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☆群馬大学教育学部教官声明
 . [he-forum 4800] 群馬大学教育学部教官声明
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本日,群馬大教育学部教官69名が下記の声明を公式に発表しました。(豊泉@群大教育)
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声明
「私たちは、群馬に教育学部と大学院教育学研究科のキャンパスを残すことを求めます」

                2002年12月3日   群馬大学教育学部教官69名
                            (代表:中野 尚彦)
はじめに
 今年1月、群馬大学長と埼玉大学長は、両大学の統合に向けて検討を開始することを発表
し、懇談会を発足させました。両大学長は、大学同士の統合にあたって両大学の教育学部を
統合し、統合後の新教育学部は大久保キャンパス(埼玉大学所在地)に集約しようとしてい
ます。
 私たち群馬大学教育学部教官69名は、群馬県からこの教育学部をなくしてよいと考えたこ
とはありません。両大学の統合に際して教育学部を統合するとしても、群馬県内に教員養成
と現職教員再教育(すなわち教育学部と大学院教育学研究科)のキャンパスを残すことは必
要なことだと考えています。私たちは、私たちの意向が理解されることを求めて、ここに見
解を表明します。

1 教育学部キャンパスに関する大学の考えと教育学部の考え
 大学統合後の教育学部のキャンパスについては両学長の方針が揺れ動いてきました1)。
現在では、統合後の新教育学部は大久保キャンパスに置く、というのが両大学長の方針です。
この方針通りになれば、両大学の9学部の中で群馬大学教育学部だけが、統合によって事実
上消滅することになってしまいます2)。
 9月30日に開催された群馬大学の将来計画委員会(構成員は学長・副学長と部局長)は、
教育学部に対し、キャンパス問題を学長懇談会の裁定に委ねるよう求めてきました。
 これに対して教育学部教授会は10月2日、(1)教育学部教授会はこれまで群馬県における教
員養成と現職教員再教育の機能を存続させることを求め続けたこと、(2)新教育学部を大久
保キャンパスに集約し新学部を荒牧キャンパスに設けることには合理的な理由がないこと、
(3)キャンパス問題について地元関係者の間に不安が高まっていること、を指摘し、学長懇
談会が教育学部キャンパス問題に裁定を下すのであれば、以上の点が尊重されなければなら
ないとの決議を行いました。
 この決議について、教育学部が大久保キャンパスへの移転を容認したかのような見解があ
るようですが、それは私たちの考えるところとは異なります。繰り返しになりますが、決議
は群馬県における教員養成と現職教員再教育の機能の存続を求めているのであり、新教育学
部の教育拠点として荒牧キャンパスを放棄することを認めてはいません。群馬大学長は、教
育学部のこの決議の趣旨を正確かつ十分に理解し、尊重すべきです。

2 新教育学部に二つの教育拠点を残す意義およびそのための試案
 統合後の新教育学部を一か所にまとめなければならない理由は明らかではありません。群
馬大学長は、文部科学省が二つの教育拠点を残すことを認めない旨の説明を繰り返しますが、
なぜ認められないかについての説明責任は果たされないままです。
 また、これまでに説明された教育学部を大久保キャンパスに集約すべき理由は、いずれも
根拠に乏しいものと言わざるを得ません3)。統合後、さいたま市と並ぶ教育拠点を群馬に
残せないという理由は見あたらないのです。私たちは慎重に検討を重ねた結果、群馬に教育
拠点を残す以外にないという結論に達しました4)。
 十分な根拠も明示できないままに大学が地域の要望に背を向けるのは、はなはだ不適切で
す。また、両教育学部の顕著な特性の違い5)を考えれば、統合による教員養成の充実とい
う『今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会』答申の趣旨からみても、
二つの拠点を残す選択は、より積極的な意義をもつことになります。
 両教育学部の特性と伝統は、容易に相互に代替できるものではありません。群馬大学長は
統合による大学の「パワーアップ」を強調しますが、統合によって両地域の教員養成の充実
を図るとすれば、それは双方の特性と伝統が生かされ、相互に補完し合うことで、はじめて
可能となるものです。二つの教育拠点が残されることは必要不可欠であり、それぞれの拠点
で特色ある教員養成を行なうことも可能です6)。

3 地域に根ざした教員養成と学長の不明瞭な新学部構想
 教育は、現代の文化を次世代に伝える営みにほかなりません。学校は、子どもとその保護
者が暮らす地域社会に根ざして、その文化を伝えていくことによってこそ、役割を果たすこ
とができるものといえます。このことからすれば、学校の教員は、その地域についての確か
な識見を有している必要があります。したがって、群馬で学んだ学生が群馬県の教員になる
ことには積極的な意味があるのです。
 群馬大学長は、荒牧キャンパスから教育学部がなくなっても、そのかわりに新学部を設置
することで、大学としての地域への責任を果たせるとの考えを表明しています。しかしなが
ら、この構想については、新学部の像があまりにも不明瞭であるという根本的な問題があり
ます7)。
 この不明瞭な新学部構想は新学部の存在意義からではなく、統合実現のためのつじつま合
わせから出発しているのであり、教育学部に代わる役割はとうてい期待できません8)。大
学院についても同様です9)。スタッフや資料の乏しいサテライトでは大学院の名に値しな
いことは、いうまでもありません。

おわりに
 地元の意向と教育学部の考えを無視し、地域社会において果たすべき役割を軽視した教育
学部大久保キャンパス移転の方針が統合を遅らせているのです10)。今こそ、両大学長が、
地域社会に対する大学の役割と責任を真剣に再考すべきときです。両大学長は、地域関係者
と十分に協議し、19万798人( '02.12.2現在)の署名に込められた地域の人々の願いを真摯
に受け止め、荒牧キャンパスに教育学部と大学院教育学研究科の拠点を残す道を選択すべき
です。
 私たちは地域の人々の期待に応えるべく、より拓かれた大学を目指し、今後の教育・研究
に力を尽くす決意を新たにしています。

 
賛同人(50音順)
 新井 哲夫    石田  肇    伊藤  隆   岩永 健司     上里 京子
 浦崎 源次   大竹公一郎   海鋒 正毅   柏木 徳明     勝部  太
 金澤 貴之   小泉 三郎    小泉一太郎    巨智部直久     近藤 典彦
 斎藤  周     澤田 雅弘     篠原 道男     菅原 英直      高野  庸
 高橋久仁子    田中 麻里     富澤 秀文     豊泉 周治      長津美代子
 中野 尚彦     中村 敦雄     西薗 大実     布川   護      平瀬 志朗
  福島  博     福地 豊樹     古田 雅憲     古屋  健      堀内 雅子
  松永 友有     松原 隆介     松本 富子     村崎 武明      柳川 益美
  山田 博文     山西 哲郎     吉國 忠亜     渡邊 彩子      他25名

補注
1)群馬、埼玉の学長懇談会の発足以前から、独立法人化の動きと教員採用数の減少を背景
に、教育学部は存続の危機と縮小の示唆を受け続けてきました。教員養成学部のいわゆる
5000人削減に際して学部の再編を終えたばかりでしたが、大学院授業の現職教員向け夜間開
講など幾つかの改革に着手し、なお引き続き検討が続けられていました。
 しかし、『今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会』(以下『在り方
懇』)の発足とその答申により、すべての学部内改革の検討を中断し、国立大学教育学部間
の統合問題へと学部の論議を移さざるを得なくなりました。群馬における教育学部の存続を
主張する教育学部の考えとそれではすまないという大学側の意向との調整をみないまま事態
はまた急転しました。
 群馬、埼玉両大学の統合についての学長懇談会が発足し、群馬大学教育学部のすべての論
議が統合新大学における教育学部のあり方に向けられることになりました。
 統合後の教育学部キャンパス問題について群馬大学学長の方針は2キャンパスから1キャ
ンパスへと変転しましたが、その理由は十分に説明されたとは言えません。教養教育のキャ
ンパス問題の変転に連動しているという漠然たる理解があるだけで学長懇談会の詳細は知り
得ません。
 教育学部を1キャンパスとするという学長懇談会の強い方針のもとで、群馬、埼玉両教育
学部はキャンパス問題について解決をみいだせず、キャンパス問題を学長懇談会の裁定に委
ねるよう求められることになりました。

2)両大学の統合は、国立大学を統合するという文部科学省の方針に添ったものです。
 4学部からなる群馬大学と5学部からなる埼玉大学では、教育学部と工学部が重なります。
工学部については、両工学部のそれぞれに特色をもたせることによって、○○工学部と△△
工学部という別個の学部(名称未定)として存続させるというのが両大学長の方針です。
 これに対して、教育学部の場合は、教員免許取得に必要な授業を開く必要があるので、カ
リキュラムも教員の専門分野も類似したものにならざるをえません。そこで、両教育学部を
そのまま存続させることはできないのでひとつに統合する、と両大学長は考えているのです。

3)これまでに説明された教育学部を大久保キャンパスに移転すべき理由を整理すると、(1)
群馬大教育学部の定員は『在り方懇』の答申にある適正規模に達せず、このままでは強制的
に統合を余儀なくされる、(2)埼玉大教育学部には博士課程がある、(3)今と同じ教育学部を
残すことはできない、の3点になります。
 しかしながら、いずれも移転理由としては根拠に乏しいものといわざるをえません。(1)
『在り方懇』は適正規模を明示したことはなく、「大学や地域の実情も勘案しながら弾力的
に」というのが答申の主張です。現に統合協議が進行中とされる鳥取大と島根大の場合、統
合しても定員は170人にとどまり、群馬大の現状(220人)を下回るものでしかありません。
(2)埼玉大の博士課程は連合大学院であり、現状でもキャンパスは4か所に分散しています。
(3)統合後は新教育学部となり、当然ながら同じ教育学部が存続するわけではありませんが、
それは教育学部を一か所に集約することを直ちに意味するものではありません。
 いずれの点から見ても、統合後、さいたま市と並ぶ教育拠点をどうしても群馬に残
せないという理由は見あたりません。

4)群馬に教育拠点を残すべきとする理由は、(1)地域に根ざした教員養成の必要性、(2)現
職教員の研修・研究機関の必要性、(3)県内高校生の重要な進学先としての役割などであり、
地元の教育界・県民にとって当然すぎるほどの願いです。

5)両教育学部は、地域的に隣接するとはいえ、その置かれている地域事情は相当に異なっ
ています。埼玉大学教育学部は首都圏に立地する有数の大規模教育学部であり、入学者に占
める県内出身者は20数%にとどまり、他の入学者は関西や東北など全国に及び、教員就職者
も県内外に半々に分かれます(県占有率は小・中で20%台)。これに対し、群馬大学教育学
部は典型的な地域密着型の教育学部であり、入学者に占める県内出身者は70%にのぼります。
教員就職者の行き先はその大部分が群馬県内であり、県占有率は小・中で50%を超えます。
一方では都市圏を中心とした激しい社会変化に一般に対応できる教員養成が、他方では地域
の現実に深く結びついた教員養成が求められ、それはまた、両県においてこれまで蓄積され
てきた教員養成の伝統でもあります。

6)考え得る具体的な案を示しますと、一方の拠点には、従来の教科を核とした専攻を置き、
現代の社会、学問や文化の変化、そして子どもを取り巻く環境の変化を踏まえて、教科を中
心とした学校教育の充実と刷新に寄与できる、力量のある教員の養成を図ることとします。
そして他方の拠点には、地域と学校現場の課題および「生きる力」など新しい教育目標に見
合った、従来の教科とは異なる新たな専攻を設定し、地域の特色を生かした教員養成を図る
こととします。こうすれば、二つの拠点が相互に補完しあい、新教育学部にふさわしい教員
養成の格段の充実を図ることが可能となるのです。

7)一般に、大学(特に国立大学)が新しい学部を設置しようという場合、その学部の必要
性を十分に説明するのでなければ、文部科学省の同意は得られません。その際、社会がその
ような学部での学生教育を必要としているという意味で、学生の卒業後の進路も重要な問題
です。ところが、群馬大学長の発言からは、新学部の中身についての検討がきちんとなされ
ている様子はうかがえませんし、群馬大学の評議会や将来計画委員会においても新学部につ
いてこれといった議論はなされていません。群馬大学長は、新学部設置によって大学統合が
実現するのであれば文部科学省は認めてくれる、という想定をしているのではないでしょう
か。

8)学長は小学校教員免許を出せればよいと考えているようですが、群馬地域において必要
な教員養成の機能を果たすためには、中学校の全教科の教員免許とそれに対応する高等学校
の教科の教員免許、そして養護学校教員免許を取得できる学部であることが必要です。中学
校教員についても地域との結びつきは重要であること、群馬県の公立学校において小学校・
中学校・養護学校間の人事異動が一般的であること、群馬大学教育学部がこれまで小中学校
のみならず高等学校にも多くの人材を送り出している実績があること等が、その理由として
挙げられます。
 また、人間についての深い洞察力をもった教養人としての教員を育成するという観点から
は、教育学・心理学を通して人間について十分に学び、なおかつ人文科学・社会科学・自然
科学をバランスよく学びながら、特定の分野を深く学んで学問の世界を知ることを可能とす
るカリキュラムが求められます(教育学部のカリキュラムは、まさにそのようにつくられて
います)。中学・高校で特定の教科を担当する教員も幅広い科学的認識をもつべきですし、
小学校の教員も何らかの課題について徹底的に学んだ経験をもち、そのことを通じて学問の
意義、学習の楽しさ、学ぶ方法を知っているべきだからです。

9)大学院については、現職教員の再教育の場としての意義からすれば、群馬県内のキャン
パスで本格的な教育の場が確保されなければなりません。現職教員については、その年齢・
家族関係を考えるならば、一般の学生以上に、入学に際して住所を変更することには困難が
伴うものと思われます。したがって、自宅から通学できる範囲にキャンパスが存在すること
が望ましいのです。
 また、現職教員の再教育を行なう大学院であるためには、教員養成を中心的な課題とする
学部と結びついていることが有効です。そうでなければ、現職教員にとって十分な研究環境
は保障されません。

10)教育学部キャンパス問題が解決しないのは教育学部の責任ではありません。群馬大学と
埼玉大学を統合し一つの大学とするためには、教養教育の場所と教育学部の場所をどうする
かが大きな問題であることは、はじめからわかっていたはずです。それにも拘らず、両大学
長は教養教育については、大久保と荒牧の2キャンパスで行うとしながら、教員養成、現職
教員再教育については群馬大学教育学部を解体する方向でいます。統合を遅らせてまで、群
馬大学教育学部をどうしても解体しようとする理由が私たちには理解できません。