■問題だらけの承継物品目録作成作業/図書館職員部会ニュース(2002.11.15)

図書館職員部会ニュース 2002.11.15
 東京大学職員組合図書館職員部会発行
 (TEL/FAX: 03-3813-1565 )

問題だらけの承継物品目録作成作業

図書館における法人移行作業開始

 去る10月15日、総合図書館において全学の図書館・室を対象とした「承継物品目録作成に関する説明会」が開かれました。その時の配布資料には、「平成16年に予定されている国立大学法人化にともない、大学の資産を国立大学法人に承継するための目録を作成します…」(「承継物品目録作成のための図書原簿整備マニュアル」)と書かれており、全学の図書館・室に対し、法人化のための移行作業が要請されたことになります。

来年3月までに課された膨大な業務量

 図書資料に関する承継物品目録は、現行の図書原簿を整備した上で、それをコピーし電子ファイルとして作成するというものです。
承継物品目録作成のための具体的作業として、まず図書原簿の頁数の調査が行われ、次に年度毎の最初と最後の登記番号と紙の厚さを記載したリストの作成が、電子化への準備作業として行われました。そして整備後の図書原簿をもとに、来年3月14日までに年度毎の冊数と金額を計上したリスト(目録本体部分)を作成し、平成15年度から、原簿のコピーとそれをOCRで読み取って電子ファイル化する作業(目録の明細部分の作成)を始めるという計画になっています(そのため総合図書館では、平成14年度中にサンプルデータの電子化を行うとされています)。
 図書原簿の整備作業としては、学部・研究科の場合は、昭和53年度〜平成13年度分(大正12年度〜昭和52年度は総合図書館が行う)、研究所ならば創設時〜平成13年度分の図書原簿について、全ての除籍、管理換を確認し、もれているものは原簿に記載する。さらに現物との突合せによる紛失図書の処理等が指示されています。
これらを実行するには、学部・研究科は24年分、研究所では、古いところでは創設以来の100年分近い図書原簿にあたらねばならず、この作業に費やす労力は膨大なものになります。各図書館・室は、これらの作業を通常業務と平行しながら、4ヶ月余りで完了させなければならないことになります。 
 加えて、これまで各図書館・室の選択に任されていた受入システムへの参入が、ここへ来て来年度より「一斉参入」「例外を認めない」という方針に一方的に転換されました。平成15年度以降の受入れデータを全学一括して電子化すれば、承継物品目録にダイレクトに移行することができるわけで、これも「法人化準備」の一環です。

国立大学法人化を巡る情勢 - 文科省の最終報告路線の行き詰まり

 8月20日の国大協特別委員会において、「国立大学法人法案」は、1月閣議決定、即国会上程と説明されていました。ところが文教速報9月11日号(No.6367)は「法案の閣議決定は、大きな法案だけに半年後の三月にずれ込み、国会審議を経て、党の行革本部などとのカラミで、会期ギリギリの六月成立か?」と報じたのです。このような短期間でのスケジュール変更は、法案策定作業において多くの困難が生じていることを示しています。
 実際に文科省の最終報告に基づく法人化案は、「経費削減を効率的に行う構造を組み込みたい」という財務省の方針と齟齬が生じたり、設置形態に関して内閣法制局の異論が出ていると伝えられており、政府部内での合意も得られず、財界からは「産学連携の全面化のための法人化」「新産業創出機関化」の要求が押し付けられ、行き詰まっているのです。そして現在に至るまで依然として法案の骨格すら提示できない状態が続いています。
 また、「東京大学21世紀学術経営戦略会議 財務会計検討委員会報告書」(平成14年9月30日)によれば、平成14年3月26日に国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議の「新しい「国立大学法人」像について」(いわゆる「最終報告」)が提示されましたが、以後会計制度を除き具体的な制度化への進展がほとんどみられず、肝心な財務制度の詳細はいまだ不透明で、財務当局との協議の必要性等の理由から、財務制度の公表は早くても平成14年度末とされている旨が記されています。これは、そもそも大学に適用不可能な独立行政法人化とその会計基準を無理矢理持ち込もうとしていることにより、不可避的に生じざるを得ない困難によるものです。

「国立大学法人法」の法案の形もなく、国会承認もされていない現段階で承継目録作成作業に着手することの問題点

1. 目録作成作業および作業にかかる費用は法的な裏づけがない。
 前述の説明会において、図書館当局は「法案成立は5月頃か?と言われていて、法的根拠はない。しかし、法案成立してから作業していては間に合わない。会計基準も中間報告しか出ていないがそれにより準備するしかない。来年の6月の時点でリストが出せれば問題はないが...。これまでは物品管理だったのが、固定資産として管理しなければならなくなる、本来であれば日々の業務でつかんでいるはずのもの」等々と説明しました。

●作業期限が来年3月14日という問題
 かりに図書原簿の整備作業の部分は、国立大学としての物品管理、整理作業と位置付けたとしても、50年100年の間に積み残された仕事をこの4ヶ月に処理せよというのは途方もない無理難題です。通常業務のほかに法人化準備という膨大な作業が職員に課せられれば、利用者サービスが疎かになることは必至です。
●法案成立後に行うべき作業(その1)
 今年度中の作業とされている図書原簿の頁数と紙の厚さ、年度毎の最初と最後の登記番号の調査、および整備後の図書原簿により年度毎の登録冊数と金額を計上したリスト(目録本体部分)の作成作業は承継目録作成そのもので、法人移行期(国会承認後から施行の前後まで)に行うべき作業です。([注]参照)
●法案成立後に行うべき作業(その2)
 平成15年から着手(総合図書館で平成14年度中にサンプルデータの電子化)すると説明された電子媒体での承継物品目録(明細書の部分)作成作業も、むろん法人移行期に行うべき作業です。([注]参照)

[注] 「東京大学21世紀学術経営戦略会議 財務会計検討委員会報告書」 3頁
    II. 資産 1.基本財産の整理
(移行時の措置)
(1) 数字出資対象財産の整理 
財産の現況調査および整理、並びに財産目録の作成
(中略)
(4)承継物品の確定 
物品の現物確認および数量、金額の把握など

 これらの点から、「国立大学として必要な業務」という当局の説明にはごまかしがあります。
 「法人化対策」と「法人移行作業」とは区別されるべきものです。平成14年度から始めている承継物品目録の作成作業は、「法人移行作業」であり、法人化が動かぬものとなって初めて着手すべき作業です。それを、「国立大学法人法」の形もなく、国会承認はおろか上程の日時すら不確定な状況下で着手するということは、法的な根拠の全くない作業を職員に課していることになります。
 「『通ってから』などと言っていると時間的制約は一層厳しくなって、超過勤務、泊り込みも強いられるかもしれない。」といった不安が職員サイドにもあることは事実ですが、だからと言ってそれにかこつけて「国会や法を無視して」行動を起こして良いということになるでしょうか?
 そもそも「国立大学法人化」は、職員にとっては雇用不安と労働条件改悪をもたらす「リストラ」であり、大学の研究・教育活動の低下をもたらすものであることはさまざまな角度から指摘されているものです。そのような「望まない法人化」であるのに、私たちにとって「法を逸脱してまで法人化移行作業を進める意味」がどこにあるのでしょうか?むしろそのことによって「望まない法人化」が動かぬ事実とされてしまうだけではないでしょうか。

2.法人化を既成事実化する意図がある。
 この承継目録作成作業は事務サイドだけで進められ、図書館行政の最高決定機関である行政商議会での議論を経ることなく、幹事会等でも諮られることなく、事務当局レベルで決定され下ろされたという事実は、「最終報告」が求めるトップダウン型経営が貫徹された後の大学経営の姿を彷彿させます。
 また、ひたすら既成事実を積み重ねることによって、職員のなかに法人化反対の機運を弱め、あきらめさせるために意図的にどこかが画策していることが感じられます。

3.作業が無駄になる可能性も皆無ではない。
 前述のように、法案上程の日時すら不確定な状況下で、承継目録作成作業を行うということは、その作業と費用が無駄になってしまう可能性を否定することはできません。

4.国民へ説明できるのか?
 承継目録作成にはお金がかかります。OCRでの電子化作業だけでも、1億円位かかるという話も聞きます。手書きの文字を読み取るのは大変な作業です。法案決定後ならまだしも、法案策定すらされていない現時点で、法人化準備への支出は何を根拠に行うのでしょうか。さらに、法的根拠のない作業に職員を従事させ、本来の業務に支障をきたしかねない状況を作ること、これらについて、大学は国民にどう説明するのでしょうか?
 ごく最近入手した情報によると、先行して独立行政法人化されたいくつかの機関では、会計制度上で図書は「承継後資産としない」ことと決め、承継物品目録は作っていないのです。全て消耗品として、帳簿・データはそのまま引き続き使っているとのことです。平成13年3月の承継時には、備品登録をしていた図書の数のみを『引継書』として取り交わしただけなのです。  なぜ国立大学はこの事例に学ばず、膨大な労力を職員に課し、巨額の無駄なお金を使おうとするのでしょうか?これら先行機関のとった方法は、国民に対する説明責任という点から考えても、利用者サービスに役立つ訳でもない膨大な労力と支出を防ぐための措置として、極めて重要な示唆を与えてくれます。

東大職組の緊急申し入れ書
 東大職組は、10月16日に佐々木総長と梶野事務局長宛に緊急申し入れ書を提出しました。そのなかで法人化準備作業について下記の要求をしています。

1.国立大学法人化準備過程に関して
 (1) 略
 (2)「国立大学法人化における承継物品目録の作成」作業の早急な実施が提起されているが、その計画を誰がどのような根拠で決定したかを明らかにすること。
 (3)国立大学法人化に向けた準備作業が開始されているが、法案策定の見通しすらたっていない状況下、準備作業の多くは法に基づかない付加労働というべきものであり、直ちに中止すること。

 現時点で、この申し入れに対し大学当局からの回答はありません。当局は即刻回答を!

理不尽な状況に声をあげていこう

 大学における教学と経営を切り離し、トップダウン型の経営を貫徹、さらに、それまでの議論を翻して突然職員の非公務員化を盛り込んだ「最終報告」は、大学の教育研究を滅ぼしかねない大変な問題を孕んでいます。しかもその「最終報告」の路線すら不確定になっており、財務省・経済産業省や財界からの要求により、さらに悪い内容で法案が作成される可能性が大である現状を、私たちははっきりと認識する必要があります。
 このまま黙っていれば、スパイラル状に惨い状態が生み出されるばかりです。今私たちがやらなければならないことは、私たちの雇用と労働条件、大学の研究教育に悲惨な状態を生み出す「国立大学法人化という名のリストラ」に反対の声をあげることではないでしょうか。今なら間に合うのです。少なくとも、法案可決前に移行作業(法人化の既成事実化)に駆り出されることの理不尽さを、一人一人がしっかりと主張すべきではないでしょうか。


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