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独行法反対首都圏ネットワーク

☆連載「進む大学改革」
 [he-forum 4953] 毎日新聞大阪夕刊1/8-1/10.
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『毎日新聞』大阪夕刊

連載「進む大学改革」

2003年1月8日付  進む大学改革/上 社会人院生奪い合い
2003年1月9日付  進む大学改革/中 冬の時代 先見性で成否
2003年1月10日付 進む大学改革/下 分野を超えて若手が結集 「扉は開かれた」か


進む大学改革/上 社会人院生奪い合い

 大阪・キタに集まるサテライト教室

 「無事に4月1日を迎え、祝杯をあげられるよう頑張りましょう」。大阪市
立大(大阪市住吉区)の事務室で8日、創造都市研究科の開設準備に追われる
吉田信幸・新大学院担当課長が、他の事務員に呼び掛けた。原則として社会人
経験3年以上の人を対象に今年4月、大学院の「サテライト(衛星)教室」を
誕生させる。場所はJR大阪駅南側の駅前第2ビル。市内中心部に続々と登場
する「駅前キャンパス」の一つだ。14日から、募集要項を配る。宝塚造形芸
術大もこの春、阪急梅田駅北側のビルに新設し、既設を合わせると計8大学が
教室をもつことになる。 【根本毅】

 創造都市研究科は都市政策、都市情報学など3専攻に8研究分野を置く。ベ
ンチャービジネスの発足や非営利組織の指導者らを目指す学生を想定し、定員
は120人。平日午後6時半からと土曜日に開講する。

 各分野の第一人者を特別講師に招き、学生と討論する「ワークショップ」中
心のカリキュラムが目玉。実務経験豊富な企業出身者ら14人も教授、助教授、
講師に迎えた。松下電器産業でノートパソコン開発の社内ベンチャー企業をつ
くった倉林龍一教授、ソニーのハイテクベンチャー事業室長を務めた前田昇・
高知工科大大学院教授ら、多彩な顔ぶれが並ぶ。

 研究科長になる塩沢由典教授は「勤めているだけで地位の上がる時代は終わっ
た。可能性を広げるため、自分に投資する人は必ず増える」と自信たっぷりに
語る。繁華街に近い立地条件を踏まえ「講義後、飲み屋に移動し、ジョッキ片
手に議論を深める機会も多くなるだろう」と予測した。

   ◇

 少子化で18歳人口が減るなか、大学が社会人学生を奪い合う。厳しい経済
情勢を反映し「知識を深め能力を高めたい」と願う潜在的な需要を掘り起こし
にかかる。

 大阪外国語大(大阪府箕面市)は、中学校や高校の英語教員が、仕事をしな
がら語学力を向上できる大学院設置を検討する。JR大阪駅前などで場所を探
し、近く具体化させる予定。細谷昌志副学長は「大阪府内の英語教員は本学出
身者が最も多く、いずれ小学校でも英語教育が始まる。生き残りを懸けた有効
なカードになる」と前向きだ。

 立命館大(京都市)も昨年、淀屋橋駅近くに進出した。今春、新たに政策科
学研究科などを増やす。時期は未定ながら、神戸大大学院経営学研究科も同様
の動きをみせる。

   ◇

 新しい学部を作り、独自色を強調する私立大。再編・統合や法人化を控える
国公立大。改革の大きな波にのまれる大学の今を探る。

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 ◇学費は大学並み

 大阪市立大・創造都市研究科の場合、研究計画書と社会人としての実績書を
提出し、選考は書類審査と面接だけ。

 しかし、市内在住で22万2000円、市外在住で34万2000円の入学
料のほか、年間約50万円の授業料が必要。

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 【今春、新・増設の大学院・サテライト教室(大阪市内)】
       最寄り駅 開設  特色            総定員
大阪市立   大阪   03年 創造都市研究科を新設    120人
宝塚造形芸術 梅田   03年 デザインなど造形研究科新設  40人
立命館    淀屋橋  02年 政策科学など3研究科増設  105人
関西学院   梅田   93年 教員向け教育学専攻を増設  約75人


進む大学改革/中 冬の時代 先見性で成否

 生き残りへユニーク学科

 「こども」「ゲーム」「スポーツ」――。時代のキーワードを意識した学部・
学科を新設し、「日本初」を掲げて今年の入試に臨む私立大が目に付く。

 4月に開学する東大阪大(東大阪市)。「こども学部こども学科」(定員8
0人)だけの出発だ。今月25日に面接試験をする指定校推薦の願書受け付け
が、年明けに始まった。9日午前も、事務員は各地から届く書類の整理に追わ
れていた。

 保育でも幼児教育でもない。意外性のある「こども」を学部名にした。栄養
学から遊び、住まい、衣服まで、さまざまな分野から子どもを総合的に研究す
る全国初の学科だ。

 前身の東大阪短期大は65年の誕生。家政、幼児教育の2学科からなり、
「4年制より就職に有利」と人気は安定していた。しかし、「大学冬の時代」
は3年ほど前から現実のものとなる。幼児教育学科の志願者数は、定員150
人に対し97年459人▽98年323人▽99年197人と激減していた。

 危機感を覚えた学校側は00年春に「大学将来構想検討委員会」を設置し、
男女共学に踏み切った。学生が何を求めているのか、統計や高校訪問で探った。
「4年制大学から届く指定校推薦だけで、生徒希望数より多い。推薦をもらっ
ても、短大に送り込む確約はできない」との高校の反応に「4年制志向」の強
さを思い知らされた。

 「2年で資格を取れるのに、4年制にする必要はあるのか」と学内で疑問の
声も上がった。だが、幼児教育科の吉岡眞知子助教授は「これから要請される
のは、子どもをめぐるすべての分野を学んだ子育てのエキスパート。免許取得
を主眼には置けない」と話す。

 開学にあわせて医師や、住居学、栄養学などを専門とする教員を招いた。地
域社会論に中小企業の街・東大阪市で活躍する工場主、ボランティア活動演習
に元全日本女子バレーボール選手を教員に充てるなど、特色も打ち出す。

 新設のデジタルゲーム学科(総定員110人)が注目を浴びる大阪電気通信
大(大阪府四条畷市)。「日本初、大学でゲームを学ぶ。遊びじゃなくて、ホ
ンキです」とうたう。

 昨年12月の公募推薦入試で、定員39人に志願者が400人を超えた。
「ここまで反響があるとは想定外」(入試課)と手応えをつかむ。1月31日、
2月1日の前期、3月7日の後期の一般入試の問い合わせも頻繁だという。

 新しくできるスポーツ学部のみの「びわこ成蹊スポーツ大」(滋賀県志賀町)
も、定員180人のところ資料請求だけで2000件を超えている。

   ◇

 生き残りをかけた取り組みに、勝算はあるのだろうか。

 入試情報誌などを手がける「進研アド」の遠山智一・大学改革支援室長は
「大学の設置認可の規制緩和が進み、社会のニーズにも後押しされるかたちで、
世間の関心を集めるような名前を冠にした大学がたくさん出てきた。ただ、新
しい学部・学科を『つくればなんとかなる』時代は終わっている」と説明する。
さらに「社会や受験生が何を求めているのか敏感に反応し、常に先を見通して
いく先見性がある大学だけが生き残っていく」と分析している。 【藤後野里
子】


進む大学改革/下 分野を超えて若手が結集 「扉は開かれた」か


 大阪府豊中市の大阪大大学院基礎工学研究科の一室。紀ノ岡正博講師(37)
と学生3人は10日、細胞組織を映し出したコンピューター画面に見入ってい
た。最先端の再生医療を支える人工の皮膚や軟骨の安定供給を目指している。
学生の一人は「前日、無菌状態を作り出す新装置が入ったばかり。実験がやり
やすくなりました」と口元をほころばせた。

 ありふれた研究室の光景にみえる。だが、取り巻く環境は大きく変わった。
紀ノ岡講師を代表とする組織培養工学のチームは昨年11月、未知の学問領域
に挑むプロジェクト形式の「未来研究ラボ」に指定されたからだ。応募23件
から、人材育成の国際貢献プロジェクトなど4件とともに選ばれた。教授を頂
点としたピラミッド型の旧来の研究室だけでは新しい発想は生まれない。その
観点からラボは導入された。

 「扉は開かれた」。紀ノ岡講師の表情は明るい。メンバーは助教授を含め若
手ばかり8人。うち5人は工学、薬学、医学など他分野や、国の研究機関から
参加している。共同研究を新たなシンボルとし、若い講師を代表者にしたのも
画期的だ。「分野を超えて気兼ねなく情報交換できる」と紀ノ岡講師は利点を
説く。

 基礎工学研究科はこの春、大胆な組織改革をし、専攻ごとの壁を事実上取り
払う。国立大唯一の「基礎工学部」は、理系6、文系4ある大阪大の学部の中
で、理学部と工学部にはさまれ、リストラされかねない存在だった。「科学と
技術の懸け橋に」との理念からも踏み出し、「文理融合」領域にも挑む。新し
い学問分野を切り開ける仕組みに生き残りをかける。研究科や学部の枠組みさ
え壊しかねない実験とも言える。

 田中耕一さんのノーベル化学賞受賞も追い風となった。未来研究ラボを推進
した伊藤正教授は「独創的な研究ができる人材を育てる21世紀型大学の先駆
けにしたい」と強調する。

 こうした背景には、04年度を見込む国立大学の法人化などの動きがからん
でいる。横並びで国に守られた国立大が、国から独立する予定だ。根拠となる
法律はまだできていない。国の予算による運営に変わりはないものの、競争原
理が導入され、6年ごとに受ける外部評価を基に予算配分される。学生を集め
られない大学は「倒産」さえありうる。

 再編・統合では、99あった国立大のうち山梨大と山梨医大など2組が昨年
10月に統合し、さらに今秋、神戸大と神戸商船大など10組が合併する。

 県境を越えた大学同士の統廃合も検討され、近畿では滋賀大、滋賀医大、京
都教育大、京都工芸繊維大が統合に向け協議している。だが、4大学がどのよ
うな形で一つになるのか、主導権争いもあり、足並みはそろわない。学長の一
人は「大学側の要請ではなく、国の行政改革の影響を受けて始まった統合論議
だけに、まとめるのは難しい」と漏らす。

 国立大の進路は、まだ明確に見えていない。 【中尾卓司】