独行法情報速報

No.21

特集:人事WGの「検討結果」(中間報告)

2002.11.20 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/

 

教員身分問題:看過できない人事WG「検討結果」

10月17日に、人事WGは法人化対応委員会に対し「人事ワーキンググループにおける当面の検討結果」という表題の、中間報告を行った(本センターHPに掲載)。11項目にわたるこの「検討結果」は、多くの看過できない問題をふくんでいるが、教員の身分問題を中心に、開示、分析しておく。なお、1.就業規則の構成、2.事業場、3.労働者、9.給与、10.定年など労働組合に関わる問題は紙面の関係もあり、別の機会に分析する。

 

【開示1】 4.教員の身分保障手続/―従来の評議会の審査等の手続に代替する手続を設ける/―個別労使紛争にかかる専門的機関を設ける/の双方向がありうる。/法の整備、関係機関による就業規則作成指針を待ちつつ、引き続き検討中。

【分析1】評議会の審査等に代替する手続と、個別労使紛争にかかる機関の設置の「双方向がありうる」というのが、そもそも意味不明だが、多分この二者の手続がありうるということであろう。問題は「教員の身分保障」の根幹になっていた教育公務員特例法の規定は、「評議会の審査等の手続」に矮小化しえない広範で系統的なもので、そのことにより「教員の身分保障」が成り立っていたことが、まったく省みられていない点にある。教育公務員特例法は、「教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基き、教育公務員の任免、分限、懲戒、服務及び研修について規定」(第一条)している。だから「教員の採用および昇任のための選考は」「教授会の議に基づき学長が行う」(第四条)、「教員にあつては評議会・・・の審査の結果によるのでなければ、その意に反して転任されることはない」とし厳密な審査手続を規定(第五条)、「教員にあつては評議会・・・の審査の結果によるのでなければ、その意に反して免職されることはない。教員の降任についても、また同様とする」(第六条)、「教員にあつては評議会・・・の審査の結果によるのでなければ、懲戒処分を受けることはない」(第九条)、「教員・・・の勤務成績の評定及び評定の結果に応じた措置は・・・教授会の議に基づき・・・学長が行う」(第十二条)、「教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない」「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる」「教育公務員は・・・現職のままで、長期にわたる研修を受けることができる」(第二十条)と、任免・分限・懲戒・服務・研修について系統的に規定し、また評議会の審査に限定されない、「教授会の議」や教員本人の「意に反して」いるか否かも重要な身分保障の要件としているのである。こうした点をまったく無視しているから、【開示2】以下の深刻な問題を含む提案が示されることになる。

さらに国立大学法人における業務の公共性に鑑みれば職員においても、国家公務員法が保障する「身分保障」(74条1項、75条、78条、79条)、「意に反する不利益処分に対する不服申立権」(89〜92条)等が継承される必要がある。

 

【開示2】 5.職員の採用/教員の個別的人事(=適任者の選考)は、専門分野ごとに人事委員会(仮称)を設置し、その専門的能力を判断する仕組みとする。/事務系職員の採用については、共通試験に専ら依拠することなく、大学独自の審査で採用する仕組みを導入する方向で検討。

【分析2】この「検討結果」の案では、教員の採用の選考は「人事委員会」が行うとされていて、「教授会の議に基づき」という手続が保証されていない。たとえ「人事委員会」の設置を認めるとしても、その人事委員会の設置、人事委員の選出の基礎となる組織は何であろうか。「専門的能力を判断する」個別的人事について、各部局教授会程度の規模を越えた組織で、適切な選考が可能かどうか、真剣な検討を経た提案とは考えがたいものである。また事務系職員の採用で共通試験によらない「大学独自の審査」を提案しているが、その際には公務員試験の一般化以前に存在していた「縁故人事」「情実人事」に陥らないための公平性の担保が必要であるが、その点も真剣に検討したとは思われない唐突な提案である。

 

【開示3】 6.任期制/一定期間を区切って、教員の研究・教育実績を審査する趣旨での任期制を採用する方向とする。/審査に当たっては、研究重点型審査と教育重点型審査等に基準を分けて行う。/一部の分野においては、再任を限定する任期制を設ける。

【分析3】「大学の教員等の任期に関する法律」は、国立・公立・私立の大学の教員を適用対象にしており、国立大学法人の教員に適用するには、まず法律改正の手続が必要であるにもかかわらず、なぜこのような提案をこの時期に千葉大学の委員会WGが行うのであろうか。そもそも任期制に関する法律(以下、教員任期法)には問題が多いが、その教員任期法でも、任期制は先端的、学際的等の特性に基づき多様な人材の確保が特に求められる場合などと、適用についての限定を行っている。ところがこの「検討結果」は、「研究重点型審査と教育重点型審査等に基準を分けて行う」などと述べて、全教員に対する定年までの繰り返しの任期制適用を考えているようである。雇用継承を前提とする以上、このような任期制の導入は現行の教員任期法を逸脱し、「任命権者は、前項の規定により任期を定めて教員を任用する場合には、当該任用される者の同意を得なければならない」(4条2項)に反すると解される。すくなくとも任期制の導入を提案するのであれば、教員任期法との関係を明白にした上で、その目的・趣旨とそれを実現するためのシステムについて明確な提示を行い、全学の議に付すべきである。

 

【開示4】 7.勤務時間/教員についても、所定勤務時間(週40時間)を原則とする。/教員の自主的な研究時間の確保を図るために、差し当たりフレックスタイム制を導入する。/ただし、教育義務の履行を確保する等のため、より厳格な勤務時間管理の体制を設ける。

【分析4】勤務時間管理を行うのは当然だが時間の他者管理になじまない側面を持つ研究という労働の性格をよく検討して、フレックスタイム制の導入は提案されているのであろうか。「自主的な研究時間」は、所定勤務時間の内でのものか、外でのものか。届け出たフレックスタイムの時間外に大学で行われていた実験や研究を、「所定勤務時間」外のものとすると、事故などが生じた場合には、労災の対象とならないことが考えられるが、どのような措置を考えているのか。教員の勤務時間管理を考える場合も、教育公務員特例法で、「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めねばならない」とし、任命権者には研修に要する施設、研修奨励の方途、研修計画樹立の「実施に努めねばならない」としている考え方が参照されるべきである。

 

【開示5】 11.その他/専らマネジメントに携わる教員については、研究・教育にかかる負担を軽減させる。/研究に専念させる教員については、一定要件の下、教育義務一定の割合(もしくは全部)免除するとともに、教育重点型教員については、教育に専念する仕組みを設ける。/病院においては、研究・教育の外に、診療に専念することを可能とする仕組みを検討する。

【分析5】この提案は教員を、「研究に専念させる教員」と「教育に専念する」「教育重点型教員」に種別化するもののように考えられる。そうだとすれば、誰が(どのような機関が)、どのような基準にもとづき、研究、教育にそれぞれ「専念させる」教員を決定するのであろうか。そうした決定は、教員本人の「その意に反して」も行われるものであるのか。そもそも大学で、研究を行わない「教育に専念する」教員によって教育ができるのかが、まずもって問われるべきである。

 

 

【提言1】各教授会は、人事WGの「当面の検討結果」を議論し、意見・批判を法人化対応委員会に提出すべきである。

人事WGの文書は、教員の身分保障を瓦解させかねない深刻な問題点をはらみ、かつ実行の現実性が疑われるようなものである。こうした中間報告が、法人化対応委員会に出されていながら、11月18日現在、その内容を議論したのは、文学研究科の研究科委員会でのみと聞く。各教授会は、この文書を議題として、議論を行い、問題点を整理して、その意見を法人化対応委員会に提出し、WGの検討作業を是正させねばならない。またWGには、時流と考えたものにおもねって、思いつきのプランを提示するのではなく、大学の理念と現実をみつめた、実施の考え方を明確に示したプランの提示をもとめたい。

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法人化をめぐる現情勢をどうみるか

【資料1】国大協総会開催される

11月13-14日、国大協総会が開催された。その内容はまだ公表されていないので、詳細は不明であるが、報道等から推察すると、法人化の法的骨格や財務会計の基本設計などについては真剣な議論はなされなかったようである。今後、国大協執行部は5つの重要論点を提示するだけに留め、2月末に法案が提出されてもその賛否について審議する臨時総会さえも開催しない方針と伝えられている。

【資料2】白日のもとに曝け出された矛盾と問題点

独立行政法人反対首都圏ネットワークは11月13日「国大協総会は独法化を白紙に戻し、97年決議に立ち戻るべきである」との声明を発表した。その第2章「白日のもとに曝け出された矛盾と問題点」は現情勢を考える上で参考になるので、紹介する(一部省略)。

全文は、http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.htmlを見られたい

(1)なお定まらぬ法的枠組み

  国大協特別委員会では、10月25日という時点になってもなお、「現段階では国立大学の法人化に関する法的・制度的枠組みや財政的措置が必ずしも確定しておらず...」(第8回資料)と、法的枠組みも財政措置も未確定であることを認めている。

  第一に、設置者が国となるかどうかが問われている。これに伴い、学校教育法のいう大学という位置づけになるか、国の設置者責任があるかどうか、が問題となる。

  第二に、職員の身分継承がそのまま行われるのかどうか、が問題となる。先行独法では、そのすべて

において、個別法の附則2条で身分の承継がうたわれている。この附則が「国立大学法人法」においても規定されるのか否か、現実の身分継承が行われるのか、文科省は何らの方針も打ち出していない。

  第三に、「最終報告」では、学長選考委員会(仮称)が選考を行うことになっているが、具体的な仕組みがどのように法的に規定されるのか不明である。「法人化」後も、現行と同じく評議会による学長の選考方式を維持する、とする大学もあると聞く。

(2)大学崩壊の財務会計制度

1)想定される財務会計

  独法化ののち、運営費交付金はどう算出されるだろうか。おそらく、出発時点は03年度の配分予算に業務政策係数(1%の効率化=0.99)をかけたものとなるであろう。以下、「恣意的」に「複利方式」で毎年1%減が見込まれる。つまり、運営費交付金には、機械的な予算削減装置が埋め込まれている。

  さらに、大学内の配分については、「自主的」な運営という名の下に、学長・役員会の方針によるトップダウンの配分が可能となる。そうして配分された予算は、「国立大学法人会計基準」で処理を行う。評価が悪ければ負債(配分予算)は帳消し(収益化)にならず、次期の配分に影響を与える。これを避けるには、「一定の期間の経過を業務の進行とみな」さねばならない(8.22「会計基準中間報告」)ことになる。

2)自律的経営とは無縁な虚構の財政制度

  「運営費交付金の算定基準は、あくまで各大学の運営費交付金を算定する根拠を示したに過ぎず」(02.10.25財務会計対応グループ「論点メモ」)と述べられており、要するに「算定基準」なるものも虚構にすぎないことになる。これでは、「運営費交付金等についての予算を要求する際の基礎となる」(「最終報告」)はずの中期目標・中期計画は、事実上無意味となることが推定される。

  運営費交付金というシステムは、結局のところ大学側の国に対する予算請求(要求)権を認めないことを意味する。"運営費交付金は「渡し切り」だから、自由だとか自主的だ"というのは空騒ぎであり、「恣意的」な効率化係数の設定によって予算は削減されるから、減額された予算の分配方式については、事実上大学側の選択肢はないといってよい。あるいは、学長の恣意的な配分を許す、ということにもなりかねない。

  要するにこの財政制度によっては、財政的な自立は全く達成されず、しかも機械的配分か恣意的配分を行うしかなく、事後評価による収益化(バランス化)が中心となるため、実際上は経営能力も発揮されない、という状況が容易に予想できる。これは、独立行政法人財政に内在する根本的矛盾なのである。

(3)無意味な中期目標・中期計画策定作業

  このような状況の下で、現在各大学で進められている中期目標・中期計画の策定作業とはいったい何を意味するのだろうか。すでに独法化された機関では、中期目標・中期計画とまったく無関係に(削減された)運営費交付金が定められ、厖大な作業がほとんど無意味となったという現実が存在する。

 (4)雇用の不安定化と賃金抑制下で停滞が予想される教育・研究活動

  「最終報告」によれば、「国立大学法人」では、能力主義・成果主義に基づく人事システムの導入や、任期制の拡大、ワークシェアリング、パートタイム労働などによって雇用の不安定化が図られようとしている。賃金も人件費総額として管理されるから、全体として賃金が抑制される。しかも、第9回資料「各国立大学からの質問に対する回答(財務会計関係)」(02年11月文科省)によれば、定員外職員(日々雇用職員)等の賃金については「人件費としての積算は考えていない」として、現在と同じ物件費扱いの方針が示されている。これは、定員外職員への不当な差別を解消するための財政的保証を準備しないことを意味する。こうした状況のもとで「物質的インセンティヴ」によって競争を強いることは、教職員の士気を低め、相互不信と対立を招くことになろう。

(5)莫大な法人化費用

  旧7帝大のある大学では法人化準備に70数億円を計上し、概算要求を行うと伝えられている。全国立大学予算に占める同大学の割合を勘案すれば、法人化準備費用は全体で約千数百億円となる。これは、科学研究費補助金の年間予算にほぼ匹敵する。この膨大な金額をいったいどこが補償するのか。国が予算措置をするのであろうか。国から出ないとなれば、各大学の負担となる他ない。それで、移行期における教育研究の水準は維持できるのであろうか。

  しかも、文科省は、法人化によって、労働者災害補償保険料、雇用保険料、火災保険等損害保険料、医療事故に備えた保険料等の負担が新たに必要となるとしている。(第9回資料)これはいったいどれほどの額となるのか、見積もりを示すべきである。これは、大学が法人化することのみによる社会的負担の増大であり、保険会社等へのビジネス市場の提供であり、国民にとっては無駄な負担の増大ということになる。また、大学にとっては、研究、教育経費の純縮減を意味する。独法化とは、このような莫大な費用に見合うような制度とは到底考えられないのである。

(6)違法な準備作業強行で阻害される大学の本務

  法案の姿も見えていない現在、各大学では法人化の「準備作業」という名目で厖大な作業が強いられており、それが大学本来の業務を阻害する状況に至っている。例えば、承継物品目録の作成作業を見てみよう。とくに図書館関係の作業量は厖大であり、しかも短期間での作業が要求されている。わずか4か月で創設以来の原簿を目録化するよう命じられた図書館もある。

  しかも、このような作業に対して人的・予算的補償がまったく行われていない。法人化の準備作業については、そもそも法案が成立して初めて、その移行への準備などの費用を請求できよう。その作業を現段階で行うということは、通常の予算の枠内で人員・予算を使わざるを得ないということになる。これでは、大学の本務はやらなくともよい、ということなのだろうか。

 

国大協資料は北大総長室(http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/)をご覧ください