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11月25日に、青年法律家協会 弁護士学者合同部会(議長 立松 彰)は、下記の 文章を発表しました。 テキスト張り付けなので読みにくいですが、ご検討下さい。 法曹養成制度改革関連3法(案)の問題点 2002年11月25日 青年法律家協会 弁護士学者合同部会 議長 立松 彰 今国会上程中の法曹養成制度改革関連3法(案)(法科大学院の教育と司法試験等の 連携等に関する補立案(以下「法科大学院連携法案」という)、学校教育法の一部改 正、司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案)は極めて問題のある内容となっ ている。このうち、学校教育法改正は、既に11月22日に可決成立した。 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、法科大学院構想について批判的に検討してき た立場から、以下にその問題点を指摘する。 1 法科大学院連携法案について │ 第2条(法曹養成の基本理念) │ │ 「法曹の養成は、国の規制の撤廃または緩和の一層の進展その他の内外の社会経済 │ │ 情勢の変化に伴い、司法の果たすべき役割がより重要なものとな」ったために、法 科│ │ 大学院を設置して行う。 │ 問題点 司法制度改革は、憲法の保障する基本的人権を擁護するという本来の司法の役割が、 現在の官僚司法制度の下で十分に果たされていないことを出発点として、それを基本的 人権擁護に資する司法制度へと改革するものでなければならない。とりわけ、憲法上、 人権の擁護者とされる法曹の養成にあたっては人権擁護こそ基本的理念でなければなら ないのである(憲法76条3項、弁護士法1条、検察官法4条)。 この点で、法案の第2条(法曹養成の基本理念)が、法曹養成制度改革を規制緩和 路線の一環として位置付けている点は重大な問題である。 │ 第3条(国の責務) │ │ 1項「国は、前条の基本理念にのっとり、法科大学院における教育の充実並びに法 │ │ 科大学院における教育と司法試験及び司法修習との有機的連携を図る責務を有す る。」│ 問題点 やはり規制緩和路線に基づく法曹養成を国の責務として定めている点で問題である。 また、このように国の責務としてまで法科大学院教育と司法試験、司法修習の連携を 定めている以上、法科大学院課程修了を法曹養成の原則的なルートとしたものと解され る。しかし、法科大学院は2〜3年の通学期間で年間200〜300万円の学費を要す るとされ、法曹志望者に重い負担を課し、教育の機会均等を破壊することとな るのではないか。 │ 4項「政府は・・・法曹の養成のための施策を実施するため必要な・・・財政上の措 置・・・│ │ を講じなければならない」 │ 問題点 ある程度評価できるが、措置として考えられているのは有利子の教育ローン等であ り、大学への助成も大学自治の観点から問題のある競争的資金であって、人権擁護の ための法曹養成にとって十分なものとはならないのではないか。 │ 第4条(大学の責務) │ │ 「大学は、法曹養成の基本理念にのっとり、法科大学院における教育の充実に自主的 │ │ かつ積極的に努めるものとする」 │ 問題点 大学は、学術の中心であり、学問の戦争協力の痛苦の反省に立って、憲法上学問の自 由確保のために自治権を保障された団体である。したがって、大学には行政府の進める 施策に拘束されることなく、常に独立した自由な学問教育研究の権利が保障されていな ければならない。よって、大学に対する責務条項を設けることには重大な問題がある。 加えて、前述のように、法曹養成の理念には司法制度改革を規制緩和路線の一環とし て位置付ける等という重大な問題点がある。このような観点での法曹養成教育は、従来 の人権擁護の観点への圧迫、学問と思想の自由の統制にもなりかねないのではないか。 従って仮に大学の責務条項を設けるとしても、このような基本理念を人権擁護の観点 に修正する、あるいはその観点伝付帯決議がなされることが大前提である。 しかも、法科大学院においては、この責務は単なる建前では無いことが重大であ る。 │ 第5条(法科大学院の適格認定等) │ │ 1項「文部科学大臣は・・・(認証評価機関の)定める法科大学院評価基準の内容が法 │ │ 曹養成の基本理念を踏まえたものとなるように意を用いなければならない」 │ │ 2項「認証評価機関は、当該法科大学院の教育研究活動の状況が法科大学院評価基 │ │ 準に適合しているか否かの認定をしなければならない」 │ │ 3項「大学は、・・・法科大学院設置基準に適合している旨の認証評価の認定を受ける │ │ よう、その教育研究水準の向上に努めなければならない」 │ 問題点 これらによって文部科学大臣は「法曹養成の基本理念」の観点から認証評価機関の評 価基準の策定に介入し、それを通じて大学の運営に介入するおそれがあるのではない か。 2 学校教育法の一部改正について この認証評価機関については、学校教育法改正69条の3から6にかけて規定さ れている。 │ 69条の3第2項 │ │ 大学は、その教育研究等の総合的な状況について、政令で定める期間ごとに、認 │ │ 証評価機関による評価を受けるものとする。 │ │ 69条の3第2項、69条の4 │ │ 認証評価機関は文部科学大臣により認証された機関であることが必要とされい る。│ │ 69条の5 │ │ 「文部科学大臣は、認証評価の公正かつ適確な実施が確保されないおそれがあると │ │ 認められるときは、認証評価機関に対し、必要な報告または資料の提出を求め」 「認│ │ 証評価の公正かつ適確な実施に著しく支障を及ぼす事由があると認められるとき は、│ │ 当該認証評価機関にこれを改善すべきことを求め、及びその求めによってもなお改 善│ │ されないときは、その認証を取り消すことができる」 │ 問題点 このように、文部科学大臣の裁量が広く認められている。 これによって大学は文部科学大臣の監督下におかれた認証評価機関によって統制さ れ、学問の自由への介入の危険すらあるのではないか。行政の教育内容への介入を禁じ た教育基本法10条との関係でも問題である。大学教員は自主的な研究よりも、表面の よい報告書作成に忙殺されるようになりかねない。 これは、学問の自習を尊びアメリカ法曹協会と共同関係にあり政府の介入の余地のな いAALS(アメリカロースクール協会=アメリカのロースクール評価機関)とは全く 別物と言えるのではないか。 しかも、この学校教育法改正は、私たち弁護士にも跳ね返ってくる。 仮りに日弁連が認証評価機関を作った場合、このような強大な文科省の統制に服し、 事実上、弁護士自治に対する介入すら招くこととなるだろう。日弁連の認証評価機関で すら、法科大学院連携法案の規制緩和の基本理念(同法2条)に大学の教育が沿ってい るか、を基準に評価することは避けられないとの危惧がある。 さらに、同法15条で大学に直接介入しかねない新たな規定がなされている。 │ 15条1項「文部科学大臣は、公立または私立の大学」等が「設備、授業その他の │ │ 事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、当該学校に対し、必要 な│ │ 措置を取るべきことを勧告することができる。」 │ │ 2項「文部科学大臣は、前項の規定による勧告によっても猶当該勧告に関わる事項 │ │ が改善されない場合には、当該学校に対し、その変更を命ずることができる」 │ │ 3項「文部科学大臣は、前項の規定による命令によってもなお当該勧告事項が改善 │ │ されない場合には、当該学校に対し、当該勧告事項に係る組織の廃止を命ずること が│ │ できる。」 │ │ 4項「文部科学大臣は、第1項の規定による勧告または第2項若しくは前項の規定 │ │ による命令を行うために必要があると認めるときは、当該学校に対し、報告または 資│ │ 料の提出を求めることができる。」 │ 問題点 従来、学校(国立を除く)の法令違反に対しては、変更命令(14条)と学校閉鎖命 令(13条)が規定されていた。しかし、学校閉鎖命令は、学校にとっていわば死刑で あり、(殆ど)発動されることはなかった。また、それらの命令は「規定に違反したと き」に初めて出すことが出来た。 ところが、改正15条では、改善勧告、改善されない場合の変更命令、変更命令でも 改善されない場合の当該勧告にかかる組織の廃止命令が新設された。しかも、改善勧告 は文部科学大臣が「法令の規定に違反していると認めるとき」に出来るようになってお り、文部科学大臣の裁量及び介入範囲が大幅に拡大されているのではないか。改正案6 0条の2で、上記の権限行使に当たっては、文科大臣は、「あらかじめ、審議会に諮問 し、その意見を聞いて行わなければならない」と規定しているが、審議会がむしろお墨 付きをあたえる役割を果たすことにならないだろうか。 これまで、学校閉鎖に該当するような重大な法令違反以外は、大学の自治、学校の自 治で対応してきた。その自治権を奪い、文部科学大臣が介入することになるのではない か。 文部科学大臣の介入が認められるようになると、大学と学生自治団体が結んだ設備や 授業に関する様々な取り決めは、全て改善勧告、変更命令の対象となりかねない危険が ある。それでは、大学の自治は、強大な文科省の権限の前に風前の灯火となりはしない か。なお、同条は、国立大学は対象としていないが、国立大学は、次期通常国会提出予 定の「国立大学法人法案」によってより強い統制に服することになるのでは ないか。 │ 4条2項3号 │ │ 国立大学以外の大学の設置者(地方公共団体、学校法人)は、学部、大学院の研 究│ │ 科、短大の学科の廃止を届出のみで行える。 │ 問題点 文部省の廃止命令を待つまでもなく、同改正4条2項で大学の設置者は上記の措置を 行えるようになった。前述の文部科学大臣の報告要求をうけた大学の勧告等を先取りし た萎縮・大リストラ、解雇問題も生じるのではないか。 3 学校教育法改正と法科大学院連携法案のリンク │ 法科大学院連携法案5条5項 │ │ 文部科学大臣は、大学が設置する法科大学院の教育研究活動の状況について適格 認│ │定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該法科大学院の教育研究状況につ い│ │て、報告または資料の提出を求めるものとする。 │ 問題点 文科省の統制に服する認証評価機関の適格認定を受けられなかった大学に対して、報 告または資料の提出を求めている。法曹養成検討会議での議論からすれば、この報告ま たは資料が、学校教育法改正15条の措置を実施する際の「報告または資料」(同 条4項)として使用されることになるのではないか。 │ 同法案6条3項 │ │ 「法務大臣は、特に必要があると認めるときは、文部科学大臣に対し、法科大学院に │ │ ついて、学校教育法第15条第4項の規定による報告または資料の提出の要求、同条 │ │ 第1項の規定による勧告、同条第2項の規定による命令その他必要な措置を講ずるこ │ │ とを求めることができる。」 │ 問題点 さらに、法科大学院連携法6条は、法科大学院においては、文部科学大臣のみならず 法務大臣も介入し、15条の措置を取ることを求めることができると規定されている。 文科省は、歴史的経緯もあり、教育や大学の自治について一定理解しているが、法務省 は権力的性格の強い省庁であり、6条の規定は、法科大学院がそうした法務省の統制に も服することになる危険はないか。 4 司法試験法改正案について 司法試験法改正案の問題としは、前述した法科大学院課程修了が司法試験受験の原則的 ルートとされることに加え、まず、同法改正案4条の受験回数、受験可能期間の 制限が問題である。 │ 第4条 │ │ 「司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において、 │ │ 三回の範囲内で受けることができる」 │ 問題点 これは、一定の能力を有する者に受験資格を与えるという資格試験において、敗者復活 の機会を制限するものであり、平等原則の観点から問題がある。また、合格者数増に伴 い、司法試験が受験生の七割は合格する試験となることが回数制限の許容根拠とされて いるが、法科大学院設置予定校数からは、以前として司法試験は狭き門であり、上記の 許容根拠が当てはまる事実はない。 次に、同法案5条、予備試験の問題がある。 │ 第五条3項 │ │ 「論文試験による筆記試験は、短答式による筆記試験に合格した者につき、次に掲 │ │ げる科目について行う。 │ │ 1 前項各号に掲げる科目 │ │ 2 法律実務基礎科目(法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により習得さ れ│ │ るものを含む)についての科目を言う」 │ │ 4項「口述試験は、筆記試験に合格した者につき、法的な推論、分析及び構成に基 │ │ づいて弁論をする能力を有するかどうかの判定に意を用い、法律実務基礎科目につ い│ │ て行う」 │ 問題点 従来、予備試験については、法科大学院に入る金銭的余裕のない、貧しい人の登竜門と して保障すべきか、それとも法科大学院制度を脅かさないよう、制限すべきかが、争わ れていたが、同法案に示された予備試験導入の意図は、そのような争いとは別のところ にあったのではないか。 と言うのは、予備試験の論文試験には、法律実務基礎科目が含まれており、口述試験は 法律実務基礎科目についてのみ行われる。このように重視される法律実務基礎科目と は、同法案5条3項によれば、「法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により習 得されるものを含む)」である。法曹養成検討会議での議論などからすれば、これは企 業法務部での経験を中心とするものであり、貧困学生は予備試験の合格は極めて困難と なる危険がある。これでは、困窮者のための予備試験とならず、極めて問 題であるし、法曹の変質に結びつきかねないのではないか。 │ 第12条 │ │ 1項「法務省に、司法試験委員会を置く。」 │ │ 2項「委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。 │ │ 1 司法試験を行うこと」 │ │ 第13条 │ │ 1項「委員は、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験を有する者のうちから、法 務│ │ 大臣が任命する。 │ 問題点 ここで、従来の司法試験管理委員会の廃止と司法試験委員会の設置が規定されている点 も重大である。 司法試験の管理は高度の公正中立性が要請されることから、司法試験管理委員会は国家 行政組織法第3条に定める行政委員会であり「法務大臣の所轄の下」に置かれる機関で あった。これに対し司法試験委員会は、法務省の一機関であり、従って、その運営も、 法務大臣の指揮監督下に属することになる。これによって、司法試験の管理の公正中立 性が揺らぐことにならないか。 司法試験実施に必要な事項については、司法試験管理委員会規則による定めから、法務 省令による定めに移行している。また、委員についても、弁護士委員の選任について は、日本弁護士連合会からの推薦が要件とされなくなっており(13条)、非常勤化さ れている。従って、法務官僚からなる司法試験委員会事務局の権限が強くなる 危険があるのではないか。 │ 第8条1項中「よって定める」を「よる判定に基づき、司法試験委員会が決定す る」│ │ に改め、同条第2項及び第3項を削る。 │ 問題点 合格者決定方法は、従来は司法試験管理委員会が定めた方法に基づき、司法試験考査委 員の合議によって定められていた。ところが、改正案によれば司法試験委員会が最終的 に決定することになるので、事務局である法務省の意向が入り込む余地が生ずるのでは ないか。 5 裁判所法改正案について │ 第67条(修習・試験) │ │ 1項「司法修習生は、少なくとも1年間修習をした後試験に合格したときは、司法 │ │ 修習生の修習を終える」 │ 問題点 同法改正案の要点は、現行司法試験で合格した者の修習期間短縮である。 現状1年6月ですら、司法修習生は厳しいスケジュールに追いまくられており、精 神を病む者も出る。まして、少なくとも1年間(1年4ヶ月が予定されている)になれ ば、法曹としての十分な修習を受けることは困難である。 6 まとめ 上記のように、法曹養成制度改革関連3法(案)は、人権擁護の観点からの法曹養成と 大学の自治の憲法原則に照らし、重大な問題を孕んだものである。青年法律家協会弁護 士学者合同部会は、この3法(案)に対して、強い危惧の念を表明し、慎重な審議を求 めるものである。 以上 |