独行法情報速報

No.23

特集:国立大学法人法案「概要」分析

2003.1.23 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/

 

【開示1】国立大学法人法案の概要(骨子素案)[02.12.25版]

文科省は国大協トップ層との密室協議を重ねながら国立大学法人法案を既に作成したといわれている。その「概要」は以下のとおりである(http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html)

 

I 総則


 「国立大学法人」とは、国立大学を設置することを目的として、この法案の定めるところにより設置される法人を言う。
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 ○学校教育法第2条を次のように修正(下線部を追加)
  学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校法人のみが、これを設置することができる。
 ○学校教育法上、法人化後も「国立大学」。

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  独立行政法人通則法に規定する独立行政法人ではなく、国立大学に相応しい「国立大学法人」(独立行政法人通則法の規定は必要に応じ準用)。
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 国は、この法律の運用に当たっては、大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に配慮しなければならない。
 国立大学法人(89法人)及び大学共同利用機関法人(4法人)の名称を定める。
 政府からの出資、追加出資及び追加現物出資について定める。
 国立大学法人及び大学共同利用機関法人を評価するための「国立大学法人評価委員会」を置く。
 国立大学法人評価委員会が中期目標期間終了後の評価を行うに当たっては、独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う教育研究評価の結果を尊重しなければならない。


II 組織及び業務


(役員)
 国立大学法人の役員として学長、理事及び監事を置く。
(役員会)
 学長は、次の事項について決定する際には、役員会(学長及び理事で構成)の議を経なければならない。
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画 2)文部科学大臣の認可・承認を受けなければならない事項 3)予算の構成・執行、決算 4)その他役員会が定める重要事項
(学長の任命)
 学長の任命は国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う。
 8の国立大学法人の申出は、
1)学長及び役員(経営協議会委員又は評議員である者に限る。 2)経営協議会の学外委員で経営協議会から選出される者 3)評議会の代表者
で構成される「学長選考会議」の選考に基づき行うものとする。
2)及び3)は同数とし、それぞれ学長選考会議の委員の総数の3分の1を超えるものでなければならない。
(理事及び監事)
10 理事は学長が、監事は文部科学大臣が任命する。その際、現に当該国立大学法人の役員又は役員ではない者(学外者)が含まれるようにしなければならない。
(役員の任期)
11 学長の任期は、6年を超えない範囲内で、学長選考会議の議に基づき、各国立大学法人が定める。理事の任期は、6年を超えない範囲内で、学長が定める(ただし、学長に任期を超えてはならない)。監事の任期は、2年とする。
(役員の解任)
12 文部科学大臣は、心身の故障、職務上の義務違反、業績悪化等の場合には、学長選考会議の申出をまって、学長を解任することができる。学長は、心身の故障、職務上の義務違反、業績悪化等の場合には、理事を解任することができる。
(経営協議会)
13 国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関として、「経営協議会」を置く。
14 経営協議会は、
1)学長 2)学長が指名する役員及び職員 3)評議会の意見を聴いて学長が任命する学外有識者(学外委員)で構成され、3)の学外委員が2分の1を超えるものでなければならない。
15 経営協議会は、
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち経営に関する事項 2)会計規程、役員報酬基準、職員給与基準その他経営に関する重要な規則の制定・改廃 3)予算の構成・執行、決算 4)組織編制、学生定員 5)経営面での自己評価 6)その他国立大学法人の経営に関する重要事項
を審議する。
16 経営協議会の議長は学長を充て、議長は経営協議会を主宰する。
(評議会)
17 国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として「評議会」を置く。
18 評議会は、
1)学長 2)学長が指名する役員 3)学部長、研究科長、附置研究所長その他の重要な教育研究組織の長で評議会が定める者 4)その他評議会が定めるところにより学長が任命する職員
で構成される。
19 評議会は、
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち教学に関する事項 2)学則その他の教育研究に関する重要な規則の制定・改廃 3)教育研究組織 4)教員人事に関する事項 5)教育課程編成の方針
6)学生の厚生・補導 7)学生の入退学や学位授与等の方針 8)教育研究面での自己評価 9)その他国立大学の教育研究に関する重要事項
を審議する。
20 評議会の議長は学長を充て、議長は評議会を主宰する。
(学部、研究科等)
21 学部及び研究科並びに附属学校及び附置研究所は文部科学省令で規定する。
(国立大学法人の業務)
22 国立大学法人の業務を定めるとともに、国立大学の研究成果を活用する
事業等を実施する者に対して出資できることを定める。


III 中期目標等


23 文部科学大臣は、6年を期間とする中期目標を定める。中期目標は、1)教育研究の質の向上に関する事項 2)業務運営の改善及び効率化に関する事項 3)財務内容の改善に関する事項 4)自己評価や情報発信に関する事項 5)その他の重要事項
を定める。
 文部科学大臣は、中期目標を定めるに当たっては、あらかじめ、国立大学法人の意見を聴き、当該意見に配慮しなければならない。
24 国立大学法人は、中期目標に基づき、中期計画を作成し、文部科学大臣の認可を受けなければならない。


IV 財務及び会計


25 積立金の処分、長期借入金、財産処分収入の独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)への一部納付等について定める。


V その他


26 国立大学法人評価委員会は、平成15年10月1日に設置する。国立大学法人は、平成16年4月1日に設置する。
27 国立大学法人移行の際の学長は、原則として現在の任期まで引き続き学長となる。
28 現在の国立大学の職員は国立大学法人が引き継ぐとともに、権利義務も継承する。
29 附属病院の整備や移転整備のための国立大学特別会計の長期借入金は、独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)が引き継ぐとともに、関係する国立大学法人が分担して負担する。

 

《補》この「概要」には、「国立学校設置法に規定する国立学校の今後の組織形態について」という別表があり、国立大学法人法案(仮称)第2条第1項に規定する「国立大学法人」として、国立大学法人北海道大学ほか88国立大学法人がつくられ、それらが北海道大学ほか88国立大学を設置することが示されている。

 

【分析1】法案「概要」の意図するものは何か

1.「概要」のもっとも特徴的な点は、基本的に国立大学法人について規定し、かつ、学校教育法第2条を、「学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校法人のみが、これを設置することができる」と修正して、国立大学は、国立大学法人によって設置されるものとしたことにある。

2.このことは、『最終報告』の論旨との関連で、国立大学の設置者は「国」であると強弁できるようにした面もあるが、国立大学法人の組織を、「役員」・「経営協議会」・「評議会」として規定することで、経営と教学の分離を明確にし、評議会を教学のみの機関に限定することが、基本的意図であると思われる。

3.「概要」は、学長・理事・幹事からなる「役員」と、「国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関」として「経営協議会」を、「国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関」として「評議会」を設置するとしている。

4.『最終報告』では、「主に教学面に関する重要事項や方針を審議する評議会」、「主に経営面に関する重要事項や方針を審議する運営協議会」と規定し、「経営と教学の双方にまたがる案件」については、両組織の「代表による合同の委員会等を開催する」などが、考えられていた。ところが「概要」では、「主に」がとりさられ、合同の委員会等についての言及もない。

5.したがって「概要」では、評議会は形式上では国立大学法人の組織とされているが、実質ではまさに「国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関」と規定され、国立大学法人の運営(予算の編成・執行、決算、組織編制、学生定員など)からは、法構造的に排除が図られていると考えられる。

6.こうして『最終報告』の、「教学と経営との円滑かつ一体的な合意形成への配慮」などから「『大学』としての運営組織と別に『法人』としての固有の組織は設けない」としていた文面とは、法構造上で逆転して、「法人」としての固有の組織のみが法案では規定され、教学と経営の明確な分離がはかられていると結論される。

7.問題は、こうした国立大学法人の組織が何を生み出すかである。教育研究から分離して「学外委員が2分の1を超える」経営協議会が審議し、中期目標・中期計画は文部科学大臣の認可によって決定されるから、大学を産業競争力回復の機関と位置付ける新自由主義的方向への経営方針が、国家統制強化とともに強まることが第一に予想される。これが直接的に意図されているものであろう。

8.問題の第二は、中・長期的に生み出される事態である。評議会をはじめとして教員を、大学の経営(管理運営)から排除するのであるから、教員の経営(管理運営)能力は訓練されず、中・長期的にはその能力は現在以上に低下すると予想せざるを得ない。ところが、学内役員は、基本的にはその教員からリクルートせざるをえないのである。

9.非常勤的役員である学外委員が2分の1を超える経営協議会は基本方針の策定には当たるとしても、日常的経営の指揮は学長・役員会が中心にならざるをえない。その役員のリクルート源泉の能力低下を引き起こす組織の編成方法は、自己磨耗的組織論という以外ない。

10.しかも学長の選考は、学長及び役員も加わった「学長選考会議」の選考に基づき行うものとされている。こうした、事実上の「後継者指名制」ともいうべき学長選考方法では、経営(管理運営)方針の大胆な転換・展開はほとんど不可能で、「業績悪化」による学長解任という事態でもなければありえないだろう。しかも、「業績悪化」を審議する「学長選考会議」には学長が参加するのである。「概要」の国立大学法人の組織編制は、国立大学自殺への道といっても過言ではない。

 

【提言1】学長、評議会は法案全文の公開を要求し、厳密な分析の後、明確な反対の意志を表明すべきである。

【分析1】から「概要」の本質は以下の3点にまとめられる。

第1に、『最終報告』からも逸脱して、1)国立大学の設置者は国立大学法人であり、国は間接的な設置者の位置にあること、2)教学と経営の組織的分離がなされている。

第2に、中期目標・中期計画については独行法通則法が事実上貫徹し国家統制がいっそう強化されるとともに、経営方針の主導権は2分の1以上を学外委員が占める経営協議会に握られる。

第3に、学長権限ならびに学長選考方法は、執行権限と議決権限の分離と相互チェックという近代民主主義の原則から大きく逸脱している。しかも、法人移行の際の学長は現在の任期を維持するので、法人化後まで任期を有している現職の学長は自己の後継者を視野にいれながら永久政権を作るというおぞましい事態さえ可能となる。

以上のような本質を有する国立大学法人法案の成立を絶対に認めることはできない。国大協法人化特別委員でもある磯野学長と評議会は国大協トップ層ならびに文科省に対して法案全文の公開を要求し、分析検討の上、明確に反対の意志を表明するとともに、臨時国大協総会で厳密な議論を行うことを提案すべきである。また、各部局教授会も直ちに議論を開始し、明確な反対の意志を社会に向けてアッピールすべきである。

                  

【開示2】中期目標・中期計画Ver.4出される

目標評価WG(五十嵐委員長)は1月17日「中期目標・中期計画」Ver.4(全体版、部局版)を各部局長、センター長などに送付し、全体版についてはコメント並びに代案を、部局版については加筆修正したものを1月31日までに返送するよう依頼している(これらの文書は各部局、センター等で入手していただきたい)。

 

【分析2】中期目標・中期計画Ver.4(全体版)の問題点

1.「(前文)大学の基本的目標」では、「具体的には」として、「学際的な文理融合型の新分野創成」「研究大学院として世界最高水準の研究教育拠点を形成し得る分野の重点的育成」「高度専門職業人の養成」が目標としてあげられている。さらにこれに関連して、「大学として重点的に取組む領域」として「文理融合型の学際的先端複合研究」「バイオサイエンス」「環境調和型社会の実現につながる学際的、萌芽的研究」のみが掲載されている。しかし、これら「基本的目標」「重点的領域」は正規の機関では議論すらされていない。教授会、評議会での議論が必要である。

2.研究費、スペース、研究支援者など研究活動を具体的に支える条件にインセンティブを導入することが随所で述べられている。しかし、(1)基盤的教育研究条件の整備と拡充についての目標・計画が提示されていない、(2)異なる研究分野を対象とし、分野を越えて評価し得る方法についての提案がない、という状況でインセンティブを導入することは特定分野への恣意的な資源傾斜配分をもたらし、教育研究活動全体を萎縮させる危険がある。

3.教員組織については、「固定的な定員制」の廃止が検討の俎上に乗せられ、引き続き「新しい教員システム」の構築が提示されている。これは国立大学法人法「概要」(【開示1】)が部局等の法的位置づけをせず省令にゆだねる方向を示していることと対応し、部局解体への準備と見るべきであろう。

4.「一定の分野」という限定はつけているものの、教員の任期制が謳われている。この点に関しては本「速報」が繰り返し批判してきたところである。目標・評価WGは漫然と任期制を語るのではなく、少なくとも任期制の法的根拠、労働法制との関係を提示する義務がある。

5.教職員の給与にインセンティブを導入することが提示されているが、成果主義賃金システムが民間ではかえって労働意欲を阻喪し、進取の気風を失わせているという報告が相次いでいることを深刻に分析すべきである。職員採用について突如インターンシップの導入が述べられているが、詳細な検討がなされたとは思えない。

6.資産の有効利用促進のために「資産管理に関する組織」を設置し、また、「講義室等の学外者への利用拡大」が強調されている。これらが、「W 財務内容の改善に関する目標を達成するためにとるべき措置」の中で語られていることでも明らかなように、施設貸与を通じて収益を上げる準備である。本「速報」22号でも指摘したように、収益追求ではなく教育研究の推進、構成員の福利厚生の見地が堅持されなければならない。

7.業務運営の改善及び効率化に関する目標・計画、財務内容の改善に関する目標・計画において、組織業務WG、人事WG、財務WGの分担として示されている部分、特に「目標を達成するための措置」として記載されている部分は、著しく抽象的で、到底、「措置」という得るものになっていない。これらのWGがいかなる活動を行い、検討はどこまで進んだのか、人事WG以外のWGも中間報告を行うべきである。制度設計を進行させることが最も困難と考えられる財務WGの場合でも現在の千葉大学の歳入・歳出構造を分析し、予想される財政構造を示すぐらいの基礎作業は出来るはずである。こうした基礎作業の片鱗すらこのVer.4ではうかがえない。