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独行法反対首都圏ネットワーク

☆記事紹介「評価関連法案の問題点」
 [he-forum 4627] 記事紹介「評価関連法案の問題点」 
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大学に関心のある方々へ

臨時国会に提出された「学校教育法の一部を改正する法律案」(*1)の内容は、
些細な規制緩和を理由に、私立大学への行政監督権が異様に強化される点は、
国公立大学の独立行政法人化と全く同じです。国公私の区別なく、大学全体を
行政の強い管理下に置くことは、日本の大学全体に深刻な悪影響があることを
日本社会に警告する義務が、大学関係者にはあると思います。

評価関連法律案を吟味し批判した記事(*2)がありましたので、ご紹介します。

辻下 徹
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(*1) 学校教育法の一部を改正する法律案 :
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/houan/09/021018/gakkou_h.html

「学校教育法の一部を改正する法律案の概要」より、評価に関する部分:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/houan/09/021018/gakkou_g.html
「○設置認可制度の見直し
現行:  学部等の設置は全て国が認可
改正後:授与する学位の種類・分野を変更しないなど一定の用件を満たす学部
等の設置については認可不要(届出制に移行)

○大学に対する第三者評価制度の導入
現行:  大学設置後の質の保証は自己点検・評価など各大学の自己努力
改正後:大学関係者等による評価機関(国が認証)が、
 (1)大学の全学的な教育研究等の状況
 (2)専門職大学院の状況(各分野ごと)
について定期的に評価・公表

○違法状態の大学に対する是正
現行:  私立大学に対する是正措置は「学校閉鎖命令」のみ
改正後:
 ・大学の自主性を尊重し,改善勧告・変更命令など段階的な是正措置を整備
 ・事前に審議会に諮問
※ 施行期日は,平成15年4月1日(第三者評価制度の導入は,平成16年
4月1日)」
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(*2) 教育学術新聞2002.10.23 アルカディア学報 95 私学高等教育研究所より

           評価関連法案の問題点--学校教育法一部改正について
                喜多村和之(私学高等教育研究所主幹)

中央教育審議会は、去る八月五日の答申「大学の質の保証に係る新たなシステ
ムの構築について」において、大学に対する第三者による評価制度の導入等の
提言を行った。文科省はただちにこれを法案化し、十月中旬から始まった臨時
国会に提出した。この「学枚教育法の一部を改正する法律案」は、その他に学
部等の設置認可制度の見直し、違法状態の大学に対する是正措置、専門職大学
院制度の創設など、今後の高等教育に重大な影響を及ぼす一連の諸変革とセッ
トになった変革を意図したものである。同省は平成十五年四月一日からの施行
(但し第三者評価制度の導入は同十六年四月)をめざしており、臨時国会審議
の期間は十二月中旬までのわずかにしか過ぎない。同省が急ぐのはそれなりの
意図があってのことだろうが、筆者はこの法案はいくつかの点で重大な間題を
孕むんでいると考えるので、ここでは特に大学評価の問題にしぼって問題を提
起したい。

第一の問題は、これまで省令に規定されていた大学評価の問題を法律レベルに
上げて規定し、大学による自己評価を学校教育法上に位置付け、さらに第三者
による評価を国公私大に共通かつ画一的に義務化していることである。法律化
によって評価の義務付けが正当化され、これを怠れば違法となり、したがって
届け出の義務、文科相への報告の義務、認証の取消等々の罰則や制裁等が規定
されることにつながる。評価以外にも大学の法令違反に対する罰則などを規定
する一連の法律案が同時にまとまって提出された所以であろう。中教審答申で
もなぜすべての大学に第三者評価が義務付けられるのか、かならずしも明確で
はなかったが、法案は大学に一律的に自己評価と第三者評価を求めている。も
し第三者評価が納税者への説明責任の履行を果たすための義務化であるならば、
税金に大きく依存している国・公立大学と、学生納付金に大きく依存している
私学とを、一部公費援助を受けているということで、一律・画一的に第三者評
価を義務付けるのはどうかという疑問が残るが、いずれにしても私学にも第三
者評価が義務付けられ、受けなければ法に触れることになるのである。

第二に、法案では、大学は文部科学大臣の認証を受けた評価機関(「認証評価
機関」)による評価(「認証評価」)を受けるものとするとある。しかし第三
者評価がなぜ国の認証した評価機関に限られなければならないのかの理由が明
らかでない。おそらく野放図にどんな評価機関でもよいとするえのでは評価機
関の質を維持できないという理由かと思われるが、事実上これは国が評価機関
の認証権を握るということであって、多様で多元的な評価機関をよしとする考
え方とは対立するものではないか。また、国の認証するもの以外の評価機関の
評価を受けた場合は、国は行政上どのような扱いにするのかも不明である。

第三に認証評価機関による評価は「認証評価」というとあるが、その場合、
「認証評価」の内容をどう解すべきかという問題である。一般に「認証評価」
という行為の内容には、(1)「認証」と「評価」を異質な行為と解して区分し、
それぞれ異質な役割や権限があるとする場合。たとえば「認証」は基準を満た
しているか否かの二者択一的判定や設置認可などの場合。「評価」は一定の基
準または目的をどこまで達成しているかの程度や水準の測定、または改善の必
要度の提示など。(2)「認証」と「評価」という行為は特に区別せず、「認証
評価」という統合的ないし一体的な役割や権限をもつとする場合。(3)「認証」
と「評価」のいずれでも可とする場合。(4)「認証評価」の内容はいっさい行
政として関与しないとする場合、など、さまざまな解釈が可能である。この法
案においてはどのような解釈をとるべきなのか明らかでない。もし、どのよう
にでも解釈できる玉虫色の用語であれば、今後に重大な問題を残すことになる
のではないか。

第四に、法案によれば、認証評価機関の認証権は同省大臣にあり、評価基準、
評価方法、評価体割、異議申し立て制度、法人格の所有、等々の条件が具備さ
れていることが必要で、その細目は同省大臣が定めるとある。このことは政府
が第三者評価機関の許認可権を実質的に握っていることを意味しており、少な
くとも細目が発表されるまではどのような条件が要求されるのか不明であり、
細目が決められたあとはすべてそれに従わなければ「認証評価機関」になれな
いことにもなる。これでは設置認可という事前規制を緩和して事後評価を重視
するというこれまでの流れとは、第三者評価機関に限っては逆行していること
にならないのだろうか。そもそもなぜ同省大臣が評価機関の認証条件にまで介
入してくる必要があるのだろうか。また認証条件の細目たる「機関認証基準」
はいつごろ決められるのかわからないが、その内容を見極めるまでは認証評価
機関に申請を予定している団体は、十分慎重な態度で臨むべきであろう。

第五に「認証評価機関」は一定の事項の変更(大学評価基準の変更等)を行う
場合、あらかじめ、同省大臣に届け出るものとするとある。しかし新設の第三
者評価機関においては、基準や手続き等をたえず改定し、あるいは試行実験を
行うことが必要となり、基準の変更等は頻繁に行われる可能性が高いと予想さ
れる。諸外国の評価の事例でも数年から数十年の経験や試行を経て漸進的に評
価システムが形成されるのが普通である。したがって、この場合の「基準の変
更」とは、どの程度の変更を言うのか、たとえば軽微な改訂をも合めるのか。
さらにこの場合の「届け出」とは具体的にどのような手続きを要するのか、あ
るいは同省大臣の承認を必要とするものなのだろうか。

第六に、「文部科学大臣が、認証評価機関が機関認証機関に適合しなくなった
と認めるとき等」には、改善を求め、あるいは認証を取り消すことが出来ると
法案にはある。それは具体的にどのような場合を想定されているのか不明であ
るが、認証評価機関は常に政府の監督ないし評価を意識せざるを得なくなるだ
ろうし、政府は最終的な解散権を保持しているということにもなろう。

第七に認証評価機関が行った評価結果について、もし事後に問題が生じた場合
(例えば、認証評価機関が認証評価した学校の質にクレーム等がついた場合)、
その責任は誰が、どのようにとることになるのか。直接的には認証評価機関が
負うべきものであるが、行政側の責任はどうなるのだろうか。これは行政は実
質的な評価の行為や結果の貴任を負わず、もっぱら評価機関の自己責任に委ね
るが、その評価機関の設置と廃止の権限は政府が確保するという構造ではない
だろうか。

いずれにしても、この法案は幾多の問題点や暖昧な面があり、場合によっては、
天野郁夫氏が指摘しているように「認証評価機関を通じた国家による教育統制
につながる恐れ」(朝日新聞平成14年十月二十一日付)もある。こうした疑
問点は法案審議の過程で明らかにされるべきである。また、認証評価機関に申
請を考えている大学団体や高等教育関係者は、後に問題を残さないように、十
分慎重にこの法案を検討すべきであると考える。
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