独行法情報速報 |
No.22 |
特集:右往左往の中期目標・中期計画策定作業 |
2002.12.18 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/
文科省は、11月5日と12月10日、中期目標・中期計画に関する文書を例によって「未定稿」のスタンプをおして、国大協に提示した。千葉大学執行部と目標評価WGは前者の文書に対応してVer.3をあたふたと作成し、最終報告(Ver.4)をまとめるべく、それへの意見を部局・センターに求めている最中に、後者が到着したのである。この1ヶ月あまりの経緯から、中期目標・中期計画策定問題の本質を改めて分析し、それに対峙すべき千葉大学のスタンスを明確化する必要がある。
画一化と統制の意図あらわな文科省『11.5検討素案』
【開示1】文科省は、3月26日『最終報告』に添付された『中期目標・中期計画記載事項例』(以下、『3.26記載事項例』)の改訂版として、11月5日開催の国大協「法人化特別委員会」に『中期目標・中期計画の項目・記載事項について(検討素案・未定稿)』(以下、『11.5検討素案』)を資料として提出した(http://www.bur.hiroshima-u.ac.jp/~houjin/agency/specialcommittees/
specomsiryou.htm参照)。
【分析1】『3.26記載事項例』が実務的かつ数値目標の掲げやすい項目の例示に重点を置いていたのに対して、『11.5検討素案』においては、◎印のついた多数の「必要的記載事項」(以下、「必要事項」)と、さらにそれを上回る○印の「各大学の状況等に応じて記載する事項」(「選択事項」)によって記載内容が詳細に規定・推奨され、各学問分野・領域の特性、各大学の固有性を無視した画一的な規準が強要されている。そこには、全体主義的な国家総動員体制を髣髴させるものさえあり、懸念がいっそう大きくなる。内容上では、『3.26記載事項例』には明示されていなかった事項が、「必要事項」「選択事項」として新たに提示されており、文科省の意図を垣間見ることができる。それらを中心に『11.5検討素案』の主要な問題点を示す。
1.「必要事項」として「望ましい卒業後の進路、国家試験の受験・合格率等に関する具体的目標」(「計画」I.1(1))が新たに提示されている。望ましい進路を策定すること、必然的にその逆の望ましくない進路を示唆することは、労働市場の状況にも影響を受けつつも学生本人の意思によるべき進路について統制を行ない、状況によっては動員体制を築くことにつながりかねない。また、合格率を目標に掲げることが、教育機関としての大学として相応しいとは思えない。
2.アドミッション・ポリシーに関する項目が多々提示されている(「目標」II.1.(2)、「計画」I.1.(2))。このポリシーへの受験生の対応は大学ではコントロールできない。そのような事柄に対して目標・計画の達成度を評価するのは合理的でない。
3.「必要事項」として「教員組織の具体的編成方策」が示され、流動性確保が求められている(「計画」I.1(3))。同じ内容が「目標」における「選択事項」としても掲げられている(「目標」III.3)。しかし、想定期間の長短にもよるが、流動性の確保が分野、領域にかかわらず一般的に求められているかどうかは議論のあるところである。流動性確保が必要な場合でも、それは大学システム全体で実現できるものであって、個別大学の中期計画によっては策定し得ない。
4.「選択事項」として「企業等による大学教育に対する評価の実施方策」が新たに挿入されている(「計画」I.1(3))。企業(等)が主体となる評価を大学が自ら組織し、その結果を受け入れることは、教育の中立性を侵犯する恐れがある。
5.『3.26記載事項例』で「社会貢献」となっていた内容が「必要事項」「選択事項」とも「社会との連携」(社会とは、産業界、地域社会、国際を指す)としてくくられている。この意図については更に分析する必要があるが、「連携」への変更は、「貢献」に比べてみても、他律的な大学の在り方への志向を意味しているように見受けられる。
6.研究に関しても、重大な問題がいくつもある。
(1)「研究水準」や「取組むべき研究課題」が「必要事項」として新たに持ち込まれている(「目標」II.2、「計画」I.2)。「研究水準」のような抽象的ことがらを目標の項目とした場合、その実現のための計画の具体性は確保できず、従って評価が恣意的にならざるを得ない。もし、「研究水準」として、“国内最高”とか“国際的”などというように区分した記述を想定しているのだとしたら、噴飯ものである。また、「取組むべき研究課題」を目標・計画とともに書かせ、これを認可事項とすることは、研究の自由を明白に侵犯することにはならないか。
(2)「社会的効果・成果、成果の社会への還元等」が目標の「必要事項」として掲げられ、また対応する計画が「選択項目」として提示されている(「目標」II.2(1)、「計画」I.1(1))。しかし、研究というものの社会的効果・成果や社会への還元は中期目標の6年間で達成できるとは限らない。これらを中期目標・計画にかかげ、その実現性を評価するシステムをつくるならば、研究活動の発展は大きく阻害される危険があるのではないか。
(3)「計画」には「選択項目」とはいえ、国際的な学会組織の役員職や、国際的な学術賞、国際的なサイテーションなどを整理・公表することが提示されている(「計画」I.1(1))。このような事柄が、研究の進捗状況を示す一般指標としてすべての領域・分野に適用されるものとはいえない。そのような事項を「計画」に組み込むのは適切ではない。
7.「運営体制の改善に関する目標」のトップに「選択事項」として「学内の資源配分体制等の基本方針」が掲げられている(「目標」III.1)。これは大学予算削減対応への準備作業であろう。
8.「財務内容の改善」では、「固定的経費の抑制」と「資産の管理運用」の項目が新たに加えられた(「目標」IV,2,3。なお、関連して「計画」VI.1)。「固定的経費」は『3.26記載事項例』における「管理的経費」に代わるものとして採用されている。「固定的経費」が何を指すか不明瞭であるが、最低限の運用経費を意味するのであれば、そもそも抑制対象とすること自身が無理なことである。「資産の管理運用」では「選択事項」として「経営的視点」が強調されているが、大学が保有する資産はそもそも国民が所有してきた公共的なものであり、その管理運用にあたっては大学の目的達成と大学構成員の福利厚生の視点こそ強調されねばならない。
9.「施設設備の整備等」では、新たに、「流動的・弾力的利用のできる教育研究スペース」「組織の流動化に対応したスペース」の確保が「選択事項」として提示されている(「計画」VI.1)。ここには、(1)新規建物を部局管理から大学本部管理に移動する、(2)教員研究室の面積・ファシリティを制限し、使用料を上昇させて、共通スペースを拡大する、という最近の文科省政策を一挙に推し進めようという狙いがある。現在でも狭隘で貧弱な施設のなかから強引に共通スペースを作り出すならば、研究を継続できない領域や分野が生じることは必至であろう。
中期目標・中期計画、財務相と事前協議:通則法貫徹の文科省『12.10項目案』
【開示2】文科省は、12月10日開催の国大協法人化特別委員会に『国立大学法人(仮称)の中期目標・中期計画の項目等について(案)』(以下、『12.10項目案』)を資料として提出した(http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html参照)。余りに教育研究の内容に介入した『11.5検討素案』への批判を考慮してか、問題となった「必要事項」「選択項目」を削除、改変し、『12.10項目案』においては、全学的視点を中心とした大枠に整理されている。その代わりに、「学部等に固有な具体的事項」を「参考資料」として提出するよう指示されているのである。また、さらに、中期目標・中期計画認可前に財務大臣との協議等、重大な事柄が末尾の「備考(本資料の取扱い等について)」(以下、『12.10備考』)に書き込まれている。
2.『12.10備考』には、今後のスケジュールとして、「平成16年3~4月 各大学の中期目標(案)・中期計画(案)について文部科学大臣から財務大臣に協議」との記載がある。通則法67条と同内容を文科省が提示したことは、通則法には規定されないはずの国立大学法人法に通則法の内容が貫徹されることを意味する。実に、中期目標・中期計画が文科省を越えて財務省にも従属するのである。
3.『12.10備考』では、「運営費交付金等の算定に評価結果を反映させる際の規準等は、今後、同委員会(国立大学評価委員会(仮称):引用者注)における審議を経て文科省で検討」、「各大学の平成16年度の年度計画については、別途、作成の方法やスケジュール等を連絡」とあり、本質的準備が全く進んでいないにもかかわらず、法制化のみ強行する方針を示している。
変動する文科省の項目立てにおもねり、右往左往する目標・評価WG
【開示3】目標・評価WGの11月29日付「依頼文書」
「本学の中期目標・中期計画(案)については、本WGにおいて…調査検討会議の最終報告(14年3月26日)に参考資料として添付されている記載事項例に沿った項目立てで14年4月より検討を開始…8月7日付けで各部局・センターに目標・計画の記載を依頼し、回答をいただきましたが、それを集大成したものが…Xer.1。…11月19日開催の大学法人化対応委員会に…検討の中間報告である…Xer.2を提出。…11月5日…の国大協において「別紙2 中期目標・中期計画の項目・記載事項について(検討素案・未定稿)」が配布…項目立てや記載事項が…変更されており…Xer.2の大幅な修正の必要が生じました。…別紙2の項目立てに組み替えた…Xer.3に、各部局・センターのご意見を新たな観点で記載いただきたく…12月13日までに…返信くださるようお願い申し上げます。」
〔そして各部局が提出締め切りの12月13日の部局長会議で、また項目立て・記載事項が変更された文科省の「項目等について(案・未定稿)」が配布され、WGが新Xer.を検討することになった〕
【分析3】
1.この「依頼文書」は、目標・評価WGの活動が、いかに文科省の意向にあわせることのみに腐心したものであるか、その挙句、文科省の方針や記載様式に振り回されて、徒労に終る作業を全学各部局に押し付けているかを示すものとして、記録に残す価値がある。
経過をふり返ってみよう。5つの大学法人化検討WGが作られたのは、本年の3月29日である。しかるにその後WGが、作業を進めているのか、進めているならどのようにかについて、報告がなされない。そこで本センターは、6月27日付けで5つのWGに質問状を送付し、活動内容を公開するよう求めたところ、5つのWGからほぼ同文の、検討作業中というだけの回答がなされた(本速報No.18)。作業状況をしめし、各部局に対応準備を用意させるような配慮は、まったく示されなかったのである。ところが、夏休みに入った8月7日、突然、目標・評価WGは、『最終報告』の記載事項例の項目に、「千葉大学の将来構想U」の記述(学長名文書を含む)を選択貼り付けた文書を各部局に送付し、休み中の9月6日までに記入し提出するよう求めた。各部局が無理を押して、期日に提出すると、目標・評価WGはそれをとりまとめ、10月には各部局に再検討依頼をするスケジュールを示していた。しかし示されない。ようやく11月19日の法人化対応委員会にVer.2が示される。ところがその10日後、文科省の項目立て・記載事項がかわっていた、それにあわせたVer.3を作ったから、それへの意見・記載をして、2週間で提出せよ、というのが、この11月29日付「依頼文書」である。ところがその文科省の項目・記載事項は「検討素案・未定稿」であった。各部局が12月13日という期限を切られて作業を進めているとき、すでに文科省の項目・記載事項はまた変わっていたのである。それが示されたのは12月13日の提出期限当日の部局長会議であった。各部局の作業は何であったのか。
2.Xer.3の中心的問題点
(1)Xer.3は、『11.5検討素案』で「必要的記載事項(案)」とされているものだけでなく、「各大学の状況等に応じて記載する記載事項例(案)」とされたものについても、そのすべてについて目標・計画を記載する方針で書かれている。「必要的記載事項(案)」とされているものだけでも多すぎ、教育・研究への画一的規制の強化が予想される(【分析1】参照)のに、“とにかく文科省の項目には対応している形を示せ”、というような記載の方針では、千葉大学が何を目指すのかを明らかにすることは出来ず、その没個性ぶりを世間に示すだけである。
(2)「大学の基本的な目標」の部分などは、後での記載と重複する部分が多く、また細かい事項で中期目標として掲げるよりも目標達成のための措置と考えるのが適当な事項さえある。国大協第8常置委員会「大学評価についての基本的留意点について」が、「基準なき評価はありえない。基準を設計するとは大学の個性を主張するビジョン、計画、目的・目標を表現すること」「表現したビジョン等は自分の大学の構成員が常に口に出して説明できる内容と分量であることが大切である。なぜなら、それを実行しなければならないのは、まず学内構成員だからである。それを忘れると、外部にのみアピールすることが目的であるような錯覚に陥りやすい」と指摘していたことが(本速報No.4)、思い出されるべきである。まず「大学憲章」の設定など基本点の簡潔な確認から、問題は考えねばならない。
(3)各学部・研究科の理念・目標や入学定員等のような重要問題については、各部局の教授会等で十分な議論を尽くす必要がある。 教員組織の編成等については、人事WGにおける検討内容と関連しており、特に「新しい教員システム」や、教員システムと教育システムの分離については現在検討が中断しており、全学的決定はいっさいなされていない。 研究水準等に関する目標作成に当たっては、“千葉大学が総合大学である特色をいかに活かすか”が重要な課題なはずである。ところが「取組むべき研究課題に関する目標」で、「先端的専門研究分野において、文理融合型」の研究、「バイオサイエンスの分野」、「資源循環型社会の実現につながる」研究だけがあげられており、総合大学としての見地からすると、きわめて一面的なものになっている。大学は、基礎科学から応用科学までの幅広い研究のスペクトルを有しているが、これをどのように活かし、部局の個性に応じて、具体的にどのように中期目標としてまとめあげるかなど、全学的な議論を必要とすることがらが多々あるのに、そうした手続を踏み、全学の知恵を結集しようという意図は、WGの活動には感じられない。
(4)業務運営の改善等については、組織WGにおいて検討中とされ、何の報告も行われていない。財務内容の改善等についても同様である。こうした重要な問題についてなんの提示もないまま、項目だけは作られたようになるのは、WG全体の活動として問題である。また、教員の任期制問題については、労働基準法等とも密接に関わる問題であり、人事WG等において的確な問題点の指摘を早急に行い、各部局において真剣に議論しなければならないが、その手続ぬきに、計画に掲げられている。さらに、各種の評価の基準・結果や学長裁量経費の配分結果等については、大学運営の透明性や健全性を確保するため、千葉大学独自の工夫された情報公開のシステムを考案する必要があると考えられるが、こうした提案はない。
【提言】文科省の項目・記載事項にあわせるのでなく、自主的に千葉大学の基本理念・目的、業務計画を検討する作業を行わねばならない
こうしたナンセンスな事態が生じるのは、実は法人化の枠組みも定まらないにもかかわらず、ただ文科省の意向と推測されるものに先取り的に対応しようという、WGの活動方針・姿勢に原因がある。すでに繰り返し提言してきたところだが、千葉大学および各部局の基本理念・目的の明確化と、そのための業務計画の整理・明確化作業が、大学の自主性にたって進められねばならない。また、現在に至っても活動内容が詳らかでない、組織業務、財務会計などのWGは、思考停止状態ではないかと疑いたくもなる。速やかにその活動を報告すべきである。問題はWGばかりではない。12月13日までにXer.3に関する議論さえほとんど進めていなかった部局もあると聞く。目標・計画に関する真摯な議論を全学、全部局で起こさねばならない。