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独行法反対首都圏ネットワーク

☆国立大の地域貢献−岩手大・群馬大の取り組み
  [he-forum 4466] 毎日新聞09/1
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『毎日新聞』2002年9月16日付

国立大の地域貢献−岩手大・群馬大の取り組み


 ◇個別の技術相談しやすく

 地域の住民や自治体にとって「敷居が高い」という印象が強かった国立大学。
学内に蓄積された研究成果を地域に還元しようとする動きが広がっている。0
4年度にも国立大学が独立行政法人化されるのに伴い、各大学が生き残りをか
けて存在感を示す試みの一つ。大学は地域振興の“知恵袋”になれるのか。積
極的な取り組みを進めている岩手大と群馬大のケースから探った。【佐柳理奈】

 岩手大は昨年3月から今年5月にかけ、全国で初めて自治体との間で友好協
力協定を結んだ。協定先は岩手県の釜石、北上、宮古、水沢、二戸、花巻の6
市。生涯学習や環境、福祉、科学技術の振興など各市の課題に対応できるよう
協力する。

 6市のうち釜石、北上、水沢の3市では、協定締結後の活動がすでにスター
トしている。釜石市では昨年12月、市教育センター内に同大学釜石教室を開
設し、生涯学習講座や共同研究の拠点として活用。水沢市は地元農産物を活用
した商品開発などについて、農学部と共同研究している。

 北上市は地元企業の技術者を対象に連続6回の「北上サテライト講座」を開
催。金属加工や接合、機械の摩擦や磨耗などの基礎技術から応用技術までを工
学部の教官らが講義した。

 地方の中小都市には、公的研究施設がなく、中小企業も自前の研究機関を持
たないため、技術向上や知識集積に限界があった。北上市の担当者は「地元企
業にとって国立大学の敷居は高いが、市が中間に入ることで、個別の技術相談
などもしやすくなった」と喜ぶ。

 同大の地域連携が進んだのは、同大が旗振り役になって10年前に発足した
産学官民の交流組織「岩手ネットワークシステム(INS)」が背景にある。
同システムは、「地熱利用」「海洋と社会」など約30もの研究会が自主運営
され、行政、企業マンら会員は約910人(法人136)。

 具体的な成果も多く、98年に火山性地震が頻発した岩手山の防災対策には、
地盤や地質の専門家らで作る「地盤と防災」研究会のネットワークが生きた。
研究会の提言が行政側の対策会議に反映され、噴火した場合の被害を予測した
ハザードマップの全戸配布など現実的な対応策につながった。今も、県や自治
体、ライフラインにかかわる民間企業、大学関係者など約190人の会員が毎
月1回は会合を開いて活動している。

 同研究会代表で、約15年前から地域貢献の活動に取り組んできた工学部の
斎藤徳美教授は「大学は行政や民間企業に対して利害がないため、立場にとら
われない自由な発言の場を提供できる」と意義を説明する。

 日系ブラジル人など約3万5000人の外国籍住民が住む群馬県では今年度、
群馬大からの提案で官学共同の「多文化共生研究プロジェクト」をスタートさ
せた。言葉の壁を持つ外国籍児童・生徒の教育問題や、健康相談といった医療
問題などについて、総合的な対策を練り上げる事業だ。

 プロジェクトをまとめる同大の学校教育臨床総合センターの結城恵助教授は、
約4年前から、外国籍住民が集まる太田市や大泉町で、日本語の活用実態や将
来の希望など、子供の実態調査や相談活動を展開してきた。

 当初は、日本語を理解できない外国籍の子供を教えられる教員養成につなげ
ることを目指していた。ところが、子供の問題解決には親の支援が欠かせず、
教育のほか医療など各分野の横断的な対策を実施する必要性を感じたのが、プ
ロジェクト設立のきっかけだった。

 結城助教授は「多文化共生社会の問題は裾野の広い問題で、医学部や社会情
報学部の協力も必要。大学が中心になって地域の課題に取り組む意義は、幅広
い知識を生かしやすい点にある」と総合大学の利点を強調する。

 一方、同県企画課の担当者は「多文化共生は重要な行政テーマ。これまでも
大学の研究者が独自にアンケートや実態調査をしていたが、結果を行政施策に
反映する仕組みがなかった。蓄積されている研究を施策に生かす先例として成
功させたい」と期待している。

 ◇存在感示し、外部資金獲得を

 国立大学が地域貢献に取り組む姿勢を強めている背景には、04年度にも国
立大学が独立行政法人となり、各大学が特色や研究実績による差別化に迫られ
ている事情がある。大学が法人化されると、第三者の評価を義務付けられる。
評価に応じて国の交付金が算定されるほか、積極的な地域貢献を通して地元に
存在感を示すことで外部資金の獲得や共同研究につなげたい考えがある。

 神戸大の研究協力課は「産学連携だけが地域貢献ではない。自治体の歴史調
査や教育分野の貢献など人文社会系が積極的に地域とかかわって連携の底辺を
広げることで外部資金の獲得につなげることができる」と話す。

 ここ数年、学内に地域連携推進室などの担当部門を設け、組織的に地域とか
かわろうという動きが広がり、文科省も今年度、約10億円の地域貢献特別支
援事業を創設し、国立大学の地域貢献を後押ししている。

 昨秋には、地方大学を中心に28大学が「国立大学地域交流ネットワーク」
を発足させ、今夏のシンポジウムでは実践例として「市民団体や商店街と連携
したまちづくり参加」(宮崎大)▽「市民の環境教育」(信州大)などが報告
された。