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独行法反対首都圏ネットワーク

☆群大教育学部移転問題の論点
   [he-forum 4633] 上毛新聞10/29
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『上毛新聞』2002年10月29日付

群大教育学部移転問題の論点
 

 「県の教育にマイナスになることはしない」と強調する赤岩学長(右)「教
育学部の移転問題は、本県教育の一大危機。県民の皆さんに署名に協力してほ
しい」と語る坂西代表(左)

 群馬大と埼玉大の統合問題で、群馬大教育学部のさいたま市への移転案が打
ち出され、波紋を投げかけている。大学当局が各方面で説明を行い、統合に向
けた準備を進める一方、同学部同窓会や附属校園PTAなどからなる「群馬に
教育学部を残す会」は移転反対の署名運動を行い、白紙撤回を求めている。
「県の教育にマイナスになることはしない」と強調する赤岩英夫学長に対して、
本県における同学部の役割の重要性を訴える同会代表の坂西輝雄元県教育長。
両氏の主張を聞いた。

◎県教育への貢献変わらず

群馬大学長 赤岩英夫氏

―埼玉大との統合の目的は何なのか。

 「二十一世紀は、前世紀の専門化、細分化された学問体系から脱却し、総合
的な物の見方が必要だと考えている。昨年、文部科学省が示した『大学の構造
改革の方針』は、総合大学を目指す本学の理念に合致する面もあり、今年一月
から学長懇談会で統合を検討してきた。もともと、群馬大は実学、埼玉大は人
文系の学問に強い。それぞれが足りない部分を補完することで教育施設として
の大学の充実が可能になる。統合により、歳出予算額の合計は国立大で全国十
位前後、旧帝大に次ぐ規模になる。他大学との競争に勝ち残り、地域貢献を果
たすために必要だと考える」

―教育学部移転と新学部についてどう考えるか。

 「群馬大教育学部の定員は二百二十人で、文部科学省の『今後の国立の教員
養成系大学・学部の在り方に関する懇談会』の答申にある適正な規模(三百五
十人)を下回る。このまま放置すれば近隣地方大学との強制的な統合を余儀な
くされ、附属校存続の危機にもつながる。苦渋の選択であった。荒牧キャンパ
スには文理融合型の『総合科学部(仮称)』を新設し、理科系を中心とした幅
広い教養を身に付けさせるとともに、現職教員の再教育機能を整備する。附属
校は教育研修施設としての役割も大きく、存続は学長懇談会で決定している。
県の教育にマイナスになることはしないつもりだ」

―教育学部附属校園PTAや学部同窓会による反対運動についてどう思うか。

 「新教育学部の設置場所を埼玉・大久保キャンパスとするだけで、本学の教
育学部が吸収されるわけではない。多少の不便さはあるにせよ、群馬・埼玉両
県に等しく教員養成を行うことはできると考える。子供を地元の大学に通わせ
たいという親の気持ちも分かるが、一度郷土を離れるのも貴重な経験となり、
地元への愛着も強くなるのではないか。反対運動の代表には直接説明をする機
会を設けたい」

―今後の再編・統合に関する進め方は。

 「県教委への説明を行い、理解を求めた後、両学長による懇談会で裁定を行
う。その後、両大学の評議会の審議を経て統合協議会を発足させる予定だ。統
合協議会では、県民の方々から要望を聞くなどして、新大学の具体的な将来像
を描いていきたい」

◎大学の情報信頼できず

群馬に教育学部を残す会代表 坂西輝雄氏

―教育学部の移転構想をどう受け止めるか。

 「キツネにつままれた感じであり、情報不足に悩んでいる。同じ移転問題を
抱え、既に多くの署名とともに文部科学省に存続を要請した高知、山形県など
に比べ、本県は群馬大の非公開主義によって大きく立ち遅れているのが実情だ。
一九四八年の群馬大設置の際は、知事を会長とする期成同盟会が置かれ、全県
挙げて支援した経緯もある。まさに県民あっての群馬大であり、画一的な統合
再編は避けて地域の声を聞くべきだ。大学が決めたのだから言うことを聞け、
という姿勢は納得できないし、既定の事実のように出される大学側の情報も信
頼するわけにはいかない」

―計画の白紙撤回を求める理由は。

 「教育はいかなるものにも優先すべき施策。心の教育が重視される今、財政
再建のためならやるべきことは他にある。地元に根っこを持った教師は必要で
あり、古里を愛する心は古里を愛する教師によって培われる。教育学部出身者
は県内教員の多くを占めており、貢献度は高い。群馬の教育の灯を消すな、と
いうのが残す会と賛同団体の一致した願いだ。その長い歴史と伝統が踏みにじ
られるのは、本県教育の一大危機にほかならない」

―県や県教委に対しての要望は。

 「子どもたちの教育の将来を憂えるという観点から、拙速に陥ることなく、
県民全体の問題として十分な検討が必要。統合問題を考える際も『子どもを育
てるなら群馬県』を標榜する教育県群馬にふさわしい、県民が納得できる成果
が得られることが大切だと思う。そうした意味から県、県教委として、もっと
積極的にこの問題に関与するよう陳情した。こちらも残す会の動きを随時報告
するなど、県との連絡は密にしている」

―署名運動を始めたが、今後の方針は。

 「署名は残す会、附属校園PTA、同窓会が中心となり、賛同二十四団体の
協力を得て行っている。学校などにも用紙を郵送しており、私も企業などを回っ
ているが、皆さん協力してくれてありがたい。十万人を目標に署名を集め、県
と国に持ち込んで白紙撤回につなげたい。本県教育は今、衰退の道をたどるか、
伝統を維持できるかの分水嶺(れい)に立たされている。是非、県民の皆さん
の支援をいただきたい」

◎前橋市長に存続を陳情 群馬に教育学部を残す会

 群馬大教育学部の移転問題で「群馬に教育学部を残す会」の坂西輝雄代表ら
は二十八日、前橋市役所を訪れ、萩原弥惣治市長と桜井直紀教育長に教育学部
存続についての陳情書を提出した。

 陳情書では、教育学部の移転は市の教育の進展にも水を差すと指摘。国立の
大学とはいえ、市民の群馬大に対する親愛の情を無視した改革はありえない、
などとして市に対して同問題に積極的に関与するよう要望している。

 陳情書を受け取った萩原市長は「教授会の決定であり、移転への賛否は差し
控えたい」とした上で、「下宿やアパートなど地域経済への影響を心配してい
る。(荒牧キャンパスの)学生数を減らさないというのが原点だ」と市の立場
を説明した。

 残す会側は教育学部の果たす役割などを強調。経済問題とは別に、教育の観
点から市の関与を求めたのに対し、萩原市長は「市の立場で論議し、重大な関
心を持って見守っていきたい」と答えた。


◎統合へ賛否、現時点で留保 小寺知事 

 小寺弘之知事は二十八日の定例会見で、群馬大と埼玉大の統合問題について
「構想そのものがはっきりしているわけではない」と述べ、現時点で統合への
賛否などの見解は留保する考えを示した。

 統合問題をめぐって小寺知事は二十二日、赤岩英生群馬大学長から大学の将
来像の構想について説明を受け、「慎重に対応しなければならない」とのコメ
ントを発表している。定例会見では県の対応について、新学部の具体像が固まっ
ていないことも含め「今の段階で(大学側に)はい分かりましたと言うことで
はない」とも語った。