独行法情報速報

No.20

特集:拡がる混迷、深まる矛盾

 

2002.10.16 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局

http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/

【開示1】

 

(1)法案閣議決定は3月の見込み

「法案の閣議決定は、大きな法案だけに半年後の三月にずれ込み、国会審議を経て、 党の行革本部などとのカラミで、会期ギリギリの六月成立か?役員数や運営組織等の概要は、法案提出のタイミングでおおよそわかることになる。」「文教速報」911日号(No.6367http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/020922syutoken.htm

(2)「平成16年度は概算要求を行なう」(東大執行部)

東大執行部は9月同大学の学部長研究所長会議で「H16年度も(東大では)概算要求を行なう」と言明した。この内容は同大学の各部局教授会で報告されている。

 

【分析1】拡がる混迷のなか、具体的内容抜きで04年法制的移行を企図

 

(1)は文科省が当初考えていたスケジュールが狂い始めたことを示している。国立大学法人法案の閣議決定が3月と想定されているが、重要法案であれば議会における民主的ルールからして通常国会冒頭に上程されるべきものである。それが出来ないのは、この間の準備作業の中で矛盾が激化し、法案作成作業そのものが遅れているからではないのか。さらに、例え上程しても03年通常国会では、議論を積み重ねなければならない有事法制などの審議が予定されており、また4月には統一地方選挙が実施される。国立大学法人法案への反対運動も当然予想され、同案の会期末成立さえ不確実なのではないか。(2)はそうした事態を受け、「044月に法人化が間に合うかどうか疑わしいし、例え間に合っても移行期間があるだろう。そのため、中期目標・中期計画があっても若干の期間は従来通りの概算要求方式でいくことになろう。」という認識に基づくものと思われる。実際、ある文科省幹部は、「法案作成までが第1期、16331日までが法制整備の第2期、同41日以降が具体的内容づくりの第3期」と発言しており、準備不十分のままの法人移行を容認している。文科省は、内容的準備もなく、制度設計も煮詰まらない状況で、ひたすら形だけ独法化を進めようとしているように見受けられる。

 

【開示2】

 

(1)国立大学の法人化に関する法制的検討上の重要論点(案)

標記の文書国大協の第7回国立大学法人化特別委員会(9月20日)で標記の文書が資料として配布された(http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/021012upkokudaikyou-0920.htm)。5つの重要論点が列挙されているが、注目されるのは第2項である。

2 法人化後の国立大学に関する学校教育法上の設置者は国であるとの基本的な枠組みは堅持する必要があること。学校教育法上の設置者は国であるとの法制的な整理は可能であり、法人化後の国立大学に対する国の設置者としての責任の明確化の観点からも必要であること。」

(2)新国立大学法骨格案』(『東大案』)

10月8日開催の東京大学21世紀学術経営戦略会議(UT21)全体会で資料として配布された(http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/toudaihoujiann0201008.htm)。国立学校教育法に根拠を置いて設置者を国とすることを明記した上で、評議会権限の強化、学長選考手続きの2点について文科省『最終報告』の枠組みの変更を求めていると思われる。

(3)『「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」(中間報告)』

8月22日文科省「国立大学法人」会計基準等検討会議が作成したものである。《第11章 国立大学法人固有の会計処理》が注目される。そのなか、「教育・研究という業務の実施に関しては、一般に進行度の客観的な測定が困難であるため、...一定の期間の経過を業務の進行とみなし、運営費交付金及び授業料債務を収益化する」(下線、引用者)と指摘。

http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/kaikeikijun020822.pdf」

 

【分析2】破綻する文科省『最終報告』

端的に言って文科省『最終報告』の路線が破綻しつつあることである。

第1に、(1)の背景は、『最終報告』の「国を設置者とする」という法的枠組の基礎が、政府部内で了承を得られていないことにある。実際、文科省清水審議官は第7回国立大学法人化特別委員会で「法人化後の大学の設置者については、学校教育法上は国を設置者とすることで努力していきたい」(下線引用者http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/hojin-tokubetu-iinkai140920.htm)との発言している。このことは、国を設置者とすることが政府部内で合意に至っていないことを示している。東大のUT21における議論によれば、「各大学法人を設置し管理する設置・管理法人を国が設置する、即ち、各大学法人の設置者は国ではなく、国が設置する法人とする」案が内閣法制局から示されている。この案は、経営と教学の組織的分離をもたらし、しかも財務省からの予算配分削減を容易にするものであり、絶対に容認できないものである。

第2に、法人化後の管理運営体制について、(2)の『東大案』は、事実上文科省『最終報告』の枠組変更を求めている。部分的ではあれ、『最終報告』の内容が大学側から拒否されたことの意味は大きい。

第3に、(3)の引用文下線部は本来の独行法会計制度とはなじまないものであり、当然のことながら、総務省・財務省等から強い反発が予想される。独行法会計基準を大学に適用することは原理的に不可能であることを、『会計基準中間報告』は示しているといえよう。

さらに以下の諸点が重要である。

1)『最終報告』によれば、予算措置の手法の基本は「中期計画において計画期間中の予算額確定のためのルールを定め」る「ルール型」とするとしている。さらに、「運営費交付金等の算定・配分の基準や方法を予め大学及び国民に対して明確にする」とある。しかし、このような議論を欠いたまま各大学で続けられている中期目標・中期計画準備作業について、財務省サイドは運営費交付金算定基準が不明として否定的見解を表明していると伝えられている。

2)雇用継承も確定ではない

文科省は、雇用は継承されるとしているが、それが政府の意志として決定されてはいない。かつて公務員型の独行法を繰り返し主張して文科省が非公務員化を何の抵抗もせずに受け入れた経緯をみれば、前言が翻されるか、と懸念を抱くのは当然であろう。国家財政の破綻が加速している現在、員数削減要求が総務省・財務省から強要される可能性は十分ある。

3)膨大な予算を伴う法人化準備

国立大学の非公務員型独法化に伴い、新たに膨大な予算が必要となる。労働安全衛生法対応の労働環境整備がなされなければならない。さらには、敷地測量経費、雇用保険、国家賠償に代わる保険などなど、加えて新システムに対応する新たな財務処理ソフト...。一体、現在の国家財政状況でこれらの予算を用意できるのであろうか。

国立大学独法化が行革さらには小泉流「構造改革」の論理によって要求されるなかで、その論理に対する根本的批判を常に回避し、矮小かつ姑息な方針対置と妥協を重ねた文科省国大協執行部が、その「最後の一線」と考えた「歯止め」(各大学法人の設置者は国、全員の雇用継承など)さえも危機にさらされていることを意味している。また、管理運営や、会計基準については、内部から事実上枠組変更の要求が出ているのである。まさに、『最終報告』は破綻しているのである。

 

【提言1】

破綻した『最終報告』路線にしがみつくことは、混迷をさらに拡げ、取り返しのつかない泥沼に大学を導く。

第1に、各大学は文科省や国大協執行部追従の路線を止め、自律的政策決定のできる有能な大学執行部を構築し、大学自治の主体を再建する必要がある。

第2に、その上で、原点に立ち返り独法化を白紙に戻すことを国大協ならびに文科省に勇気をもって要求することが必要である。

 

【開示3】法人化対応委員会を設置、学長特別補佐7名を任命――千葉大学執行部新体制

9月19日の評議会で、「これまでの将来計画検討委員会を発展的に解消して、大学法人化対応委員会を作る。メンバーは前委員会と同じ(学長・副学長・外国語センターを除く部局の部局長)」、対応委員会の中を「制度設計専門委員会」(組織業務、目標評価、人事、財務、病院のWG)と「対策専門委員会」(組織改革推進、財務改善、教育研究拠点支援WG)に分けて、作業をする/中期目標・中期計画については「間もなく中期目標設定委員会(仮)を作って」、現在の目標評価WGで各部局の案の集成とWGの案の作成を行い、それを新委員会に提出する、こととなった。また、また8月から1年の任期で特別補佐7名が任命されたことが報告された。その担当・氏名・所属部局は、以下のとおり。渉外:遠藤美光(法経)、入試:斉藤制海(工)、広報:明石要一(教育)、財務:松田忠三(法経)、施設:服部岑生(自然科学)、目標・評価:山口正恒(工)、国際:山浦晶(医学)。

 

【分析3】意味不明の組織いじり、全学の意見集約への配慮の欠如

 

「法人化対応委員会」の設置は、名称変更のほかの如何なる意味を持つものであろうか。また委員会の中の専門委員会を、「制度設計」と「対策」の委員会に分け、現在の5WGが「制度設計」に属し、新たに「対策」の専門委員会として3WGが加わるようであるが、それはどういう意味があるのだろうか、どのように運営を行おうというのか、理解不可能である。近年の大学運営、特に委員会運営の問題点の第1は、次々に新しい委員会が組織されるが、その委員会で検討された事柄の結論、全学のその時点での共通了解が明確に確認されないまま、次の新しい委員会が組織されるという事態の繰り返しで、委員を担当した教官などに、大学運営へのアパシーがひろがっている事である。教員システムについて検討し、報告答申をしたのか、活動を終了したのか、していないのかあいまいな教員組織検討委員会など、その典型的事例である。第2は、こうした結果として委員会の目的・任務があいまいになり、委員会の間での業務の分担と協力の体制が弱まっていることである。8月に部局に提出がもとめられた中期目標・計画記入様式をみても、「業務運営の改善に関する目標」「財務内容の改善に関する目標」はほとんど文科省最終報告の「記載例」そのままであり、目標・評価WG以外のWGが協力し、その活動結果が反映したとは考えがたい。5つのWGでも連携が困難になっているのに、8つものWGにして、どのように運営をはかるのであろうか。第3は、全学の意見を集約しつつ計画を作成するための配慮が、著しく欠けてきていることである。将来計画委員会の5つのWGのメンバーが、全学部をふくむように構成されていないことへの、不満・批判はあちこちでささやかれている。今回の学長特別補佐のメンバー構成の偏りがはなはだしいとの、批判を生じさせることは免れがたいであろう。

 

【開示4】目標・評価WGの中期目標・計画の作成作業

8月に各部局へ、計画の記載提出を求めた目標・評価WGは、9月19日の会議で各部局の記載の取りまとめと、目標・計画の項目整理の作業にはいった。記載提出にあたり、コメント・要望が、文・理・園芸・自然科学・メディア基盤センター・環境リモートセンターから出されている。WGの今後のスケジュール予定は、以下のとおりであるが、1015日現在のところ部局に再検討依頼はきていない。

9月25日までにWG委員担当部分の再検討・修正提出→他大学を参考に不足項目等の洗い出し(事務)→9月27日WG会議→学長・副学長・事務局長にWG案提示・検討依頼→107日WG会議→部局に再検討依頼→WG会議、部局案の検討・WG試案の再検討、WG試案の決定→大学法人化対応委員会に提出。

 

【分析4】「千葉大学の将来構想II」をベースにした中期目標・計画の作成は、運営交付金の算定の基礎にならない欠陥「目標・計画」の策定になる可能性が大きい。

 

WGから提示された「中期目標・計画」の「記入様式」は、「将来構想U」と最終報告の「記載例」を組み合わせた項目編成であるため、運営費交付金の交付額算定の基準にならないという根本的欠陥をもつと、本速報第19号で指摘した。各部局から目標・計画の補足が行われた9月19日の「記入様式」においても、WGの作成した「記入様式」に従っての補足であるため、この根本的欠陥は解決されていない。基本的問題を再論する。中期目標・計画は、財務的には運営費交付金の算定の基礎とされるものである。独立行政法人化された場合の財務は、どのように行われるかがほとんど不明の状況にあるので、論じがたい問題が多いのであるが、少なくとも運営費交付金の構造・算出方法では、標準運営費交付金と特定運営費交付金の2層構造とすると言われている。したがって中期目標・計画は、標準的運営費交付金算出の基礎となる大学の基本的業務の中期目標・計画と、また特定運営費交付金の対象となると考えられる新規業務の中期目標・計画の、両方をその改善の方策とともに含むものでなければならないはずである。ところが「将来構想U」は将来構想であるがゆえに、新規業務の目的・計画にのみ傾いていて、全体的な「中期目標・計画」のベースになりがたいものなのである。WGが8月に部局に提示した「記入様式」の項目編成は、従来の新規概算要求の延長線上の発想にあり、こうした点での根本的欠陥をもっていた。この基本点が修正されなければ、現在の中期目標・計画の作成作業は、壮大な無駄な時間の浪費になる可能性が高い。

 

【提言2】現状においては、個々の細かい計画を考えるよりも、千葉大学および各部局の基本理念・目的の明確化と、その業務計画の整理明確化の作業を進めるべきである。

 

WGが、標準的運営費交付金、特定運営費交付金の両方の算出をにらんだ項目編成に修正をはかっても、現在の財務がどのように行われるかは不明の状況では、また【開示1】【開示2】で示したように、法人化についての「最終報告」の枠組みが揺らいでいる状況では、個々の細かい計画を成文化しても意味がどれほどあるかは疑わしい。「最終報告」の「記載例」にあわせて成文化を図るのではなく、千葉大学および各部局の基本理念・目的の明確化と、現在の業務・組織・財政の整理明確化と改善の計画の作成をまず進め、新規業務の計画とあわせて全学の共通理解を形成すべきである。委員会運営はこうした全学共通理解の深化に資するようにされねばならない。

 

【案内】

国立大学法人化に関する講演会(主催:千葉大学)

10月24日(木)10時20分〜11時30分/けやき会館大ホール

文部科学省大学課大学改革推進室長 杉野 剛「国立大学の法人化について」