トップへ戻る   東職HPへ戻る
独行法反対首都圏ネットワーク

☆「国立大学法人法案の概要」の重大な問題点 
  .[reform:04416]2003年2月14日 独立行政法人化問題を考える富山大学教職員の会 
--------------------------------------------------------------

2003年2月14日
 
「国立大学法人法案の概要」の重大な問題点
 
                  独立行政法人化問題を考える富山大学教職員の会
                                      世話人 別本明夫(人文) 広瀬 信(教育)
                                              坂口正志(経済) 濱本伸治(理)
 

富山大学の教職員のみなさん
 
 2004年4月1日からの国立大学の独立行政法人化を具体化する「国立大学法人法案の概要」が大学執行部やマスコミに流されていますが、未だにわれわれ大学人の前には正式には公開されていません。すでに「法案」そのものも作成され、2月20日の国大協法人化問題特別委員会を経て、2月末には閣議決定するというスケジュールが組まれていますが、われわれ大学人の前には公開されていません。極めて重大な国立大学制度改変をこそこそと隠れて進める文部科学省と国大協執行部のこの非民主的手法をわれわれは強く批判するものです。以下に、独立行政法人化をめぐるこれまでの経過と、伝えられる「国立大学法人法案の概要」(以下、「概要」)の内容とその重大な問題点についてお伝えします。
 
1.度重なる後退を繰り返してきた国大協執行部
 
 当初、文部省も国大協も、「国立大学は独立行政法人化になじまない」と、独立行政法人化そのものに反対していました。ところが、独立行政法人通則法が制定されると、「通則法のままの独法化反対」(国大協)と後退し、「通則法によらない独立行政法人」というあいまいな(実際は正しくない)概念を持ちだしてごまかし始めました。これが「概要」でどのようになったかについては後述します。
 また、国立大学の独立行政法人化については、「公務員型が前提」と文部省も国大協執行部も言ってきましたが、昨年3月26日付の国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議最終報告「新しい『国立大学法人』像について」(以下、「最終報告」)では、「非公務員型」が適当と、再び前言を翻しました。そして今回の「概要」は、この「最終報告」からもさらに逸脱する、極めて危険な制度設計となっています。
 
2.「最終報告」の危険な制度設計
 
 「最終報告」そのものが、現在の国立大学のあり方を根本から変えてしまう危険な制度設計でした。@トップダウンによる大学運営の仕組みの導入(教授会権限の縮小、教員の学長選考権限の剥奪、学部長等の学長による任免、学部教授会の教員人事権の縮小等とセット)、A教学と経営を分離し、経営担当組織に学外者を投入し、経営優先の大学運営ができる仕組みを導入、B職員の「非公務員化」、C文部科学大臣による目標管理による大学統制の強化と、評価を通じた財政的締め付けをその特徴とし、「学問の自由」(憲@23条)を支える「大学の自治」をあらゆる面から掘り崩す制度設計になっています。その要点を振り返っておきます。
 
 ・学長を中心とする役員会によるトップダウンによる意思決定の仕組みの導入
      現行法では評議会が大学の最高議決機関ですが、「最終報告」では、経営面に関す  る運営協議会(仮称)と教学面に関する評議会(仮称)の審議を踏まえながらも、学  長が「最終的な意思決定を行う」とし、特定の重要事項については、学長の意思決定  に先立ち役員会(仮称)(学長、副学長等で学外者を含む)の議決を経るとしました。
 ・教学面を担当する評議会と経営面を担当する運営協議会を分離し、運営協議  会に学外者を「相当程度」入れる
     経営面の重要性は否定しませんが、教学担当組織と経営担当組織を分離し、経営担  当組織の学外者の比重を高めることで、教育・研究の論理より経営の論理を優先する  大学運営がなされる危険性が高まります。前項目と相俟って、「学問の自由」を担保  する「大学の自治」を危うくします。
 ・教授会の審議事項の精選と学部長等の権限を大幅に強化する
   「学問の自由」を担保する「大学の自治」の重要な構成要素である「教授会自治」  を危うくさせます。
 ・職員の身分を「非公務員化」
   国立大学の教員を、「学問の自由」を支える法体系の一つの教育公務員特例法の対  象から除外することで、任免・分限・懲戒・研修など教員に関する身分保障の法的根  拠が失われ、「学問の自由」が脅かされる危険性が高まります。
 ・学長の選考方法を、現行の大学教員の投票による方法から、運営協議会(学  外者を相当程度含む)と評議会の双方の代表で構成される学長選考委員会(仮  称)による選考に変える
   「学内者の意向聴取手続(投票など)を行うことも考えられる」としていますが、  その役割は極めて限定され、「大学自治」の根幹をなす学長選考の権限が教員から剥  奪されます。
 ・学部長等の任免を学長が行う
   現行では各学部教員の投票で選考されている学部長(教育公務員特例法第4条「教  授会の議に基づき、学長が行う」)を、学長が任免するように変える(「教授会の議  に基づき」が適用されなくなる)ことで、「大学の自治」の重要な構成要素である「学  部自治」が危うくされます。
 ・教員の選考に際して、学長、学部長等がより大きな役割を果たす
「教員の選考に際しては、専門性を有する学部等の考えが尊重されるとともに、大学全体の人事方針が適切に反映されることが重要で……学長及び学部長等がより大きな役割を果たすべきである」としており、全学的(経営的)見地を優先した、学部の教育・研究上の必要性を尊重しない教員人事が可能になります。
 ・「中期目標・中期計画」の作成とその評価による目標管理の手法による統制
   「中期目標」については、各大学による原案の提出と文部科学大臣に原案への配慮  義務を課することをうたっていますが、決定するのは大臣の権限であることには違い  がなく、「中期計画」も大臣の認可を受けなければなりません。国立大学は、大臣の  強力な統制下に置かれる、自治を持たない(独立)行政法人に変質してしまうのです。  ・文部科学省におく国立大学評価委員会(仮称)が「中期目標」の達成度を評  価し、次期以降の運営交付金等の算定に反映させる
      目標管理の手法で統制を加えながら、評価を通じて財政面で締め付ける仕組みで、  評価のさじ加減一つでいかようにもできることになり、文部科学大臣が国立大学の生  殺与奪の権を握ることになります。「最終報告」には明記されていませんが、独立行  政法人通則法では、中期目標の期間の終了時に「事業の改廃」ができることになって  います(後述)。
  ・学生納付金については、「国が示す範囲内」で各大学が設定できる
      大学毎、学部毎に授業料が変えられることになり、授業料がさらに高騰し、教育の  機会均等を損なうことになります。
 
3.「国立大学法人法案の概要」の内容と重大な問題点
 
 1月31日の国大協法人化問題特別委員会で示された「国立大学法人法案の概要」(以下、「概要」)は、「最終報告」の危険な制度設計を具体化する内容になっていますが、「最終報告」からさらに逸脱するより危険な内容に変更されています。
 
 1)国立大学の設置者を「国」とせず、「国立大学法人」としている
 「最終報告」は、「国立大学」の設置者を「学校教育法上は国を設置者とする」と明記し、「大学の運営組織と別に法人としトの固有の組織は設けない」としていました。しかし、「概要」では、「『国立大学法人』とは、国立大学を設置することを目的として……設立される法人をいう」として、「国立大学法人」が国立大学の設置者に変更されています。
これにはどのような意味があるのでしょうか。
 @国立大学に対する「国」の財政責任を曖昧にし、責任を「国立大学法人」に  転嫁
 学校教育法第5条は、「学校の設置者は……その学校の経費を負担する」としています。「国」が設置者ならば、「国」に国立大学の「経費負担義務」が生じます。「国立大学法人」が設置者とされることで、「国」の「経費負担義務」が曖昧にされ、法的には「国立大学法人」に「経費負担義務」が転嫁されます。こうしておくことで、ミニマムにも満たない運営交付金を「国」が負担し、残りは「国立大学法人」の責任において自己収入・外部資金でまかなうべきだという論理が法的には可能になります。独立行政法人化が、そもそも国の行政改革(経費負担の削減)の手段の一つとして登場したことを考えれば、国が国立大学に対する財政負担をどんどん切りつめていくことは十分予想されます。
 このことを警戒して、国大協法人化特別委員会の「国立大学の法人化に関する法制的検討上の重要論点」(昨年11月)も、「法人化後の国立大学に対する国の設置者としての責任の明確化」を、譲ることのできない重要論点としていましたが、今年1月31日付の法制化対応グループ「『国立大学法人法案の概要』について」では、またもこれを容認しています。
 A大学と法人の分離は、民営化をにらんだ「私立大学方式」
 学校教育法第5条は、「学校の設置者はその設置する学校を管理」するとしています。すると、「国立大学」は「国立大学法人」によって管理されることになります。この大学と法人の分離は、私立大学の設置形態とほぼ同じ形態です。職員の身分の「非公務員化」と合わせ、将来の民営化をにらんだ「私立大学方式」の導入であると言うことができます。
 
 2)学外者の発言力の強化
 「最終報告」でも見たように、国立大学の独立行政法人化は、教学と経営を分離し、経営担当組織に学外者を投入し、経営優先の大学運営ができる仕組みを導入することがそのひとつのねらいになっています。「概要」では、経営優先の大学運営をより強力に押し進めるために、役員会と経営協議会に学外者の割合を増やすための仕掛けが持ち込まれています。学長選考会議の構成も、半数が学外者で占められます(場合によって半数未満や過半数にすることもできます)。
 @役員会の構成を学長、理事(「最終報告」では副学長)、監事とした
 「最終報告」では、役員会は学長、副学長、監事とされていました。「学外者を監事以外の役員にも必ず登用すること」とされていましたので、役員にも学外者が入ることは予想されていましたが、副学長という名称から、教員から選任される副学長がイメージされていました。しかし、名称を理事と変えたことで、副学長でない理事を入れることができるようになり、私立大学の理事会のイメージにより近づき、学外理事の比重が高められる可能性が高まりました。また、1月23日の時事通信ニュース速報によれば、文部科学省は大学設置基準を改正し、学長の資格について、これまでの「大学の教育、研究経験者が望ましい」との規定を削除する方針を固めたそうですから、学長にも教育・研究経験者でない学外者が選任される可能性が出てきます。
 A経営協議会に2分の1以上の学外委員
 国立大学法人の経営面の審議機関である経営協議会は、学長、学長が指名する役員及び職員、学外有識者(学外委員)で構成されますが、この学外委員を2分の1以上にしなければならないという規定が新たに入れられました。「最終報告」では、経営面の審議機関である運営協議会では「学外の有識者が相当程度の人数を占める」という表現でしたから、明らかに学外委員の比重を高めたといえます。しかも、役員にも学外者が含まれる可能性がありますから、法人経営で重要な役割を果たす経営協議会は、過半数の学外者によって支配され、教育・研究の論理を無視した経営優先の大学運営が強力に進められる危険性が極めて高いと言わなければなりません。「学問の自由」とそれを保障する「大学の自治」は完全に過去のものとなりかねません。
 
 3)教育研究評議会の審議事項から「教育研究組織」を削除
 「最終報告」では、「評議会」の審議事項に「教育研究組織」を入れていましたが、「概要」の「教育研究評議会」の審議事項からはこれが削除されています。そして「役員会」の議決事項に、「重要な組織の設置・廃止」が盛り込まれています。これも重大な変更点です。現行の評議会に変えて新たに設置される「教育研究評議会」は、教育・研究の根幹に関わる「教育研究組D」の新設、廃止、再編などについて、決定権がないのみならず、審議すらできない組織に改編されてしまうのです。
 
 4)学長・役員会による事実上の専決体制
 「最終報告」では、「学長は……(運営協議会と評議会の)審議を踏まえ、最終的な意思決定を行う」として、そこに示された機構図では、あたかも運営協議会と評議会という二つの審議機関と執行機関としての学長・役員会がそれぞれ独立しているように描かれています。しかし、「概要」によると、これら二つの審議機関の双方に学長・役員が正規メンバーとして参加し、学長がそれらを主宰することになっています。これでは学長・役員会による事実上の専決体制といってもよく、しかも役員(理事)は学長の任命となっているので、学長の権限が異常に強大なものになっています。
 
 5)独立行政法人通則法35条(「事業の改廃」)が準用される
 「概要」の1月版の前の12月版というのがあり、それに対応する「国立大学法人法案『骨子素案』」がありますが、それによると、国立大学法人法案には、独立行政法人通則法(以下、通則法)の規定が39カ条にわたって準用されることになっています。「概要」は、冒頭で国立大学法人は「独立行政法人通則法に規定する独立行政法人ではない」と述べていますが、国立大学法人法案は事実上、通則法の特例法となっているといえます。
 「最終報告」ではまったく触れていませんが、準用される通則法の規定に第35条の「中期目標の期間の終了時の検討」があり、「主務大臣は……当該独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずる」とされており、また、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は「事業の改廃に関し、主務大臣に勧告することができる」となっています。つまり、中期目標の期間の終了時に、国立大学法人は「改廃」されることもありうるのです。これでは「大学の自治」などまったく死文化してしまうことになります。
 
 以上のように、「国立大学法人法案の概要」は、国大協がその「制度設計に沿って、法人化の準備にはいることとしたい」としてきた「最終報告」とも大きく異なる内容を含むものです。したがって、われわれは、国大協は「概要」に従った国立大学法人化の是非を審議するため、国大協臨時総会を緊急に開催するべきである、そして「概要」に従った法案作成を断固拒否すべきであると考えます。この旨、昨日瀧澤弘学長に申し入れました。
 合わせて、先日配布しました「大学改革を考えるアピールの会」(代表 池内了名古屋大学教授)の「国立大学の『大学法人化』等にかんするアピール」への賛同を呼びかけます。