同士の連携が注目されている。

 県内では大学、短大など11の高等教育機関が結び付きを深めている。「コ
ンソーシアムあきた」構想だ。各大学の学長らでつくる「県高等教育機関連携
推進会議」の政策委員会(座長・石川好秋田公立美術工芸短大学長)は今月、
平成16年度から単位互換開始を目指すことで合意。JR秋田駅近くに建設さ
れる教育福祉施設(17年完成)の「県民学習プラザ」を活用し大学、短大な
どの共通教育の拠点にする。さらに公開講座の社会人利用を進め、知的財産の
共有化を図る。

 “大学の知”を活用したいのは県も同じだ。県は新年度から秋田大学など公
的研究機関が実施する研究開発の助成に乗り出す方針だ。「研究開発基盤整備
促進事業」として1500万円を計上。県の長期指針「あきた21総合計画」
に合致する研究を財政支援し、本県の産業振興、県民の福祉増進などにつなげ
る。

 こうした地方自治体による国立大への寄付行為は、地方財政再建法などの規
定でしばりがあった。しかし昨年の同法改正で、地方公共団体の重要施策を推
進するための経費を県などが負担できるようになった。県学術振興課の高橋憲
一郎課長は「県立以外の公的研究機関の知恵を県の施策のためにお借りしたい」
と期待する。

 一方、岩手県では岩手大、県立大、岩手医大、富士大、盛岡大が12年に
「いわて5大学学長会議」を発足させ、連携強化を確認。昨年度からは単位互
換制度をスタート。移動時間の問題など課題は多いが、1年目は5大学で37
人が他大学の講義を聴講した。

 さらに、学生レベルでも大学の枠を超えた連携が進んでいる。昨年11月に
創設した「いわて学生交流会」は県内5大学の学生がボランティア活動や学園
祭などを合同で展開。学生間の親ぼくを図り、岩手の地域発展につなげていく
予定だ。

 弘前大も4月、青森サテライト(分室)を正式に開設する。産官学連携、地
域交流などを推進する役目を担うことになり、大学が県都にない弘前大として
の期待は大きい。

 国立大は16年度、独立行政法人に移行する。「地方の国立大は、半ば地元
企業になる。地元を基盤にしなければ生き残りは難しい。大学の知的財産を社
会に還元する工夫が必要だ」(秋田大関係者)。地元貢献を合言葉にした3大
学の動きが加速しそうだ。


2003年2月22日

ロースクール 法曹過疎の解消へ

教員確保で私大に遅れ

 秋田市の秋田経済法科大学。「近い将来、きっと合格者が出るはずですよ」。
稲田俊信学長(66)は自信をのぞかせた。

 稲田学長の前任校は日本大法学部。司法試験に合格したゼミの教え子は15
0人を超す。就任後の2年前から、自ら「寺子屋」と称する特別ゼミを課外授
業として始めた。毎週2回、午後6時から司法試験突破を目指す学生らを対象
にした質疑応答形式のゼミだ。

 「正常な空気を吸う“呼吸権”はなぜないか」「○×権というのはそれが奪
われたときに権利として生まれる」。六法の基礎知識を身に付けている学生に
応用力を仕込む。

 経法大は昭和58年に法学部を設置。これまで司法試験の合格者は出ていな
いが、稲田学長は「それは当たり前。司法試験を目指した的確な教育をしてこ
なかったのだから」と笑みを浮かべた。

 ロースクール構想は北東北国立3大学の協議でも取り上げられた。大学間協
議は当面、再編・統合より連携強化という結論で一段落。ロースクール構想は
数少ない連携の具体策だ。法曹人口が全国最下位レベルの北東北3県だけに、
共通課題の「法曹過疎解消」という思惑で一致。岩手大に連合方式で設置を目
指す構想だ。

 しかし教員確保で難航している。岩手大の平山健一学長は「司法試験に合格
できるカリキュラムがつくれるか、専任教員を工面できるかが課題」と平成1
6年度開設は微妙な情勢であることを示唆。

 拠点が岩手大でも弘前大にはどんなメリットがあるのか。「ロースクールで
教えている教官が、弘前大でも教えるということは、法学系を志望する高校生
を引き付けることができる」。弘前大の藁科勝之人文学部長は強調した。岩手
大でロースクールを担当する予定の弘前大教官も「通勤などの負担は大きいが、
大学間競争に生き残るためにもやる価値がある」と話す。さらに教官個人とし
ても「目的意識の高い学生を教えられ、やりがいがある」という。

 昨年12月現在、全国でロースクール設置を目指す大学は98。東北では東
北大、東北学院大、そして秋田経済法科大が名乗りを上げている。

 経法大は仙台高裁の支部が北東北3県で唯一、秋田市にあることから北東北
の司法・法曹の養成拠点として地の利があるとみている。すでに弁護士や裁判
官、検察官経験者らを含め15人の教官確保にめどがついた。体制整備では北
東北3大学の連合構想より一歩進んでいる。

 経法大が目指すロースクールの学生定員は50人。うち30人が社会人枠だ。
自治体や企業、自営業からの入学を見込んでいる。昼夜開講制で、働きながら
学べる環境の整備を目指す。授業内容の特徴は行政法や税法、知的所有権法な
ど実務科目の充実だ。

 稲田学長は「卒業者の地元定着を考えると、入試の判定時点で地域枠を設け
てもいいのではないか」という。北東北3県の受験者を優先的に入学させるこ
とも考えている。北東北国立3大学の立ち遅れをよそ目に、経法大は、将来の
学生獲得競争激化も視野に入れた特色づくりを模索している。


2003年2月23日

教員養成の綱引き 持久戦、学部強化へ

担当校狙い、弘大が布石

 
 少子化や教員採用率の低下を背景に北東北国立3大学は、教員の計画養成を
一手に担う担当校論議で揺れた。担当校に手を挙げたのは、既存の教育学部を
発展させたい弘前大と岩手大。ともに譲らず綱引きを演じたが、結論は一時棚
上げになった。

 「ほかの大学も地域からの要望があり、教員養成学部を残したいという状況
は同じだった」。担当校獲得に熱心な弘前大の遠藤正彦学長は、実現の難しさ
をにじませる。昨年10月、弘前大は文部科学省の担当者から「学部全体で盛
り上げてほしい。弘大はよく検討している。より一層、頑張ってほしい」と評
価され、「文科省の感触も悪くない」と自信を深めていた。

 文科省は当初、3月末までに再編・統合案をまとめる考えを示したが、国の
教員養成計画の枠を手放した山形大学が地域から強い反発を受けたことなどか
ら姿勢を軟化。結論時期に言及しなくなった。

 それでも「基本的な考え方は変わっていない」(文科省)。弘前大教育学部
の佐藤三三学部長は「(3大学の協議は)むしろ持久戦に入った。その間に受
け皿を強固にしたい」と、学部改革の布石を打ち始めている。

 「3県の教員養成に責任を持ち、今まで以上の教育支援ができる学部にする」
(佐藤学部長)として「教員養成学」の確立を掲げる。総合的な学習や学級崩
壊など複雑化する教育課題に対応するため、何が欠けているかを自己分析し、
理想を実現できるカリキュラム、組織を研究するのだ。

 一方、担当校の綱引きで当初、劣勢に立たされていた岩手大だが、強力にバッ
クアップしたのは、県内の教育関係者を中心にした存続運動だった。集まった
署名は約6万6000人。望月善次教育学部長は「県民の支援は大きかった」
と認める。

 運動の中心となった「岩手の教育と岩手大学教育学部の関わりを考える会」
は、先月の結論見送りを受けて「存続要望」から「学部の在り方」という本質
論議に運動の方向を転換した。県内で開いたシンポジウムの意見などを大学側
に届けるなど「ご意見番」的役割が期待されている。

 一方、平成10年に教員養成課程の定員240人を半分以下の100人に絞
り、教育学部から教育文化学部に改組した秋田大。一般学部色を強めながら
「教育学部に戻るのは無責任だ」との声が根強く、担当校は目指さなかった。
熊田亮介副学長は「5年前の判断は間違っていない。しかし底の浅い部分も見
えてきた。コンセプトや人材養成の目標を明確にしようと検討している」と言
う。

 今月18日の学長と学生の懇談会。「教員養成の課程にいるが、(現役で)
県内の教員に採用されるのはほんのわずか。秋田で教師になりたくてこの大学
を選んだ。そうでなければ、なぜこの大学を選ぶのか」。ある学部生が訴えた。

 教員養成機能を残してほしいという地元の要望とは裏腹に、少子化などによ
る教員採用減で、容易に地元教員になれない現実がある。寺井謙次学部長は
「3大学間の綱引き的論議では、もう立ち行かない」と表情を硬くした。