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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大学法人化の教育公務員特例法への影響
 2003年1月13日 弁護士 萩尾 健太.
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表記テーマについて、下記のように考えました。

「法人法骨子素案」は踏まえておりませんので、ややまとはずれかもしれませんが、よ
ろしくご検討ください。

国立大学法人化の教育公務員特例法への影響
                                                  2003年1月13日
                         弁護士 萩尾 健太
1 教育公務員特例法の適用を排除する国立大学法人化
文部科学省の「国立大学行政法人化に関する調査検討会議」は2002年3月26日、
その調査検討の報告書「新しい『国立大学法人』像について」を発表した。2003年
通常国会に提出が予定されている国立大学法人法案は、この報告書をもとに策定される
ものと思われる。
この報告書によれば、国立大学法人法案は、国立大学について、基本理念、運営組織、
人事制度、評価制度、財務会計制度、共同利用期間に関する大幅な変更をともなう法案
となると思われる。
その規定事項は、現行の学校教育法及び教育公務員特例法の規定事項を変更するものと
なる。
既に、国立大学を除いて公立・私立大学については、学校教育法改定15条が文部省か
らの統制を定めた。国立大学については、国立大学法人法案で規定することとなろう。
教育公務員特例法も、国立大学法人法案の策定に伴い、国立大学を基本的には対象から
外し、国立学校・公立大学・公立学校の教員・教育長等のみを対象とするとの大幅な改
定がなされるものと考えられる。
まず、国立大学法人の非公務員化に伴い、第3条の国立学校の学長、教員等が国家公務
員であるとの規定が適用されないことは言うまでもない。
その結果、教育公務員特例法の諸制度は法的には国立大学法人には全く適用されないこ
とになる。
しかし、以下に述べるように、教育公務員特例法は、憲法20条が保障する大学自治の
根幹をなす諸制度を定めたものであって、その適用がなくなることは、実質的改憲とも
言うべき重大な事態である。
2 教育公務員特例法の意義
教育公務員特例法の
「第2章 任免、分限、懲戒及び服務
 第1節 大学の学長、教員及び部局長」の規定は、大学の自治の中核をなす教授会の
自治の諸制度を規定したものであった。
 その内容は、教授会、評議会を中心とする自由主義的・民主主義的組織運営と民主主
義的人事制度に大別される(しかし、この2者は本来分けられない性格を持っており、
同一の条文で規定されている。なぜなら大学は教員一人一人が運営者である自治団体だ
からである。そのもとで、学長と教員は法文上対等なのである)。
  自由主義的組織運営とは国家からの自由・独立であり、民主主義的組織運営とは、前
記の点と表裏の関係にある構成員による民主的大学運営である。そのように自由で民主
的な大学における人事制度が教育公務員特例法の特徴であり、大学自治の実質であっ
た。
 
3 自由主義的・民主主義的組織運営の変更
(1)自由主義的・民主主義的組織運営
 大学の自由主義的・民主主義的組織運営については、以下のように規定されている。
4条1項 学長及び部局長の採用は選考による
2項 学長の採用のための選考は・・・・評議会が行う。
3項 学部長の採用のための選考は、評議会の義に基づき、学長が行う
5条1項 学長は評議会の審査の結果によるのでなければ、その意に反して転任される
ことはない
6条   学長は、評議会の審査の結果によるのでなければ、その意に反して転任され
ることはない
7条   学長の休職の期間は、・・・評議会の議に基づき学長が定める。
8条   学長の任期は、・・・評議会の議に基づき学長が定める。
9条   学長は、評議会の審査の結果によるのでなければ、懲戒処分を受けることは
ない
10条  学長の認容、免職、休職、復職、退職及び懲戒処分は、学長の申し出に基づ
いて、任命権者が行う。
(2)大学自治への介入と民主主義の破壊
 これが、「新しい『国立大学法人』像について」によれば、以下のように変わると考
えられる。
 役員として、学長、副学長、幹事がおかれる。幹事は、国立大学法人の業務を監査
し、監査の結果に基づき、必要があると認めるときは、学長または文部科学大臣に意見
を提出する。幹事の内1名は学外者とされる。
 幹事以外の役員(学長、副学長)やスタッフにも学外者を登用する。ここで言う学外
者とは、国立大学法人化に伴い、「経営面での権限拡大」が強調されている以上、経営
の専門家(財界人等)が想定されるだろう。また、幹事以外の役員には、「大学運営に
高い見識を有する事務職員」(=文部官僚)も積極的に登用するとされている。
 また、同じ観点から、主に経営面に関する重要事項や方針を審議する運営協議会を新
設し、「そこに相当程度の人数の学外有識者の参画を得る」。
 従来の評議会の権限は、主に教学面に関する重要事項や方針の審議に限定される。
 学長の任命は以下のように変えられる。
「学長は教育研究に高い識見を有すると同時に、法人運営の責任者としての優れた経営
能力を有しているものが選任される必要がある。」そのもとで、前述の運営協議会の代
表と、教員らの評議会の代表から構成される学長選考委員会で学長候補者を選考し、文
科大臣が任命することとなる。
 学長の解任は、法人の長として学長が不適任とされる場合には、文科大臣が解任でき
ることとなる。
 学部では、教授会の審議事項を教育研究に関する重要事項に精選、学部長や補佐体制
の権限を大幅強化して、トップダウンによる意思決定を強化する。
 学部長等は、従来の選挙制が廃止ないし弱められ、学長が任免することとなる。
  このように、民主主義的で外部からの干渉を排した制度から、文科省や財界が大学運
営に容易に干渉でき、教職員はトップダウンでそれに従う制度へと変えられることにな
るのである。
4 民主的人事制度の変更
(1)民主的人事制度
 大学の民主的人事制度については、教育公務員特例法では以下のように規定されてい
る。
4条1項 教員の採用及び昇進は選考による
5項 教員の採用のための選考は、評議会の義に基づき学長の定める基準により、教授
会の議に基づき学長が行う。
5条1項 教員は評議会の審査の結果によるのでなければ、その意に反して転任される
ことはない
5条2項 評議会及び学長は、事前の説明書交付
5条3項 審査を受ける者の意見陳述権
5条4項 参考人の出頭
6条1項 学長は、評議会の審査の結果によるのでなければ、その意に反して免職・降
任されることはない
6条2項 5条2〜5項の準用
7条   教員の休職の期間は、・・・評議会の議に基づき学長が定める。
8条の2 教員の定年は、・・・評議会の議に基づき学長が定める。
9条   教員は、評議会の審査の結果によるのでなければ、懲戒処分を受けることは
ない
10条  教員の任用、免職、休職、復職、退職及び懲戒処分は、学長の申し出に基づ
いて、任命権者が行う。
11条  教員の服務について・・・は、評議会の議に基づき学長が定める。
12条  教員の勤務評定及び評定の結果に応じた措置は、教授会の議に基づき学長が
行う。  
  このように、教育公務員特例法では、学問の自由保障のため、教員の身分が保障され
ており、その変更は民主的手続きを経て行われることとされている。
(2)身分保障の剥奪と無権利化
これが、国立大学法人化でどう変わるだろうか。

まず、教員は公務員ではなくなるのだから、教育公務特例法上の身分保障が無くなり、
教員が、学長と同格の大学自治の担い手から、経営と分離された「労働者」となる。し
たがって、国立大学法人では、教員も教員以外の職員と同様な規制に服することとな
る。
反面、公務員に対する規制に服することもなくなるように思える。
つまり、公務員の労働条件法定主義から、労働基準法等による最低基準法定、労使自治
で就業規則等により労働条件規定となるように思える。ところが以下に述べるように、
むしろ、国家に管理される体制となるのである。

@教員の任免等
「新しい『国立大学法人』像について」によれば、「教員の選考に際しては」「大学・
学部等の運営の責任者たる学長及び学部長がより大きな役割を果たすべきである。」
「その選考のための委員会に学内外の関連分野の教員等の参加を求めたり、学外の専門
家による評価・推薦を求め参考にするなどの方法により、外部の意見を聴取」する、と
している。これにより、大学の民主主義的自治による身分保障に原則が破壊される。
さらに、「教員人事の流動性・多様性を高めるために」任期制を導入するとしている。
これは、労働者の被用・離職の権利を保障するために労働基準法が1年以上の雇用期間
の定めを禁止した趣旨に反するものである。
また、「教員の流動性を高める」という以上、任期後の解雇、配転、出向を当然予定し
ているものと考えられる。
「職員に人事システムについても、教員の場合と同様、各大学が決定し、任命権は学長
に属することとする」とされる。この考え方のもとで、大学によっては職員についても
任期制を導入する動きがでている。
A給与
「職員の業績を反映したインセンティブを付与する給与」
「職務の性質を踏まえた個人の業績を評価する制度を設ける。」
「年俸制の導入など、多様な給与体系」などと記載され、職場に競争原理が具体的に導
入されることとなる。しかし、大学における研究教育は、本来、短期的に結果を出せる
性格のものではない。にも関わらず、上記のような給与体系を強要することは、大学教
職員を短期で成果の出せる研究ばかりに駆り立てることになり、学問自体を衰退させか
ねねない。しかも、文科省が(?)「各大学における適切な給与決定の参考とすること
ができるような給与モデル作成することの必要性」も記載され、そうした給与体系が事
実上押しつけられることとなる。
「外部資金を活用した大規模な研究プロジェクトを推進するため、競争的研究費を、当
該プロジェクトを担当する任期付職員の人件費等に充当」するとしている。外部資金を
活用した大規模な研究プロジェクトとは大企業と提携した研究プロジェクトであること
が多いから、こうしたプロジェクトを担当する任期付職員に競争的研究費を充当するこ
とは、大学を大企業の下請化へ誘導することとなろう。
B服務・勤務時間 
 職員の服務、勤務時間等は各大学において決定するが、国民に対する説明責任を踏ま
えたものでなければならない、とされている。また、文科省が(?)「共通の指針を設
けることの必要性」も指摘されている。結局は、各大学での自由および労使自治は制限
されることとなる。
兼職・兼業に関する規制の緩和が強調され、「国立大学法人の業務や組織の一部を別法
人にアウトソーシングする場合」との記載もあり、企業との一体化がしやすい制度とな
ることが目指されているようである。
さらに、教員について、不払い残業を合法化する裁量労働制の導入が提唱されている。
C人員管理=人員整理(極めて重大)
「○学内において、中・長期的な人事計画の策定と組織別の職員の配置等(人事管理を
含む)についての調整を行うための仕組みを設けることが必要である。この場合、新し
い運営組織のもとで、経営面からも十分な検討が行われ、調整が図られる必要があ
る。」と記載されている。これは、人員整理する、と言うことである。
この記載からすれば、国立大学の法人への移行期には必ず大量の人員整理が生じると考
えるべきである。
「○また、国立大学評価委員会(仮称)における各大学の業績に対する評価に際して
も、給与等の人件費総額が適切に管理されているかどうか、慎重かつ厳正な評価を行う
ことが必要である。」
この記載の意味するところは、非公務員化しても、国立大学評価委員会の評価に拘束さ
れ、実際上、国立大学法人の職員は労使自治で給与、人員は決められないということで
ある。公務員としての身分は剥奪され、民間の労使自治がないという最悪の制度であ
る。
5 国立大学法人化への対処
 上記のように、国立大学法人化は、学問の自由保障のための大学自治の根幹を破壊
し、教職員の雇用上の権利を奪う重大な問題を有するものである。
 そうである以上、先の侵略戦争に大学が協力したことの反省に立って憲法に明記され
た学問の自由の重要性と、それを保障する制度として大学の自治が不可欠であることを
訴え、今日の不況の下、大学教職員と同じくリストラ攻撃にさらされている多くの労働
者と連帯して、国立大学法人化は粉砕するしかない。
 仮に、国立大学法人化を粉砕できなかった場合、法人への移行期には、前述のように
人員整理が予想される。これについては、教員の身分保障を定めた教育公務員特例法5
条、6条の潜脱を許さないこと、民法625条1項により同意無くして配転はなし得な
いこと、新事業体への労働契約の承継を原則とする厚生労働省の労働契約承継法の「指
針」の趣旨などを主張して抵抗すべきである。
それとともに、労使交渉を行い、就業規則、労働協約を労働者の権利を保障するものと
して策定することが必要であろう。
                                                                         以上