《分析・研究メモ》
「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」にみる
国立大学法人法体系の構造
2003年1月25日 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局
文科省と国大協トップ層の間の密室協議のなかで用いられている「国立大学法人法案の概要(骨子素案)」(以下、「概要」)の02年12月25日版については、既に本事務局が公表した。同「概要」についての分析・研究結果をメモとしてここに提出するので、多くの方々の検討を期待する。
1.「国立大学法人」による「国立大学」の設置
国立大学法人法体系の最も重要な特徴は、「国立大学法人」を「国立大学」から分離し、法人組織と大学組織の二重性を認めた点にある。「概要」の「I 総則」によれば、「国立大学法人とは、国立大学を設置することを目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう。」と規定される。これは、私立学校法第3条の規定(「この法律において「学校法人」とは、私立学校の設立を目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう」)と文言形式はほとんど一致する。つまり、「概要」においては、「国立大学法人」は「国立大学」の設置者であり、「国立大学」は当該法人によって設置される大学となるのである。このことは、別添図表「国立学校設置法に規定する国立学校の今後の組織形態について」で、「国立大学法人北海道大学ほか88国立大学法人」と「北海道大学ほか88国立大学」というように別記されていることからも明らかである。
2.法人の組織と大学の組織
国立大学法人法は、大学の経営組織としての法人組織と権限を明確にすることによって、大学つまり研究教育組織(教学組織)の権限を極小化する。国立大学法人の組織を、学長・理事・監事からなる「役員」と、「国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関」としての「経営協議会」と、「国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関」としての「評議会」に区分・規定することで、経営と教学の分離を明確にしている。「概要」の「II 組織及び業務」以下において「国立大学」という言葉が使われているのは評議会に関する17項、19項の2ヶ所にすぎず、その他はすべて「国立大学法人」の組織・業務として規定されていることからも明らかである。
3.法人組織の構造的特徴
第1の特徴は、学外者の参加する役員会、学外委員が2分の1を超えることを義務づけられた経営協議会の権限を強化することによって、大学構成員の代表者で構成する評議会を国立大学法人の運営(予算の編成・執行、決算、組織編制、学生定員など)から法構造的に排除する措置がとられていることである。この点で、経営協議会の権限(第15項)に、「中期目標についての意見」(国立大学法人から文部科学大臣に提出する意見=原案の意)、「学生定員」が加えられたことが注目される。それは、評議会権限にある「教育研究組織」と密接な関連を有するからである。
第2の特徴は、学長権限の肥大化、チェックアンドバランス機構の排除である。学長は、理事、経営協議会委員、教育研究組織の長から選ばれる以外の評議員の指名・任命権を持ち、しかも役員会、経営協議会、評議会を主宰するのである。
第3の特徴は、構成員に学長と学長が任命する役員が加わることによって、「学長選考会議」が現職学長に直接従属するという異様な構造となっていることである。しかも、この「学長選考会議」が現職学長の解任提案権を有するのである。
第4の特徴は、その強い権限を有する学長を解任する事由に業績悪化が明記され、評価システムを媒介にして国が学長を強くコントロールする仕組が設定されていることである。国のコントロールは、文部科学大臣が任命する監事(『最終報告』では複数の監事の配置が示唆されている)を通じても行われる。
4.独法通則法が貫徹する国立大学法人
「概要」では、「独立行政法人通則法の規定は必要に応じ準用」と述べているが、例えば、この間の中期目標・中期計画に関する文科省からの指示をみれば明らかなように、通則法の基本骨格は完全に貫徹される。
5.「国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」に
よる現行法体系の根本的改変
第1に、国立大学法人法において、(1)国立大学法人の組織が規定され、かつ評議会の機能が教学に限定されること、(2)学部及び研究科並びに附属学校及び附置研究所の法的根拠が文部科学省令に格下げされることが明示されることに伴い、現行国立大学の組織、運営を規定している学校教育法、学校教育法施行規則、大学設置基準、国立学校設置法、国立学校設置法施行規則などの関係条文・条項が廃止ないし、大幅に改変されよう。特に、大学自治の根幹の一つである部局、ならびに部局教授会については法的根拠が廃止される可能性が高い。
第2に、国立大学法人教員がその身分を非公務員化されることにより、教育公務員特例法の適用対象外になる。任免・分限・懲戒・勤務評定、研修など教員に関する身分保障、学長や部局長の選考方法などの法的バックボーンが失われることとなる。また国立大学教員が対象外となるに伴い、同法は著しくその機能を低下させられ、私立大学への規範性も失われる危険がある。
第3に、『最終報告』が強調し、文科省が中期目標・中期計画策定作業に関連して各大学に強要している教員任期制導入に対応して、「大学教員等の任期に関する法律」の改悪が企図されよう。「大学教員等の任期に関する法律」は任期を設けることができる条件を3つに限定している(第4条)が、おそらくこの条件を緩和ないし廃止すると思われる。なお、同法は第4条2項で「任期を定めて教員を任用する場合には、当該任用される者の同意を得なければならない」としているが、法人化に際して導入された任期に対して同条項に基づいて不同意を表明した教員に対して雇用の継承が保証されない可能性があることを指摘しておく。
《資料》
平成14年12月25日
国立大学法人法案の概要(骨子素案)
I 総則
1 「国立大学法人」とは、国立大学を設置することを目的として、この法案の定めるところにより設置される法人を言う。
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○学校教育法第2条を次のように修正(下線部を追加)
学校は、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体及び学校法人のみが、これを設置することができる。
○学校教育法上、法人化後も「国立大学」。
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独立行政法人通則法に規定する独立行政法人ではなく、国立大学に相応しい「国立大学法人」(独立行政法人通則法の規定は必要に応じ準用)。
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2 国は、この法律の運用に当たっては、大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に配慮しなければならない。
3 国立大学法人(89法人)及び大学共同利用機関法人(4法人)の名称を定める。
4 政府からの出資、追加出資及び追加現物出資について定める。
5 国立大学法人及び大学共同利用機関法人を評価するための「国立大学法人評価委員会」を置く。
国立大学法人評価委員会が中期目標期間終了時の評価を行うに当たっては、独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う教育研究評価の結果を尊重しなければならない。
U 組織及び業務
(役員)
6 国立大学法人の役員として学長、理事及び監事を置く。
(役員会)
7 学長は、次の事項について決定する際には、役員会(学長及び理事で構成)の議を経なければならない。
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画2)文部科学大臣の認可・承認を受けなければならない事項
3)予算の編成・執行、決算
4)その他役員会が定める重要事項
(学長の任命)
8 学長の任命は国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う。
9 8の国立大学法人の申出は、
1)学長及び役員(経営協議会委員又は評議員である者に限る。)
2)経営協議会の学外委員で経営協議会から選出される者
3)評議会の代表者で構成される「学長選考会議」の選考に基づき行うものとする。
2)及び3)は同数とし、それぞれ学長選考会議の委員の総数の3分の1を超えるものでなければならない。
(理事及び監事)
10 理事は学長が、監事は文部科学大臣が任命する。
その際、現に当該国立大学法人の役員又は職員ではない者(学外者)が含まれるようにしなければならない。
(役員の任期)
11 学長の任期は、6年を超えない範囲内で、学長選考会議の議に基づき、各国立大学法人が定める。
理事の任期は、6年を超えない範囲内で、学長が定める(ただし、学長に任期を超えてはならない)。
監事の任期は、2年とする。
(役員の解任)
12 文部科学大臣は、心身の故障、職務上の義務違反、業績悪化等の場合には、学長選考会議の申出をまって、学長を解任することができる。
学長は、心身の故障、職務上の義務違反、業績悪化等の場合には、理事を解任することができる。
(経営協議会)
13 国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関として「経営協議会」を置く。
14 経営協議会は、
1)学長
2)学長が指名する役員及び職員
3)評議会の意見を聴いて学長が任命する学外有識者(学外委員)で構成され、3)の学外委員が2分の1を超えるものでなければならない。
15 経営協議会は、
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち経営に関する事項
2)会計規程、役員報酬基準、職員給与基準その他経営に関する重要な規則の制定・改廃
3)予算の編成・執行、決算
4)組織編制、学生定員
5)経営面での自己評価
6)その他国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する。
16 経営協議会の議長は学長を充て、議長は経営協議会を主宰する。
(評議会)
17 国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として「評議会」を置く。
18 評議会は、
1)学長
2)学長が指名する役員
3)学部長、研究科長、附置研究所長その他の重要な教育研究組織の長で評議会が定める者
4)その他評議会が定めるところにより学長が任命する職員
で構成される。
19 評議会は、
1)中期目標についての意見、中期計画及び年度計画のうち教学に関する事項
2)学則その他の教育研究に関する重要な規則の制定・改廃
3)教育研究組織
4)教員人事に関する事項
5)教育課程編成の方針
6)学生の厚生・補導
7)学生の入退学や学位授与等の方針
8)教育研究面での自己評価
9)その他国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する。
20 評議会の議長は学長を充て、議長は評議会を主宰する。
(学部、研究科等)
21 学部及び研究科並びに附属学校及び附置研究所は文部科学省令で規定する。
(国立大学法人の業務)
22 国立大学法人の業務を定めるとともに、国立大学の研究成果を活用する事業等を実施する者に対して出資できることを定める。
V 中期目標等
23 文部科学大臣は、6年を期間とする中期目標を定める。
中期目標は、
1)教育研究の質の向上に関する事項
2)業務運営の改善及び効率化に関する事項
3)財務内容の改善に関する事項
4)自己評価や情報発信に関する事項
5)その他の重要事項を定める。
文部科学大臣は、中期目標を定めるに当たっては、あらかじめ、国立大学法人の意見を聴き、当該意見に配慮しなければならない。
24 国立大学法人は、中期目標に基づき、中期計画を作成し、文部科学大臣の認可を受けなければならない。
W 財務及び会計
25 積立金の処分、長期借入金、財産処分収入の独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)への一部納付等について定める。
D その他
26 国立大学法人評価委員会は、平成15年10月1日に設置する。
国立大学法人は、平成16年4月1日に設置する。
27 国立大学法人移行の際の学長は、原則として現在の任期まで引き続き学長となる。
28 現在の国立大学の職員は国立大学法人が引き継ぐとともに、権利義務も継承する。
29 附属病院の整備や移転整備のための国立大学特別会計の長期借入金は、独立行政法人国立大学財務・経営センター(仮称)が引き継ぐとともに、関係する国立大学法人が分担して負担する。
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別添図表:「国立学校設置法に規定する国立学校の今後の組織形態について」(抜粋)
1.国立大学
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第3条、第3条の3、第3条の5
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 国立大学法人法案(仮称)第2条第1項に規定する「国立大学法人」
○ 国立大学法人北海道大学ほか88国立大学法人
○ 北海道大学ほか88国立大学
2.大学共同利用機関
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第9条の2
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 国立大学法人法案(仮称)第2条第2項に規定する「大学共同利用機関法人」
○ 大学共同利用機関法人人間文化研究機構ほか3大学共同利用機関法人
3.国立高等専門学校
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第7条の13
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 独立行政法人通則法及び独立行政法人国立高等専門学校機構法案(仮称)の定めるところにより設置される独立行政法人
4.メディア教育開発センター
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第9条の2
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 独立行政法人通則法及び独立行政法人メディア教育開発センター法案(仮称)の定めるところにより設置される独立行政法人
5.大学評価・学位授与機構
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第9条の4
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 独立行政法人通則法及び独立行政法人大学評価・学位授与機構法案(仮称)の定めるところにより設置される独立行政法人
6.国立学校財務センター
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第9条の5
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 独立行政法人通則法及び独立行政法人国立学校財務・経営センター法案(仮称)の定めるところにより設置される独立行政法人
7.国立久里浜養護学校
【国立学校設置法上の根拠規定】
国立学校設置法第9条
【平成16年4月1日以降の組織形態】
○ 国立大学法人筑波大学の設置する筑波大学に統合(附属養護学校)
以上5法案の施行に伴い「国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」により関係法律の改正等を行う。
《資料解説》
1.本文書の性格
(1)この「概要」は文科省と国大協トップ層(あるいはその委託を受けた少数のメンバー)の密室協議の場で使われている文書である。
(2)「国大協トップ層」の実態はなお把握されていないが、総会で選出された理事会、あるいは法人化特別委員会のような国大協の正規の機関でないことは確かである。
(3)このため作成主体も明記されず、日付のないバージョンも存在する。またバージョンによって配布範囲も異なっている。我々は、16日の声明で「少なくない大学の執行部に伝わっている」と判断したが、それは同日までの情報発信先に偏りがあったこと、またバージョンによって配布範囲が異なっていることが不明であったからである。なお、(02.12.25)版はごく狭い範囲にのみ配布されている。
(4)初期のバージョンでは『最終報告』どおり「運営協議会」という語が用いられていたが、途中から「経営協議会」に変わるなど、密室協議の過程で『最終報告』からの離脱がより顕著になっているようである。
2.文科省・国大協トップ層が考えている法案提出までのスケジュール
1月31日:国大協法人化特別委員会(13時30分〜東京ガーデンパレス)で法案「概要」を検討、各大学に「概要」を送付。
2月10日:全国学長会議(学長懇談会?)
2月20日:国大協法人化特別委員会で「概要」大筋了承。以後、国大協定例理事会で了承(なお、臨時国大協総会については昨年11月の総会で一部から提案があったが、長尾会長が事実上拒否)。
2月末:法案閣議決定、通常国会に上程。
*:文科省は教育基本法の改悪、あるいは別法の制定を企図している。これに伴い、国立大学法人法案の成立を、教育基本法に先立って、つまり通常国会前半までに強行する可能性がある。