人事制度についての参考事項(案)

 

資料1

 

 

平成1410月 日

法人化特別委員会

 

国立大学協会「国立大学法人化特別委員会」(以下「法人化特委」という。)では,国立大学が法人化された場合に各大学において定めることが必要となる人事関係事項のうち,各大学に共通的である主要な事項について,文部科学省の協力の下に検討を重ねてきた。現段階では国立大学の法人化に関する法的・制度的枠組みや財政的措置が必ずしも確定しておらず,また,検討事項は多岐にわたるため,十分な検討作業が終了しているわけではないが,これまでの法人化特委での議論は以下のように要約される。この内容は,各大学が法人化への円滑な移行を行う観点から留意すべき事項についての議論を現時点で整理したものであり,各大学における作業を行う上での参考事項として提供することを目的としている。なお,今後,法人化に関する法的・制度的枠組みや財政的措置が明確化する段階において,いくつかの事項が追加されることがありうる

 

T 職員の採用について

 

 国立大学が平成16年度から非公務員型で法人化されるとした場合の職員の採用については,現時点においては,以下のようにまとめられる。

(1) 国立大学法人の職員の採用については,各大学の独自の基準と判断に委ねられるべ

きものとなる。このため,各大学では自らの判断の下に,それぞれの大学の特性を反映した採用方法(職種,試験,面接方法等)の検討,民間からの有為な人材の任用等,多様性のある独自の取組を行うことが期待される。

(2) 職員の採用に関する各大学における検討状況や実施予定内容を相互に情報として共

有することは有益であり,国立大学協会及び国立大学の法人化後の新しい連合組織(以下「新連合組織」という。)は,大学間の情報交換を支援する上での積極的な役割を果たすべきであろう。

(3) 職員の採用に際してどのような方法とするかは,基本的には,各大学の判断に委ね

られるべきものであるが,法人化に伴い,いわゆる一般事務系職員の新規採用(以下「職員採用」という。)に関しては,能力の実証,選考における情実の排除,大学間・大学と国との間での人事交流の円滑化等の必要性を考慮して,何らかの試験を用いた採用方法とする方向で検討すべきであろう。

(4) 平成16年度の職員採用(平成15年度に実施)は,国立大学法人の諸制度が施行さ

れていない段階において実施する採用であることから,特殊な事態にあるといえよう。このため,人事院の了解が得られれば,各大学の採用において現行の国家公務員試験を活用することが考えられる。もちろん,こうした方法に関しては,非公務員型となる各大学の職員を公務員試験合格者から採用することによって,果たして,大学にとって有為な人材を採用し得るか否かについて議論がないわけではない。しかし,新たな試験を行うにしても職員の勤務条件等が未確定であること等を考慮すると,暫定措置として現実的な方法と考えられる。

(5) 平成17年度以降の職員採用(平成16年度に実施)については,各大学が新たな方

法の下で実施することになる。各大学が採用に際して何らかの試験を課す場合,個々に試験を実施することになれば,多大なコストを要することになろう。このため,各大学の連携・協力の下に,全国的・あるいは地域ブロックごとに何らかの共通的試験を実施すること,その場合,筆記試験については外部の試験実施機関に委託し,面接などの最終的判断を各大学に委ねること等が現実的方法と考えられる。ただし,具体的に,どのような実施主体がどのような方法によって行い,その結果をどのように利用するかについては,各大学の判断によるところとなるため,まず,各大学の意思を確認し,その上で,具体的内容を検討することが必要である。

(6) 各大学が協力して試験を実施する場合に,実施主体を新連合組織に委ねる,新連合

組織の協力の下に各国立大学が参加して実施するなど,新連合組織をどのように位置づけるかは,別途検討されるべきであろう。

 

U 就業規則について

 

1.総論的事項

 

(1) 各大学は,先行独立行政法人,私立大学などの就業規則を参考としつつ,人事制度

に関する諸事項を盛り込んだ参考資料1に例示するような就業規則を定め,所轄の労働基準監督署に届けることが必要となる。

(2) 就業規則は,原則,事業場単位(各キャンパス単位など)で作成することとなる。ま

た,性格の異なる事業場ごとに,場合によっては職種ごとに,定めることが求められる。この場合、事業場の単位の取扱いを含め、就業規則を定めるに当たっては、各大学が労働基準監督署とあらかじめ相談することが望ましい。

(3) 就業規則を定めるに際しては,各大学と過半数労働組合もしくは労働者の過半数を

代表する者の意見を聴くことが必要となる。この場合、労働者の対象範囲(例えば,非常勤講師の取扱等)については,私立大学の例等を参考としつつ、あらかじめ労働基準監督署と相談することが望ましい。

(4) 就業規則の作成に際しては,事務レベルにおいてある程度準備作業を進めることが

可能なもの,先行独立行政法人や私立大学の例を参考に形式や手続きなどに関して細かな実務的作業を伴うものなどがあるが,こうした作業は各大学の事務部門に依存するところが大きく,これらの事務的準備作業が円滑に進むよう、実務専門家を招いての研修など各大学における工夫が必要である。

   また,学内における検討で合意が得られたものについては、規則化していくことが

必要である。

(5) 法人化後の各大学が直面する人事労務事項に関連して,調査研究・情報提供等を行

うために新連合組織がどのような役割を果たすかに関しては,各大学の意向を確認しつつ、別途検討されるべきであろう。

 

2.各論的事項

 

(1)服務について

非公務員型による法人化がなされるとした場合、公務員としての規制が外れ,いわ

ば原則自由,例外規制となるが,各大学の職員が無原則に自由となるのでなく,教育研究の一層の充実という観点から,各大学においては高い自己規律のもとに透明性の高い服務に関するルールを定めることが必要である。

 現行では,国家公務員法等により服務上・身分上の義務規定が置かれているが,法人化後は,以下の事項につき、民間企業や私立大学などの状況を踏まえ,所要の規定を設ける必要がある。

・ 誠実に勤務する義務

・ 職場の秩序を保持する義務

・ 業務上の秘密を守る義務

・ 職務に専念する義務

・ 他の事業に従事することの制限

・ 倫理を保持する義務

・ セクシュアル・ハラスメントの防止

以下,主要な事項についての考え方をまとめると,次のとおりである。

@ 勤務時間の管理

ア 労働基準法に則り,以下の内容を含む勤務時間についての規定を整備することが

必要であるただし,教員の勤務時間管理については特殊性を考慮することが必要であろう。

・  勤務時間(140時間=8時間×月−金5日間),週休日・休日,年次有給休暇,

 病気休暇等 (現行と同様の内容となると思われる。)

・  休憩時間 (労働基準法の適用に伴い、45分とすることが必要となる

イ 教員は、その業務の性格から時間外労働になじまないが、論文審査,入学試験関

係等の業務の場合は,時間外労働を命ぜられることもある。

 また、附属学校教員の手当と時間外勤務との関係については,別途、制度上,検

  討する必要がある。

ウ フレックスタイム制については,各大学において必要に応じて導入を検討する。

エ サバティカル・リーブについて,各大学において必要に応じて導入を検討する。

   オ 勤務時間との関係において,教職員の研修の位置付けを明らかにすることが必要である。

カ 裁量労働制

・  教員以外の職員については,情報処理業務など,現行の専門業務型を中心に適用

を各大学の判断において検討する。

・  教員についての幅広い導入には厚生労働省の政策変更が必要であり,現状では,

一般的導入は困難な状況にある。(労働基準法上,大学教員の業務は授業など時間配分の決定に際し裁量に委ねることが不適当な部分があるため,専門業務型裁量労働制の対象とならないとされている。)

・  こうした現状を踏まえ,教員については,兼職兼業の緩和,勤務時間管理の弾

力化,フレックスタイム制の導入等とのバランスを考慮の上,裁量労働制に拠らなくても事実上,その必要性が解決されるか否かを検討することが必要であろう。また,すべての教員を対象とした裁量労働制の導入が困難としても,「一定の要件の下での裁量労働制」導入の可能性について,引き続き文部科学省と厚生労働省との間での検討が必要である。

A 兼職兼業

非公務員型となることを踏まえ,以下のような点で規制を緩和することが考えられ

る。

ア 勤務時間内に従事する兼職兼業の範囲の拡大

・ 勤務時間内に職務として従事する兼職兼業の範囲を各大学法人が決定する。

(例)大学管理特許の実施に関する技術指導,審議会・各種委員会の委員,学内

活動を目的とする法人等の役員

・ 教職員が個人として受領できる対価は,原則旅費等の実費であるが、研究費等

に  学外報酬を充当することは考えられる。

イ 勤務時間外での兼職兼業の範囲の拡大

・  営利企業の役員等の兼業については,現行の承認基準(TLO役員,研究成果活

用企業役員,監査役)を参照しつつ,産学官連携を推進する観点からその範囲について検討する。学長が承認し,その承認状況を公表する。

・ 営利企業の役員等以外の兼職兼業については,利益相反・責務相反の問題がな

いこと等,現行の承認基準を参照しつつ,学長が承認する。

(例)営利企業への技術指導・助言,非常勤講師,公益性の高い法人の役員・顧問等

ウ 勤務時間帯の取扱いの弾力化

・ 組織全体・個人の職務遂行に支障がない場合に限り,通常の勤務時間帯におけ

る兼職兼業(産学官連携,地域社会貢献等にかかわるもの)を可能とするよう,学長の判断により,勤務時間の割振り・勤務日の変更(勤務日を土曜可とする措置を含む。)を弾力的に実施する。

・ この方法によって対処できない場合には,学長の判断により勤務時間を割く措

置を講ずる。この場合には,割いた勤務時間数に応じて給与は減額される。

エ 短時間勤務の検討

・ 週40時間勤務を常態とするこれまでの通常勤務を週3日あるいは年間9ヶ月勤務

する等の新たな勤務形態(短時間勤務制)による教職員の雇用に対するニーズが大きくなる可能性がある。こうした事態に対応しうるよう,今後,短時間勤務を前提とした教職員の雇用について各大学で検討することが必要である。

・ 文部科学省においては、短時間勤務制の職員への国家公務員共済組合法の適用

等について,常勤職員の範囲を踏まえつつ検討する必要がある。

B 倫理保持の規程の整備

国家公務員倫理法において,国家公務員に準じた取り扱いとすることが求められ

ているが,大学の特性を踏まえて,内容について一部緩和することが可能である。

ア 本省幹部職員に適用されている「みなし利害関係者」(他の職員の利害関係者

を幹部職員の利害関係者とみなす)は不適用とし、利害関係者を以下のように限定する。

・ 物品購入契約・共同研究・受託研究契約の相手方

・ 受験生および懲戒対象の学生等(院生・研究生)

イ 贈与等の報告・閲覧の限定

・ 現在、事業者等から1件5千円を超える贈与等を受けたときには贈与等報告書の     提出が必要であるが、これを利害関係者からの贈与等に限る。報告者の範囲につ     いても検討する。

・ 株取引・所得等の報告義務を不適用とする方向で検討する。

・ 各大学限りにおいて贈与等報告書を閲覧に供する。

C セクシュアル・ハラスメント防止については,現行と同様の措置を各大学の就業規

則に明記することが適当と思われる。

 

(2)給与制度について

@ 基本的事項

ア 給与制度は,処遇確保の観点からの納得性及び社会的納得性等からその在り方

を検討していく必要がある。

イ 給与制度は,法人化後の各大学自らが決定する最も重要な事項の一つと位置付

けられる。

ウ 各大学が決定する給与制度は,各大学の教育研究内容,教育研究組織の種類・

規模等の相違を反映し,独自性と多様性を持ったものになると考えられる。

エ 各大学が給与制度を検討するに当たっては,運営費交付金等の国から各大学へ

配分される資金の人件費部分に相当するものに関する事項,人件費に関して各大学に課される制約,退職金の取扱い等に関する諸前提条件を踏まえて行うことが必要である。

A 給与制度の設計

ア 各大学が独自の給与制度を実施するには,周到な準備と一定の時間を要すると

思われ,こうした作業に,比較的早期に対応しうる大学とある程度の時間を要する大学とが存在することが予想される。

イ 新たな給与制度の検討にある程度の時間を要する大学にあっては,各大学の判

断の下に,移行期間を設け,その間は現行の国家公務員給与を一定程度準用した給与制度とし,その後独自の給与制度を構築することが一つの有力な選択肢と考えられる。なお,早期に準備の整った大学にあっては,法人化移行時において新たな給与制度を適用することは言うまでもない。

ウ 法人化後の給与制度に関しては「業務の実績を考慮し」「社会一般の情勢に適

合したもの」であるとともに「職員の潜在的能力が十分に発揮されるもの」とすることが求められている。このため,移行期間内において現行の国家公務員給与の一定程度を準用する大学であっても,現行と何ら変わらないというのではなく,「職員の業績を反映したインセンティブを付与する給与の部分が適切に織り込まれる」ような措置を各大学の判断において導入することにより,法人化の趣旨を生かすことが必要と思われる。

エ このため,選択的年俸制の導入,ワークシェアリングに対応した給与,民間か

ら人材を登用した際の弾力的な給与格付けや昇格・昇給の運用等に関して各大学が積極的に取り組むことが求められる。

B 大学間の情報交換

給与制度における各大学の創意工夫について,大学間で情報を共有し,それぞ

れの大学の制度設計に生かすことは意味のあることである。このため,各大学が取り組んでいる給与制度に関する情報の交換を円滑にする上で,国立大学協会及び新連合組織が積極的な役割を担うことが必要である。

C 人事交流と給与制度

  法人化が大学の自立性を高めるものであり,各法人が独自の給与制度を有する

ことを前提とした上で,円滑な人事交流の実現については、「運用上の課題」として位置付けて検討し、実施する方向が望ましいと考えられる。

 

(3)退職手当制度について

@ 前提条件

法人化後の各大学が支払うこととなる退職手当に関する財源上の措置が未確定で

あるが,退職手当制度の設計に当たっては,承継職員・法人化後に採用される職員の区別なく,以下のような前提条件を必要とすると思われる。

ア 運営費交付金算定対象となる教職員について,全額を毎年の運営費交付金により

措  置する。

イ 国家公務員の退職金基準を超える退職手当を支払う場合には,各大学において積

み立てられる引当金により支払う。

ウ 外部資金により雇用された者に関する退職手当の支払は,各大学において積み立

てられる引当金により支払う。

A 退職手当の計算方法

ア 財政面での措置が未確定ではあるが、教職員の退職手当の算定方法は,現行の国

家公務員の退職手当の計算方法(退職時における俸給月額×支給率とし,定年前早期退職者の俸給月額の特例を含む。)に拠ることが適当と思われる

イ 民間企業では,年金として支払う制度,退職金ポイント制,退職金前払い制等の

措置が導入されており,これらは今後の検討課題となろう。

B 法人移行の経過措置

ア 法人化に移行する際の承継職員には退職手当は支払わず,国立大学法人を退職す

る時に在職期間を通算することを法的に手当することが必要である。

イ 承継職員が再度,国家公務員となった場合にも在職期間を通算する措置をとるこ

とが必要であろう。

C 在職期間の通算

ア 国立大学法人を一体として取り扱い,国立大学法人間を異動する(復帰を前提と

しない異動を含む)場合に,在職期間を通算する旨を各大学が規定において共通に定めておくことが必要である。

イ 国立大学法人以外の組織との異動のうち,少なくとも以下の場合には,在職期間

の通算を行うように,それぞれの機関が措置することが必要である。

・ 国立大学法人→国・地方自治体・他の独立行政法人(研究機関)→国立大学法人

・ 国・地方自治体→国立大学法人→国・地方自治体

ウ 国・地方自治体・他の独立行政法人(研究機関)と国立大学法人との間の異動に

関しては,復帰を前提としない異動であっても在職期間を通算することについては,運用上の工夫を含め,その可能性・必要性につき引き続き検討する。

D 役員の退職手当制度

ア 役員の退職金に関して各大学において新たな制度を設けることになるが,国の方

針,財源措置等を見極めつつ,先行独立行政法人の例を参照して検討することが必要であろう。

イ 現在の国立大学の特性に鑑み、国立大学法人の役員に関しては「教職員→役員→

教職員」のケースが想定されるため,先行独立行政法人役員の退職手当制度をそのまま国立大学法人に当てはめることが適切か否かを検討する必要がある。


 (参考資料) 就業規則について

(注)以下の参考資料は、文部科学省から法人化特別委員会に提供された資料に基づいている

T 総論的事項

1 職員就業規則 項目例(未定稿)<第4回・資料8

2 就業規則作成までの流れ(未定稿)<第4回・資料5>

3 就業規則作成に係る基本的な考え方(事業場の概念を中心に)(未定稿)       

   <第4回・資料6

4 労働者の範囲について(未定稿)<第4回・資料7>

5 就業規則の作成に関する参照条文<第4回・参考資料E>

6 労使協定の締結に関する労働基準法上の規定について<第4回・参考資料F>

7 非特定独立行政法人等就業規則対照表<第4回・参考資料G>

8 就業規則において定める必要のある事項例【勤務時間等・服務関係】(未定稿)

      <第5回・資料1>

9 私立大学・非特定独立行政法人等就業規則対照表(服務関係事項)            

    <第5回・参考資料>

U 各論的事項

10 常勤教職員の勤務時間等について(未定稿)<第5回・資料2>

11 兼職・兼業の取扱いについて(未定稿)<第5回・資料3>

12 倫理保持について(未定稿)<第5回・資料4>

13 非特定独立行政法人規程対照表<第5回・参考資料>

14 セクシュアル・ハラスメント防止について(未定稿)<第5回・資料5>

15 現行給与制度の概要<第6回・資料1>

16 法人化した場合の給与上のメリット<第6回・資料2>

17 給与制度検討にあたっての課題<第6回・資料3>

18 国家公務員と非公務員型独立行政法人職員の超過勤務手当に関する制度の比較

 <第6回・資料5>

19 退職手当基準関係資料<第7回・資料1>