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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人化と日本育英会奨学金制度改悪に反対する
 渋谷共同法律事務所   萩尾 健太.
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自由法曹団東京支部特別報告集に以下の文章を寄稿しました。

よろしくご検討ください。

  国立大学法人化と日本育英会奨学金制度改悪に反対する。
                    渋谷共同法律事務所   萩尾 健太
1 法科大学院の問題点
 2002年11月22日に「学校教育法の一部を改正する法律」、同月29日に「法
科大学院の教育と司法試験等の連携等に関する法律」、「司法試験法および裁判所法の
一部を改正する法律」が成立し、法科大学院設置の法的枠組みが確定した。これによ
り、法科大学院のもつ問題点もまた明らかなものとなった。
 第1に、法科大学院が文部科学大臣の認証する認証評価機関の評価に服し、文部科学
大臣による改善勧告、変更命令、廃止命令を受け、法務大臣による措置要求を受けるな
ど、学問の自由と大学自治が侵害される危険の強い制度となっている点である。
 第2に、現在の貧困な大学予算を前提としながら少人数教育を義務づけることから、
学費の高騰が予定されている点である。私立大学では授業料は年間200万円は下らな
いと試算されている。これでは教育の機会均等の原則が破壊され、教育を受ける権利が
侵害されることとなる。
  こうした問題点のため、法科大学院は、裕福な者だけが入れる管理統制の大学院とな
りかねないとの危惧がある。
 ところが、こうした傾向にますます拍車をかける「改革」の二つの法案が今国会に提
出されようとしているのである。
2  国立大学法人化の違憲性
 一つは、国立大学の法人化である。文科省の調査検討会議最終報告によれば、国立大
学法人には、以下のように憲法に違反する問題点があるといえる。
@文科大臣が各大学の「中期目標」を決定し、その具体化としての各大学の「中期計
画」を認可し、「中期目標」の達成度の評価結果を各大学への運営費交付金の算定へ反
映させ、ひいては大学そのものを廃止することまで検討されるなど、憲法の保障する学
問の自由と大学の自治を侵害し、行政の教育への介入を禁止した教育基本法10条に反
する。
A学外有識者(=財界人)が相当数参画する運営協議会に大学の経営を委ね、従来の評
議会の権限は教学面に限定され、従来の全学教官の投票ではなく運営協議会と評議会の
代表が学長を選考する。その解任は文科大臣がなし得る。学部長の選挙制度は廃止・縮
小され、学長が任命する。学部教授会の審議事項は教育研究に関する重要事項に精選、
学部長のトップダウンによる意思決定が強化される、というように、大学自治の基盤で
ある教授会による民主的運営は破壊される。
B教員の任免・懲戒・転任・降任は、従来、評議会の民主的決定によるとされ、学問の
自由保障のための教員の身分保障がなされていたが、国立大学法人では学長、学部長の
役割を大きくし、さらに「教員の流動性を高めるため」に5年の任期制を導入するとし
て、教員の身分保障を排して学問の自由を侵害する。
C教職員は非公務員とされ、文科省が職員の服務、勤務時間の「共通の指針」を設ける
ことが検討され、国立大学評価委員会が人件費総額の管理を厳正に評価するとされてお
り、職員の労働条件低下、賃金の抑制、人員整理が予定されている。このように公務員
としての身分保障を失いながらも実質的に労使自治が無く、職員の働く権利(憲法27
条)を侵害するものである。
D大学の独立採算性強化に伴い、現在でも世界最高の学費がさらに高騰することが予想
され、教育の機会均等の原則、学生、院生の教育を受ける権利がいっそう侵害される。
3 日本育英会奨学金廃止の重大な問題
 二つ目は、日本の公的奨学金事業を担ってきた日本育英会の独立行政法人化と奨学金
の改悪である。
  日本育英会を、独立採算性、効率第一の独立行政法人に移行すると言うことは、教育
の機会均等保障のための公的援助の理念が根底から覆されることを意味する。
2002年12月に出された文科省の検討会議の検討会議の「最終取りまとめ」によれ
ば、新たな独立行政法人は債権発行による市場での資金調達を行う。奨学金給付の条件
として保障機関が債務保証をし、学生本人から保証料を取り、返済不能時には、保障機
関が学生に代わって支払い、学生から回収する。さらに、回収率を高めるために回収業
務を民間委託するとしている。これはサラ金並の「教育ローン」化に他ならない。
 加えて、政府は、大学院生が公的研究職に就職した場合の奨学金の返還免除制を廃止
するとしている。これについて英国の科学雑誌「ネイチャー」は「日本の科学に打撃を
あたい得る」との記事を載せ、危惧している。
 これでは、大学では相当に裕福な家庭のでの者しか学べなくなりかねない。しかし、
それでは社会的弱者の人権を擁護する人材が育成できるのか極めて疑問である。
4 求められる闘い
 このように変貌させられようとしている大学に、法曹を養成する法科大学院は設置さ
れようとしているのである。これは、法曹の養成に重大な関心を有している自由法曹団
にとっても、重大な問題である。
 国立大学法人化に対しては、全大教、都大教や日本科学者会議、国立大学独法化阻止
全国ネットワークなどの労働組合、民主団体が、ねばり強く反対運動を展開している。
 日本育英会奨学金廃止に対しては、特殊法人労連・日本育英会労組、全教、日本科学
者会議、全院協、全学連、全寮連、日本民主青年同盟などの労働組合、青年学生団体が
反対運動と2次にわたる署名に取り組んでいる。法科大学院関連法成立に際しての参議
院の付帯決議にも、「既存の奨学金の充実」との文言が盛り込まれたことは注目すべき
である。
 自由法曹団は、法曹養成はあくまで憲法と人権を擁護する人材を育成する観点が重視
されねばならないとの見地から、それを制度的に極めて困難にする二つの「改革」、国
立大学法人化と日本育英会奨学金の廃止・改悪に反対し、学問の自由と大学の自治、教
育を受ける権利と教育の機会均等の原則をあくまで擁護して闘う必要がある。