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独行法反対首都圏ネットワーク

☆ 「国立高等専門学校の法人化について(中間報告)」に対する意見 
 . 木更津工業高等専門学校教職員組合  
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                          平成15年2月16日

文部科学省高等教育局専門教育課高等専門学校係 御中

                    木更津工業高等専門学校 
                      教職員組合 執行委員長
                              田村 和士

  「国立高等専門学校の法人化について(中間報告)」に対する意見の提出
 
 国立高等専門学校の在り方に関する検討会は、2月5日に「国立高等専門学校の法
人化について(中間報告)」を発表され、意見募集をされました。
 本組合は、この中間報告に対し検討した結果、以下の意見を提出します。
 
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  「国立高等専門学校の法人化について(中間報告)」に対する意見

1.氏名:田村 和士
2.学校名:木更津工業高等専門学校
3.住所:木更津市清見台東2丁目11番1号
4.電話番号:0438ー30ー4000
5.意見:
                    
 木更津工業高等専門学校教職員組合は、中間報告に対して慎重に検討の上で、以下
の意見を提出します。

  2月5日、国専協主催の臨時校長会に「今後の国立高等専門学校の在り方に関する
検討会」から、「国立高等専門学校の法人化について(中間報告)」が出されました。
この検討会は、2002年5月、国専協が法人化に取り組むために「高専の法人化の
在り方に関するワーキンググループ」を立ち上げ、8月に文部科学省がこの検討会を
立ち上げたものです。
  そもそも高等教育機関の改変を行うことを提案するならば、(1)高等教育の将来
のマスタープランを検討し、(2)現在ある機関の問題点を解明し、(3)高等教育
機関の将来の在り方を提示し、そして(4)当事者を含む広く国民の意見を一定の時
間をかけて慎重に募集する等、の取組みが必要です。
その観点からすれば、今回の文部科学省及び国専協の議論の進め方は、国家公務員2
5%削減という行政改革のための方策としての、「独立行政法人化」という政府の方
針から出たものであることは周知の事実であり、先に結論があり後から理由付けをし
ているに過ぎないと言わざるをえません。すなわち、「まず高専の法人化ありき」の
前提で進められてきたものであることをまず確認しておきたいと思います。このため、
今回の「中間報告」は、「独立行政法人通則法」という本来行政機関の効率化を図る
ための制度の枠内で、教育機関である高専を位置付けるための苦渋に満ちた折衷を図
ろうとしているかに見えますが、それは、矛盾と錯誤に満ちたものとならざるを得ま
せん。この点については、後で具体的に取り上げたいと思います。
  次に、政府は、「独立行政法人国立高等専門学校機構法案」を今月下旬に閣議決定
し、「国立大学法人化法案」とともに今月下旬に国会に提出する予定であると言って
います。ところが、高専の在り方検討会の中間報告が公表されたのは、前述のように
2月5日、これについての意見募集が2月17日までの約10日間、そして最終報告
は早くても3月上旬、とされています。つまり、高専制度の将来を決める重大な決定
が、検討会の最終報告も待たずになされるということになるのです。これまでもそう
であったのですが、広く衆知を集め、議論をするということが全く無視され、真に建
設的な意見をも封殺されていると言わざるを得ません。このような進め方に対し、高
専人として、深い悲しみと憤りを感じないものは一人としていないといっていいでしょ
う。
  文部科学省は、今月下旬に閣議決定しようとしている内容及び法案を直ちに公開し、
高等専門学校内外における検討に十分時間をかけるべきです。教育の在り方は今後の
日本に長きにわたってきわめて重大な影響を与えるものであります。又これが民主主
義を守る最低限の方法です。

  次に、中間報告の中身に触れます。
(一)「目的・役割」の項で、「ものづくりの現場を支え、かつ新しい技術を創造し、
発展させる人材育成を行う高等教育機関」と述べられています。
ところで、高等教育に関する国際的な合意とされているのは、ユネスコのまとめた
「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」(1997年)や「21世紀に向けた高
等教育に関する世界宣言」(1998年)ですが、そこには高等教育の使命が掲げら
れています。「高等教育の核心的使命および価値、特に社会全体の持続的発展および
進歩に、貢献するという使命」を挙げ、12項目にわたって具体的に提示しています。
とくに、その権利と義務として「自由と自律性を完全に享受する一方、社会に対し完
全に責任を持ち、その活動を説明できなければならない」として、高等教育機関が自
由と自立性を持ち、社会に対する責任をもつべきことを明記しています。これは、
「勧告」では、さらに明確に「自治は、学問の自由が機関という形態をとったもので
あり、高等教育の教育職員と教育機関に委ねられた機能を適切に遂行することを保障
するための必須条件である」とされています。こうした観点からすると、高専が果た
して「高等教育機関」と言えるでしょうか。
 「3.法人化の制度設計」では、国立大学との対比において、国立高専校長の任免
は文部科学大臣であること、教授会が置かれておらず校長が権限と責任を持って意思
決定を行うこと、等を高専の特性として挙げられていますが、これは自らの「高等教
育機関」たることを放棄するに等しいと言えます。確かに大学における自治が従来か
ら十全に機能しているとはいい難いという批判には一定の根拠があったとは言えます
が、「自治・自由・自律性」を欠いて高等教育とは言えないし、国際的な地平から逆
行するものです。高専の制度改変に際しては、まずここから深く吟味すべきではない
でしょうか。
 さらに、「(3)根拠法」では、「国立大学の法人化については、大学の自治を踏
まえ、長の任命や運営組織、評価などにおいて独立行政法人通則法の特例を設ける必
要があることから、国立大学法人(仮称)を根拠法とすることとしているが、高等専
門学校については前述のように大学とは異なる特性があり、その特性を生かすために
は、根拠法としては独立行政法人通則法及び個別法とすることが適当である。」とさ
れています。周知のように「国立大学法案の概要」では、「独立行政法人通則法に規
定する独立行政法人ではない」とされています。通則法は、「公共上の見地から行う
事務及び事業について、効率的かつ効果的に行わせることを目的」としたもので、行
政機関の効率的・効果的な業務遂行が目的であり、教育・研究機関の目的とは馴染ま
ないものです。「効率的・効果的」という一面的な基準が、中間報告に書かれた「高
専の目的と役割」にも合致しないのみならず、高専がこれまでに社会的に果たしてき
た役割と高い評価を受けてきた「ものづくり・人づくり」を阻害するものではないで
しょうか。
 また、「個別法」については、「各独立行政法人の組織、運営及び管理」について
定めるものとされており、きわめて限られた領域について規定するものであって、基
本性格は通則法によって決まるのです。もし「個別法」において、「高等教育機関」
としての基本性格を盛り込むと言うのであれば、それは通則法の枠外に出ることにな
るのではないでしょうか。百歩譲って、仮に法人化になるとしても、「国立高専法人」
などとして、通則法の適用外にすべきではないでしょうか。

(二)「法人の制度設計 (4)各高等専門学校の位置づけ等」の項で、「一法人の
下に設置される国立高等専門学校は、これまで通りそれぞれが学校教育法上の独立し
た学校として高等専門学校の役割を果たしていく必要がある。」と書かれています。
独立行政法人になれば、「文部科学大臣が法人が達成すべき中期目標を定め、新法人
が中期計画を定める」(「目標・評価」の項)ことになりますが、こうした目標・計
画は本省・法人本部が定め、各学校はそれを遂行するということになり、そうすれば
「独立した学校」とは、形容矛盾に他なりません。そもそも、独立行政法人は、企画
立案機能と執行機能を本省と法人に振り分け、業務の効率をはかるためのものなので
すから、文字通り、各学校は執行機能を分担すると言うことになります。しかも、期
間終了時に中期計画・中期目標は「文部科学省」と「総務省」にある評価委員会によっ
て評価が行なわれ、その後評価の通知を受けた審議会が組織の改廃までも大臣に勧告
します。私たちには、このような状況下ではとうてい「独立した学校」とは考えられ
ません。
 また、「国立高等専門学校は…その設置等については、法令で規定することが望ま
れる」と書かれています。このことは「法令で規定されない国立高等専門学校があり
うることを暗黙に了解しているのでしょうか。文部科学省は今国会で現行の「学校教
育法」を一部変更した「学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校
法人のみが、これを設置することができる」との案を提出し、高専を学校教育法か
らはずす可能性があります。「法令で規定することが望まれる」のでなく、当然のこ
とながら「学校教育法の中に規定されなければならない」はずです。

(三)「法人の制度設計 (5)役員及び運営組織」の項で、「意思決定の各段階に
おける学外の有識者の参画について十分配慮する必要がある。」と書かれています。
学校の運営組織及び意志決定は、学外者の意見を大いに参考にしながら、教職員及び
学生の民主的な討議に基づき自ら決定し実行することが必要です。又「学外者の有識
者」とはいかなる範疇の人達を想定しているのか不明ですので説明してください。私
たちにとっては「学外者」でまず念頭に置くべきは保護者であり中学校を含む教育関
係者であり、また教育、研究、文化に深い造詣と見識をもった有識者ということにな
ろうかと思いますが、いかがなものでしょう。間違っても行政関係者であってはなら
ないと考えます。

(四)「法人の制度設計 (6)職員の身分等」の項で、「教職員の能力を十分に発
揮させるため、「非公務員型」とすることが適当である」と書かれています。公務員
試験に合格し何年も勤めている職員を単に「国立高等専門学校に勤務している」理由
でどうして公務員の資格を奪えるでしょうか。また教官からは「教育公務員特例法」
の適用を外すことになり、教員に関する身分保障が適用されなくなります。この「教
育公務員特例法」の規定は、「学問の自由」を守るために定められた貴重な歴史的到
達点です。今日の情勢で「非公務員化」は、身分保障を公務員法律規定から、就業規
則へ不安定化することになります。このことに関しては、尾身科学技術担当相は「国
立大学も非公務員型にして競争させたい」「自然淘汰する」(2001年11月19
日の産学官連携サミット)と発言しています。「非公務員型」は国立高等専門学校を
「民営化」または「民営に近い形」にして統廃合に道を開くことになります。

(五)「法人の制度設計 (2)法人の単位」の項で、「一つの法人格にまとまって
…資源の重点的配分・再配分…高等専門学校全体としての将来的発展に資する」と書
かれています。このことからは、文部科学省等の言う「高専の目標」に向け、高等専
門学校の統廃合をめざしていることが読み取れます。1999年5月衆議院行政改革
特別委員会で、太田総務庁長官は「効率性を求められる独立行政法人の職員削減は、
25%では困る。もっとハイピッチで減らさないといけない。」と発言しています。
しかも、既に独立行政法人化された各機関では予算が毎年1%づつ削減されています。

(六)「法人の制度設計 (7)目標・評価」の項で、「評価については、文部科学
省におかれる独立行政法人評価委員会が法人運営全体に対して総合的評価を実施する」
と書かれています。現実には独立行政法人になれば、「総務省」と「文部科学省」に
ある評価委員会によって二重の評価を受けます。そして、資源配分に重大な影響を与
えます。各高等教育機関が一定の期間の後に自ら評価することは必要なことです。し
かし資源配分を評価によって大きく変更することは誤りであり、資源配分は各組織が
運営される最低限は保障されなければなりません。

(七)「法人化の意義・期待される効果」の項で、「独立行政法人制度の下で、高等
専門学校を法人化する…意義・期待される効果は極めて大きい」と書かれています。
その内容は、「個性化・活性化・高度化」としてまとめられています。
まず第1の「個性化」については、「組織、予算、人事などの面で高専の裁量を大幅
に拡大し、その組織運営面での多様化、個性化が推進できる」とされています。そし
て、「高等専門学校の個性が行かせる柔軟な組織編成」「教員の多彩な活動を可能と
する人事システム」「地域社会等のニーズ等を踏まえた明確な理念・目標の設定によ
る各高等専門学校の個性の伸長」が期待されています。
しかし、上で見てきたように、「独立した教育機関としての機能」を持たない各高専
がどのようにして個性を伸長すると言うのでしょうか。自主的・自律的に目標・計画
を立て(企画立案機能)、それを遂行し(執行機能)、その後に自ら点検評価し(自
己点検評価)、それを公開し広く社会に問う(公正な第三者評価)があって、初めて
個性化も発展すると言うものです。独立行政法人通則法は、まさにそれとは逆の立場
に立つものであることは明らかです。「中間報告」は、その点できわめて大きな錯誤
を犯しているか、あるいは作為的に事実を覆い隠そうとしているとしか思われません。
 第2の活性化については、「民間的発想の経営手法の導入など高等専門学校の活性
化を推進できる」とされ、社会に開かれた運営システム、教育研究業績特に教育業績
に対する評価手法の導入、明確な目的志向による迅速な意思決定など、があげられて
います。確かに、これまでの教育機関(高専など)には、運営上の欠点、とりわけ経
営的視点の不足等問題はあったと言えますが、上で述べたようなシステムにおいて活
性化が進むでしょうか。中央省の評価がもっぱら効率と目に見える効果によって行わ
れ、資源配分が行われるとき、高専内部、高専間に無秩序な競争が持ち込まれ、知的
共同性が失われ、高専間の連携も失われることになります。こうした本来教育とは馴
染まない市場原理・競争原理が真に高専を活性化するといえるでしょうか。むしろ、
心ある教育者であれば、意気粗相し、活性化とは逆の結果を生むのではないかと危惧
されます。
 第3の、教育研究の高度化については、「早期段階からものづくりの現場感覚を身
に付け、想像力を涵養する教育を行う高専の教育研究の高度化を推進できる」とされ
ています。第三者評価による教育研究の質の向上と競争的環境、評価結果による重点
的資源配分、大学・大学院との連携強化、が挙げられています。
 しかし、第三者評価といっても、文科省、総務省による評価であって、しかもそれ
が資源配分に繋がるとなれば、教育・研究が目先の成果に流れて、むしろ質的低下を
もたらすのではないでしょうか。また、教育研究の特性に鑑み、「大学評価・学位授
与機構」の評価結果の尊重を義務付けた大学とは異なり、高専については、「大学評
価・学位授与機構などによる評価結果を活用するなど適切な配慮」を求めているに過
ぎません。これは、教育研究の高度化の推進どころか公正な教育研究の評価も期待で
きないといえましょう。
 また、「大学・大学院との更なる連携強化」についても、むしろ逆に連携の弱体化
が進むのではないかと懸念されます。現行の「学校教育法の第2条」は、「学校は、
国、地方公共団体及び私立学校法第三条に規定する学校法人(以下学校法人と称する)
のみが、これを設置することができる」となっていますが、文部科学省は今国会にこ
れを「学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校法人のみが、これ
を設置することができる」と改定しようとしています。また、「国立大学法人法案」
「独立行政法人国立高等専門学校機構法案」と、大学と高専を完全に分離しようとし
ています。このような方向がどうして「大学・大学院との更なる連携強化」に繋がる
でしょうか。現在国立大学と国立高専は職員の人事異動、教官の研究や学生の学会発
表等大学と連携・交流する場が多々あります。高専関係者は、高専が大学とは異なる
側面を持ちながらも、同じ高等教育機関との位置づけで、高等教育機関としての役割
を担うことを希望しています。

 以上見てきましたように、「中間報告」の「法人化の意義・期待される効果」の項
での、その期待とはまったく裏腹に、独立行政法人化が、高専の非個性化・不活性化・
反高度化を招くに他ならないと思われます。40年にわたって培ってきた高専教育の
成果は、「中間報告」でも述べられているように、産業界をはじめ社会から高く評価
を受けてきました。独立行政法人化は、それをさらに発展させるのでなく、後退させ
るものと言わざるを得ません。
 なお最後に、今回募集された意見が、単なる手続き上の形式に留めることなく、
「最終報告」に反映させることを心からお願いしたいと思います。