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神戸新聞 2002年12月7日付 共同研究−大学と自衛隊(下) 開学100年で初/確かに残った「実績」/がっちり握手、その先は― 現役自衛官が神戸大学法学部の授業に参加するのは、開学百年の同大学の歴史上、 初めてのことだった。 「自分たちとは違うというバイアス(偏見)を持っていたが、誤解だった。学外の 人との交流は有益だ」「多国間の軍事的なパワーバランスを深く考えているのが分 かった」。学生たちは自衛官らに、そんな印象を抱いた。 安全保障をテーマに行われた今回の共同研究。企画した同大法学部・五百籏頭(い おきべ)ゼミの簑原俊洋助教授も「自衛隊のPRにつながるという側面はある。だ が、学生はそれ以上のものを得ている」とする。 一方で、ある自衛官は「プロとしてアドバイスできればと参加したが、今回はそう した場面はなかった」と振り返る。「制服を着ているので、あまり口を出さなかっ た」と話す隊員もいた。 現場の自衛官のそうした思いとはおそらく別の次元で、自衛隊の側にも共同研究と いう「実績」は確かに残った。 ◇ ◇ ◇ 大学と自衛隊の共同研究の動きは近年、全国各地にじわりと根を広げている。 神戸学院大学では今年五、六月に計四回の「安全保障講座」を開講。大阪大学大学 院は九月、陸上自衛隊伊丹駐屯地で周辺有事の模擬演習に取り組んだ。継続して取材 にあたる米国・ニューズウィーク誌の東京支局記者は「米国の大学ではこうした交流 は当たり前。ニュースになっていること自体がニュース」とみる。 異議を唱える声も、学内外にある。神戸市内の市民グループや弁護士らが相次いで 懸念を伝え、同大教職員組合も即時中止を求める「声明」を出した。 「シビリアン・コントロール(軍部の独走や政治への介入を抑止するため、軍隊の 指揮権が文民によって統制されること)を前提に、安全保障に関する政策研究をす る」。同組合の幹部は学内の告知を通し、今回の内容を知ったという。 「だが、自衛官は文民ではない。シビリアン・コントロールを学ぶなら、防衛庁の 職員を呼ぶ方がふさわしい」。軍学協同へ、一歩を踏み出したと受け止める幹部は続 ける。「教官らは『平和目的』と強調するが、それなら聞きたい。数ある選択肢の中 で、なぜあえて自衛隊との共同研究を選ぶのかと」 ◇ ◇ ◇ 創設から四十八年。自衛隊は、戦力を保持しないと定めた憲法とともに歩みを刻ん できた。 今回、自衛隊とともに行われた共同研究には「INSIGHT」というタイトルが 冠された。本質を見抜く「洞察」を意味する。 十一月二十日夜。終了を告げる声に、簑原助教授と自衛隊の片山和美・兵庫地方連 絡部長はがっちりと握手を交わした。 「学生のみなさんの『学問の自由を守れ』という声に励まされ、やり抜くことがで きた。現行法の限界を知り、自衛隊の顔も見えてきたのではないか」。米国育ちとい う簑原助教授はそう結んだ。(新開真理) |