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『毎日新聞』2002年9月16日付
鹿屋体育大「待った」
◇学生700人、生き残り作戦
来月1日、筑波大と図書館情報大、山梨大と山梨医科大が統合され、国立大
学の「平成の大合併」が始まる。文部科学省は昨年、国立大の数を大幅に削減
する方針を示し、特に小規模な単科大には「待ったなし」の統合再編を迫った。
しかし、鹿屋体育大(鹿児島県鹿屋市)は、多くの単科大が総合大学への吸収
合併やほかの単科大との統合を模索する中で、単独で生きていく道を選んだ。
学生数約700人というミニ国立大の生き残りビジョンを探った。【太田浩一
郎】
◇埋没よりも「収益事業」で存続模索
◇施設生かし「指導付き」でセット商法
◇黒豚飼育、風力発電…アイデア次々
「鹿児島大と一緒になれば学生の出身地が県内に偏り、ただの国体要員養成
施設になってしまう」
鹿屋体育大の芝山秀太郎学長は、鹿児島大と統合しない理由を、こう説明す
る。
鹿屋体育大は国立唯一の体育単科大として、81年に設置された。体育・ス
ポーツ課程と武道課程があり、1学年の定員は150人。中学・高校の体育教
諭らが育っている。昨年6月に示された国立大統合の方針を受け、副学長と教
授らでつくる将来計画委員会は、まず鹿児島大との統合を検討した。
しかし、鹿児島大の学生の半数以上が県内、9割近くが九州出身者なのに、
鹿屋体大の県内出身者は1割程度。学生は全国から集まってくる。大学にも日
本全体の体育の発展に尽くすという自負があり、地域色の濃い鹿児島大との統
合は困難と判断した。
研究分野の異なるほかの単科大との統合も検討したが、県外の大学との統合
は遠すぎて難しい。ほかの分野の大学と統合すると、運動による健康増進や、
人体に極限まで負荷を掛けるなど、体育学独自の分野が埋没する恐れもある。
結局、委員会は昨年12月、「体育学独自の世界を深めていくのが発展の道」
として単独で存続する方針を決めた。
しかし、国立大は04年度には独立行政法人化される見通しで、単独で生き
残るのは容易でない。このため、同大学ではさまざまな改革を始めている。
法人化後は独自の収益事業なども可能になる。鹿屋体育大では企業や自治体
から研究を受託するほか、恵まれた施設を生かしてプロ野球やJリーグ、大学
スポーツのキャンプや競技大会を誘致し、外部資金を積極的に導入する計画だ。
学内には陸上競技場、野球場、ゴルフ練習場など計19万平方メートルのグ
ラウンドに加え、二つの体育館、屋内プール、武道館などがある。
今でも大学の野球部のキャンプなどに利用されているが、施設利用には同大
学との合同練習の形を取る必要がある。利用料も取れない。十数年前、プロ野
球の2軍からキャンプに使わせてほしいと要望があった時も、文部省(当時)
が「職業野球に教育施設は貸せない」と首を縦に振らなかった。
しかし、法人になれば、施設利用を大々的にPRし、施設と指導者、練習ノ
ウハウをセットで売り出すこともできる。
アイデアあふれる試みの中でも目を引くのが、風力による自家発電だ。鹿屋
市は一年を通して風が強く、出力600キロワットの風車を設置すれば、年間
6000万円の電力料金のうち1500万円を節約できる。約1億3000万
円と見込まれる建設費も約8年で元が取れる計算だ。
文科省は「緊急性がない」と予算化を渋っているが、土居正副学長は「国立
大では初の試み。経費節減だけでなく、観光資源としても活用したい」と、法
人化前の実現を目指している。
このほか、広い敷地を利用して黒豚を飼育したり、学内に診療所をつくって
教官の医師を勤務させるなど、同大学ではさまざまなアイデアを練っている。
授業料収入を増やすため、学生の定員増も検討している。
しかし、運営費の多くは、文科省の交付金に頼らざるを得ない。交付金は第
三者の大学評価の結果によって増減されるため、目に見える形で教育、研究の
成果を上げることが不可欠になってくる。
鹿屋体育大では鹿児島県中種子町で、高齢者のための運動プログラムを開発
するなど、高齢化社会での健康づくりに取り組むなど、独自の研究開発に力を
入れる方針で、04年度には、必要な分野に教官を弾力的に配置するため、体
育学、スポーツ科学、健康教育学など七つに分かれていた講座制を廃止。大学
院には新たに博士課程を作り、国立スポーツ科学センター(東京都北区)の研
究員を客員教授とする。学生は鹿屋で一定科目を履修した後、同センターに移っ
て研究を行う構想だ。
文科省は「鹿屋体育大は統合を協議していないと聞いているが、対応は大学
に任せている」と静観の構え。国立大学は法人化を前に6年間の中期計画を文
科省に提出することになっており、ここで各大学の取り組みが評価されること になる。 |