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『朝日新聞』三重版 2002年10月31日付 [変革の時代に【三重大】] 地域圏大学へ 「おもしろいからやってみよう」 「ありがとうございます」 三重大医学部の内田淳正教授のあっさりした言葉に、津市の薬店「イシダ ファーマシー」の石田剛社長(48)は思わず、頭を下げた。独自開発した慢 性関節リウマチ患者用代替医療用食品の臨床試験を依頼しにいった4月のこと。 初対面。引き受けてもらえるかどうか、危ぶんでいたのに、意外にとんとん拍 子に話は進んだ。 三重大水産学部(現生物資源学部)卒の石田さんだが、医学部につてはなかっ た。突破口を探っていたところ、2月に三重大教授らが設立した技術移転機関 「三重TLO」のあっせんで、内田教授に会うことが決まった、その日のこと だった。しかも研究費は民間の10分の1の210万円でいいという。TLO が共同研究の申込書作成を手伝うなどして、6月に契約が成立した。 TLOにとっても、契約は第1号。研究費の1割程度の手数料を得る。TL Oは地域産業への貢献を狙って設立されたが、大学法人化後の研究費確保の役 割もある。会員企業を訪問してニーズを掘り起こしている。同社技術管理部長 の余川彬夫さんは「今までにない企業と大学の出会いを作りたい」。 「共同研究が進めば、設備のないベンチャー企業は大学の近くに集まる。津 の活性化にもつながるのではないか」と石田さんも話す。 ● 飛び出していく大学 津駅前のアスト津のみえ県民交流センター内に、7月から三重大の非常勤職 員が常駐している。「知の支援センター」と名付け、NPO支援や市民との接 点にしようと、学外にアンテナを張った。「オゾンホールの研究者はいるか」 「図書館は利用できるか」などの問い合わせが月に20件ほど寄せられる。 人文学部は昨年から、東紀州地域で「フォーラムin東紀州」を始めた。全 6回のテーマは雇用、住まい、家族など身近なものばかりで教授が講義する。 企画した一人、広岡義隆教授は「支持される大学になるには、『やって来い』 という態度ではだめだ」。来年から北勢地域でも開く。 同大は7月、尾鷲市とともに活性化を検討する東紀州地域連絡協議会も立ち 上げた。また尾鷲市などは、来年3月末で閉校する尾鷲工業高校の校舎の活用 方法の検討を三重大に依頼している。 ● 地域圏大学 04年度の独立行政法人化を前に、三重大が思い描くのは、地域と連携する 「地域圏大学」だ。「ただ地元にある大学ではなく、地域に根ざした大学にし たい」と上野達彦副学長。今後は地域貢献も、国の予算査定の評価対象となる。 閉ざされたキャンパスから地域に開かれた大学へ。県内唯一の国立総合大学、 三重大の挑戦は正念場だ。(岸由紀子) |